第35話 えっ、潤は私のパパになりたいの?
しばらく集中して勉強を続けた結果、気付けば夕方になっていた。玲奈は途中どこかに行っていたが俺は何時間も座りっぱなしだったため体が痛い。立ち上がって背伸びをしていると玲奈が口を開く。
「今日の晩御飯は潤のために私が腕によりをかけて作るから楽しみにしておいて」
「玲奈はまともに料理なんて出来ないだろ」
玲奈の中ではサラダにドレッシングをかけただけで料理をしたという認識らしいので期待なんて出来るはずがない。
「失礼な、こう見えても調理実習とか校外活動の時に野菜を洗って切ったりもしてるから」
「……それは料理が出来るとは言わないって」
「とにかく材料もさっきスーパーで買ってきて準備もバッチリだから私に任せて」
玲奈はそう言い残すと部屋から勢いよく出て行った。心配しかないため俺はこっそりと玲奈の様子を見る事にする。
台所の様子を遠目から見ると玲奈は冷蔵庫の中から鶏肉とじゃがいも、ニンジンを取り出していた。机の上にはカレーのルーが置かれていたためカレーライスを作るつもりなのだろう。
「とりあえずお米も炊かないとね、えっと……確か炊飯器に入れれば良いんだっけ」
「おい、ちょっと待て」
炊飯器に米だけを入れてスイッチを押そうとした玲奈を見て流石にいても立ってもいられなくなった俺は慌てて止めに入る。
「ひょっとして心配で見に来たの? 大丈夫、ちゃんと料理出来てるから」
「いやいや、水も入れずに炊飯器のスイッチを押そうとした時点で玲奈に任せちゃダメな事はよく分かったから」
「あれっ、炊飯器って水を入れるんだっけ?」
「当たり前だろ、水無しで炊いても温かい生米になるだけだからな」
「そうなんだ、ちょっとドジしちゃった」
そもそもうちにある米は無洗米ではないはずなので研がずに炊飯器に入れている時点でもうおかしい。このままでは間違いなくまともに食べられる料理が出来上がらないだろう。
「やっぱりどこかへ食べに行くか出前にしないか?」
「えー、せっかく材料まで買ってきたんだから作りたいんだけど」
「……分かった、じゃあ一緒に作ろう」
玲奈は一歩も引こうとしなかったため仕方なく妥協案を提案した。俺も料理はたいして出来ないがカレーライスは一応調理実習で作った事があるため多分大丈夫なはずだ。
「あっ、それいいね。そうしよう」
「じゃあ俺は野菜の準備をするから玲奈は米を研いでから炊飯器に入れてくれ」
「うん、分かった」
それから俺は玲奈に指示を出しながらカレーライスを作り始める。野菜が上手く切れなかったりもしたがどうせ食べるのは俺と玲奈なのでその辺りは雑でも問題ないだろう。玲奈は相変わらずおかしな行動ばかりしていたがその都度俺が止めた事は言うまでもない。
てか、玲奈って母さんに頼まれて俺のお世話をしにきたはずだよな。家に来た時からずっと思っていたが俺が玲奈のお世話をしているとしか思えないんだが。
「二人で料理って何か新婚さんみたいだね」
「そうか? 俺的には手のかかる娘を世話する父親って感じしかしなかったんだが」
玲奈と結婚したやつは間違いなく苦労するに違いない。それは長年幼馴染として付き合いがある俺が保証する。
「えっ、潤は私のパパになりたいの? 潤がそれを望むなら特別にパパ活に付き合ってあげても良いけど」
「パパ活って言葉なんてマジで久々に聞いた気がするぞ」
「まあ、今の世の中だとそうだよね」
貞操逆転して以降パパ活は完全になくなりそのかわりにママ活が流行っているためそのワードを聞く事自体が久々だ。
今の世の中で女の子に大金を払ってまでパパ活をしたい男なんてもはや絶滅危惧種と言えるだろう。むしろ逆にお金を貰う側だ。そんな会話をしつつ二人で悪戦苦闘しながら料理を続けようやくカレーライスが完成した。
「やっぱり自分達で作るといつもより美味しく感じるね」
「それには同意するけど、料理したのは八割くらい俺だからな」
「細かい事は気にしちゃだめだよ」
何はともあれまともに食べられるものが完成したため安心だ。玲奈だけに任せていたら間違いなくこうはいかなかっただろう。
「食べ終わったら帰ってくれて大丈夫だぞ」
「えっ、今日は泊まるつもりで来たんだけど」
「ダメに決まってるだろ」
「でも昔はよくお互いの家に泊まってたじゃん」
「それは小学校低学年の頃の話だろ、あの頃とはもう違うんだよ」
それに貞操逆転している今、玲奈を泊めるのは普通に怖い。玲奈を信用していないわけではないが万が一があっては困る。
「それと明日はもう来なくて大丈夫だからな」
「でも明日も面倒見るように頼まれてるけど?」
「それなら明日は大丈夫って母さんと玲奈の母さんには伝えてあるから」
明日も今日みたいに勉強の邪魔をされては困るのでその辺りはしっかりと根回しをしておいたのだ。玲奈はめちゃくちゃ不満気だったが母親には逆らえないようで渋々納得してくれた。ひとまずこれで明日は大丈夫だろう。
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