第36話 玲奈先輩だけ特別扱いするのは許しません

「先輩おはようございます」


「なあ、こんな朝っぱらから一体何のようだ……?」


 朝早くからインターホンが鳴らされたのでまだ眠いのを必死に我慢しながら外に出るとそこには不機嫌そうな表情を浮かべた叶瀬が立っていた。こんな時間に叶瀬がアポ無しで家に来る時点でもう既に嫌な予感しかしないんだが。


「一昨日の勉強会の時に先輩は土日一人で勉強をしたいとか言ってたはずなのに昨日玲奈先輩と二人でイチャイチャしてたらしいですね」


「別にイチャイチャはしてないぞ」


「へー、完全に否定しなかったって事は一緒にいた事は間違ってないんですね」


「あっ!?」


 完全に失言してしまった事にようやく気付いた俺だったがもう既に時遅しだ。叶瀬はますます不機嫌そうなオーラを体から出す。


「ここだと暑いので涼しい家の中で詳しい話をゆっくりと聞かせてもらいましょうか」


「……分かったよ」


 叶瀬の圧に負けてしまった俺は仕方なく家の中に招き入れる。ひとまずコーヒーを用意して叶瀬の機嫌を取る事にしよう。


「とりあえずコーヒーを入れるからそこに座っててくれ」


「コーヒーくらいじゃ私の機嫌は直りませんよ」


 ダイニングテーブルにつきながら叶瀬はそう口にした。どうやら俺の作戦は見抜かれていたらしい。だから勉強の合間に食べようと思って買っていたプリンも泣く泣くおまけする事にした。


「じゃあ昨日のことを洗いざらい吐いてもらいましょうか」


「その前にそもそも何で叶瀬が昨日の事を知ってるんだよ?」


「こんな物的証拠があれば流石に気付きますよ」


 叶瀬はプリンを食べながらスマホの画面を俺に見せてくる。スマホにの画面にはSNSが表示されていたがそこにアップされていた写真が問題だった。


「おいおいマジか……」


 それは玲奈がカレーライスの前で自撮りしている写真だったのだが端っこの方に俺がほんのわずかだが写っていたのだ。

 偶然なのかわざとなのかは本人に聞かない限り分からないがいくら何でもタイミングが悪過ぎる。昨日勉強の邪魔をしただけに飽き足らず盛大に置き土産まで残すのは辞めて欲しいんだけど。


「私の説明も終わったので今度は先輩に説明して貰う番です、くれぐれも嘘や隠し事はしないでくださいね」


「べ、別に昨日は大した事なんて無かったぞ」


「私的には大した事あるので包み隠さず全部話して貰いましょうか」


 うん、これ以上言い訳をしても多分逆効果にしかならない。諦めた俺は大人しく昨日あった出来事を叶瀬に全て話す事にした。


「……って訳だ」


「なるほど、玲奈先輩と一緒にいたのは先輩の意思ではないと」


「当たり前だろ、母さんが余計な事をしてくれたせいで大変だったんだからな」


 そうでなければ昨日はせっせと一人で勉強をしていたはずだ。とりあえず叶瀬の聞きたがっていた事は全て話したわけだしこれで満足してくれたはずなのでそろそろ帰って貰う事にしよう。そう思ったのも束の間、叶瀬はとてつもなく面倒な事を言い始めてしまう。


「あっ、今日は一日先輩の家で過ごす予定なのでよろしくお願いします」


「いやいや、言う通り聞かれた事は全部話しただろ」


「玲奈先輩だけ特別扱いするのは許しません」


「だからそれは俺の意思じゃなかったんだって」


 今日こそは勉強の邪魔をされたくない俺はそう言って抵抗をする。すると叶瀬は俺の目の前でとんでもない事を呟く。


「そう言えば先輩って私を見て勃起しましたよね、あんまり抵抗するならあの事をうっかり誰かに喋っちゃうかもしれませんよ?」


「おい、待て。それは冗談抜きにマジでヤバいから辞めろ」


「なら今日一日は家にいても問題ないですよね?」


 ただでさえ男性の性欲が激減してそういう薬を使わなければまともに勃たない世の中になっているというのにそんな事をバラされたらただでは済まなくなる。

 性欲旺盛な女性達に三日三晩相手をさせられて衰弱死する未来しか見えない。実際に世界各地でそういう事件も起こっているらしいのでマジで笑えないのだ。


「わ、分かった。その代わり俺の勉強の邪魔はしないでくれよ、玲奈のせいで大幅に計画が狂ってるんだから」


「そこは大丈夫です、私はどこかのお馬鹿な幼馴染の先輩とは違って邪魔したり迷惑をかけたりするつもりはないので」


 さらっとめちゃくちゃディスられる玲奈に可哀想という気持ちは全くと言って良いほど湧いてこない。だって紛れもない事実だし。まあ、叶瀬なら玲奈よりも遥かに精神年齢が上なので昨日ほど悲惨な事にはならないだろう。

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