第33話 お、女の子は皆んなこうだから

 玲奈と雑談をしながら歩き続け近所のレストランに到着した。土曜日の昼下がりという事で店内には家族連れの姿が多い。俺達は店員に案内されて席につきそれぞれ食べたいものを注文する。


「あっ、分かってるとは思うけど昼飯代はきっちり割り勘だからな」


「えー、ここは潤が奢ってくれる流れじゃないの?」


「いやいや、そんな事する訳ないだろ」


 何で玲奈なんかに奢ってやる必要があるのか。ちなみに貞操逆転した今の世の中では男性のご機嫌をとるために女性が奢るパターンもかなり増えてきてるとか。


「むー、そんなんじゃモテないよ?」


「ところがどっこい、ここ最近はめちゃくちゃモテてるぞ」


「えっ!?」


 俺の言葉を聞いた玲奈は予想外と言いたげな表情で固まった。そして再起動したかと思えば全力で詰め寄ってくる。


「モテてるってどういう事? 潤は昔からモテてた事なかったじゃん」


「貞操逆転してからは俺くらいの男なら私でも付き合えるかもって女からアプローチされるようになったんだよ」


 確かに平均くらいの身長で容姿も並な俺は今までの人生でモテることなんてなかったがあくまでそれは貞操逆転する前までの話だ。

 今はワンチャン狙いな女からの標的になってしまいちょっと話しただけの女子から今度一緒に遊びたいみたいなメッセージが送られてきたりする事もよくある。

 以前までは誰でもいいからとにかくモテたいなどと思っていたが、いざ実際にモテるようになるとかなり面倒くさかった。興味が全くない女子からアプローチされても正直ときめかないし面倒なだけなのだ。


「そ、それで潤はアプローチされてどうしたの?」


「えっ、全部丁寧に断ったけど」


「ふ、ふーん。そうなんだ」


 玲奈は平静を装っていたが明らかにホッとしているように見えた。まあ、もしかしたら手が届くかもしれない異性の幼馴染に恋人なんていたらショックだよな。

 何だかんだで玲奈の事は嫌いではないので逆の立場なら多分俺も同じような反応をしたに違いない。そんな事を考えているうちに料理がテーブルに運ばれてきた。


「じゃあさっさと食べて帰ろうぜ、勉強しなきゃだし」


「潤って昔から本当に真面目だよね」


「玲奈は逆に不真面目になり過ぎだ、小学生の頃とはマジで大違いだぞ」


 小学生の時の玲奈から漢字や算数を教えてもらってあの頃が本当に懐かしい。今はちゃらんぽらんになり過ぎてもはや見る影もないし、貞操逆転してからは余計に色々残念になったし本当に同一人物か疑わしいレベルだ。


「お、女の子は皆んなこうだから」


「確かに叶瀬とかも頭は良い癖にめちゃくちゃ不真面目だな」


「こらっ、デート中に他の女の子の名前はマナー違反だぞ」


「そもそもこれがデートのつもりだった事に驚きなんだけど」


「男の子と女の子が二人きりで出掛けたらそれはデートだから」


 俺が何度反論しても玲奈はこれはデートだと言い張ったため面倒になって諦めた。こういう強引なところは昔と全く変わっていないんだな。

 それからしばらくして食事を終えた俺達は席を立って会計を済ませる。ここの会計は最初に宣言した通り割り勘だ。特に玲奈は不満そうな表情は浮かべていなかったので俺をいじりたかっただけなのだろう。


「ちょっとトイレ行ってくる」


「ああ、外で待ってるぞ」


 入り口で待っていると邪魔になりそうだったため外に出た俺だがこの選択肢が良くなかったらしい。


「あれっ、もしかして沢城? こんなところで会うなんてマジ奇遇なんだけど」


「誰かと思ったら梶原さんか」


「そうそう、私だよ。ここで会えたのも運命な気がするし、せっかくだから一緒に遊びに行かない?」


 梶原さんは女子テニス部に所属するチャラい系の同級生で去年同じクラスだった。貞操逆転前は業務連絡くらいしか話していなかったが、今では馴れ馴れしく話しかけてくる面倒な女子の一人だ。


「悪いけどテスト直前だから今日は無理だ」


「じゃあテスト終わってからでどう? それなら沢城も問題ないよね?」


「うーん、どうしようかな……」


 本当は一緒に遊ぶ気なんてさらさら無いが邪険に扱って逆恨みされても困るのでどうやって断るか毎回困ってしまう。

 貞操逆転前の女子も多分こんな気持ちになっていたんだろうな。そんな事を考えているとトイレを終えた玲奈が店の外に出てくる。


「潤お待たせ……って由花ちゃん? こんなところで会うなんて凄い偶然だね」


「……玲奈ちゃんも一緒だったんだ、私もお昼を食べに来たんだよね。じゃあ、そういう訳だから」


 梶原さんは目に見えてトーンダウンしながら去って行った。多分玲奈の機嫌を損ねるのはまずいと判断したのだろう。

 

「ひょっとして由花ちゃんから口説かれてた?」


「凄いストレートに聞いてくるな。まあ、一応はそうなるんだけど」


「あー、やっぱり。あの子は貞操逆転してからずっとあんな感じだから注意した方が良いよ」


「分かってるよ、俺も面倒ごとには巻き込まれたく無いし」


 万が一俺が貞操逆転していない事がバレでもしたら最悪だ。そうなったらどこかの研究所に連れて行かれてモルモットにされかねない。

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