第28話 さ、サラダにドレッシングをかけたのは私だから

 しばらしして職員室前に到着したため俺はノートの束を降ろし雨宮先生に電話番号を伝えた後教室へと戻り始める。

 去り際に払わなかったら体で返してもらうとぼそっとつぶやいたところ雨宮先生は中々良いリアクションをしてくれた。やはり雨宮先生をいじるのは面白い。


「あっ、先輩おかえりなさい」


「潤待ってたよ」


「……なあ二人とも何してるんだ?」


 教室に戻ると玲奈と叶瀬が俺の席を占領して当たり前のように昼食の準備をしていた。


「何ってお昼ごはんの準備ですよ」


「そうそう、お腹が空いちゃってさ」


「そんなの見れば分かる、何で俺の席なんかで食べようとしてるんだよ。もっと良さそうな場所くらい他にいくらでもあるだろ」


「ほら、やっぱり潤と一緒が良いし」


「ですです、私達は先輩を仲間外れにするほど薄情ではないので」


 いやいや、この前みたいに中庭ならまだしも教室で一緒に食べるのは周りの目が気になるから嫌なんだけど。ひとまず俺は彰人に目線で助けを求める。


「せっかく両手に花の潤を邪魔するのも悪いし、この間みたいに他のクラスの友達と食べるわ」


「待て、俺を見捨てる気か!?」


「流石にとって食われたりはしないだろ……多分」


 彰人はそんな不安になるような言葉を残して教室から出て行ってしまった。予習とか課題を忘れた時にたまに手伝ってやってたけど恩知らずな彰人にはもう助けてやらないからな。


「これで邪魔者もいなくなった事だし、お昼にしようか」


「早く座ってください」


「……分かったよ」


 彰人に裏切られ玲奈と叶瀬に逃げ道を塞がれた俺はしぶしぶ席に着く。そしてリュックサックから弁当箱を取り出そうとしていると叶瀬が俺の前に何かを差し出してくる。


「あっ、先輩のお弁当は特別に私が作ってきてあげたので今日のお昼はこれを食べてください。先輩のお弁当は代わりに私が食べるので」


「えっ、なんか怖いんだけど」


「ちょっと、可愛い後輩が手作りしてきたお弁当を見て怖いっていうのはどういう意味ですか?」


「そのままの意味だ」


 多分俺じゃなくても多分同じような反応をすると思うぞ。貞操逆転前ならまだしも今の世界の女子がこういう行動を取るという事は何か裏がある可能性が高い。

 それだけ貞操逆転した世界の女子の性欲はやばいのだ。ちなみに女性加害者が逆レイプする手口で一番多いのが料理への薬物混入だったりする。まあ、流石に叶瀬はそんな事はしないとは思うが。


「残念だけど潤は私が作ったお弁当を食べる予定になってるから」


「先輩、どういう事ですか? 玲奈先輩のお弁当は媚薬とか入ってそうなので絶対辞めた方がいいですよ」


「ちょっと、いくら何でもそれは酷くない?」


「だから叶瀬はいつも玲奈のその場で考えたような適当な嘘をすぐに信じ過ぎだって、そもそも玲奈は料理出来ないだろ」


「さ、サラダにドレッシングをかけたのは私だから」


「……それは料理を作ったとは言えないからな」


 ドレッシングをかけただけで料理を作った事になるなら皆んな料理人になれる。叶瀬も玲奈の言葉を聞いて呆れたような表情を浮かべていた。多分玲奈は叶瀬に張り合っただけだろう。


「それで先輩は私の作ったお弁当を食べてくれるんですか?」


「潤は私のママが作ったお弁当を食べるに決まってるよ」


 玲奈と叶瀬はそれぞれ弁当箱を手に持って俺の方へジリジリと迫ってくる。どちらかを必ず食べなければならないのであれば考えるまでもなく玲奈のお弁当一択だ。

 人妻であるおばさんが俺に対して何か盛る事なんて普通に考えてまずあり得ないし。だが叶瀬の事も無碍に扱う事は出来ない。


「……じゃあ、お弁当を三人でシェアしよう。それなら玲奈の分も叶瀬の分も食べられるし」


「私のも食べてくれるならそれでいいよ」


「ちょっと複雑な気分ですけどこの辺りが無難な落とし所な気がするので許してあげます」


 とりあえず危機は乗り越えたが本当にお弁当は大丈夫なのだろうか。疑うわけではないが貞操逆転した今の世界ではエロ漫画のような事件が普通に起こっているので油断は出来ない。

 まあ、もし仮に二人が本当にその気だったとしても人目の多い学校ではそんな事はしでかさないか。そう自分を納得させた俺はひとまず叶瀬のお弁当箱に箸を伸ばす。


「へー、意外に美味しい」


「おいしいって言ってくれるのは嬉しいんですけど、意外にってのはどういう意味ですか?」


「いや、叶瀬は料理とか苦手そうなイメージがあったからさ」


 勝手なイメージだが叶瀬は塩と間違えて砂糖を入れる系の飯まず女子だと勝手に思っていた。だがちゃんと美味しかったため驚いてしまったのだ。


「そのイメージは間違っているので今すぐ正しいものにアップデートしてください」


「ああ、悪かったな」


「華菜ちゃんのお弁当ばっかり食べてないで私のも食べてよ」


「わ、分かったから口に捩じ込もうとしてくるな」


 箸で掴んだ唐揚げを無理矢理俺の口に入れてこようとする玲奈を止めつつ俺はそう声をあげた。周りからもめちゃくちゃ見られてるしそろそろ勘弁して欲しい。


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カクヨムコンに応募しようと思っていましたが諸事情で見送る事にしたので普通に投稿を再開します。


現在第48話までストックがあるので毎日1話ずつ更新します、なおなろう版が先行しています。

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