第26話 ですね、せっかくエロ漫画みたいな展開になるのを期待してたのに

 ひとしきり雨宮先生をネタにして騒いだ後、俺達はようやく勉強会を始めていた。


「玲奈先輩、そこは過去形じゃなくて過去分詞系です」


「……あれっ、そうだっけ?」


 今は練習問題を解いている玲奈に対してミスを発見した叶瀬が指摘を入れている最中だ。


「なんでそんなミスをするか私にはよく理解できないんですけど。そもそも過去形は過去を表現する動詞で過去分詞は動詞が形容詞化したものって中学生の時にも一回習いましたよね?」


「えっと、確かそうだったような……」


「ちゃんと授業聞いてました? 今の理解度だとずっと寝てたって言われても正直違和感ありませんよ」


「うわーん、玲奈ちゃんが虐めてくるよ」


 叶瀬から現在進行形でボコボコにされている玲奈は俺に泣きついてくる。ちなみに叶瀬は頭が良すぎて何が分からないのか理解できないという現象が起こっており玲奈とはとにかく相性が悪かった。


「まあまあ、落ち着け。そこは俺が分かりやすく解説してやるから」


「……潤は私を虐めない?」


「女子を虐めて楽しむ趣味なんて俺にはないから、ここはだな……」


 雨宮先生をいじりまくっている事を棚に上げた発言をしてから玲奈に対して問題の解説を始める。天才タイプの叶瀬とは違って凡人の俺は努力して今の成績を取っているため玲奈がどこで躓きそうなのかは何となく分かるのだ。

 間違えやすいポイントも踏まえて丁寧に解説した事で玲奈は理解してくれた。玲奈の場合は基礎から怪しかったため叶瀬の教え方では多分無理だろう。それから勉強を続けているうちに気付けば二時間が経過していた。


「飲み物を取ってくるから休んでてくれ」


「はーい」


「先輩いってらっしゃい」


 部屋を出てキッチンに向かった俺は冷蔵庫から麦茶を取り出す。そして棚から取り出したコップに三人分の麦茶を注いだ後、お盆の上にのせて部屋へと戻る。

 すると俺の目にベッドの下を覗く玲奈とクローゼットの中に顔を突っ込んでいる叶瀬の姿が飛び込んできた。我慢できなくなった俺はすぐにツッコミを入れる。


「……なあ、お前ら二人してこそこそと何やってんの?」


「な、何ってちょっと参考書を探してただけだよ」


「そ、そうですよ。玲奈先輩がどうしても欲しいって言うので」


「ベッドの下とかクローゼットの中にはどう考えても参考書なんてない事くらい分かるだろ。それで本当は何をしてたんだ?」


 明らかにバレバレの嘘をつく二人に対して俺はそう問い詰めた。と言っても何をしようとしていたのかは大体想像つくが。


「潤がどこにエロ漫画とかを隠してるのか気になっちゃって」


「私は反対したんですよ、でも玲奈先輩がどうしてもって言うから仕方なく」


「ちょっと、華菜ちゃんもノリノリだったじゃん。ここまで来たら一蓮托生なんだから今更裏切るなんて許さないよ」


「へー、玲奈先輩なのに一蓮托生って言葉を知ってたんですね」


「もしかして今私の事をさらっと馬鹿にした?」


 二人は俺の前でそんな醜い争いを繰り広げていた。うん、性欲って人間をここまで馬鹿にするんだな。


「仲間割れしてるところ悪いんだがそもそも俺はエロ漫画なんて持ってないぞ」


「えー、絶対嘘でしょ」


「そうですよ、普通は絶対持ってますって」


 俺の言葉を聞いて納得出来なかったらしい玲奈と叶瀬は騒ぎ始めた。ちなみに持っていないというのは普通に嘘だが俺はそれっぽい理由を適当に考えて説明し始める。


「確かに以前は持ってたけど貞操逆転してからは全部処分した」


「本当ですか?」


「ああ、他の奴らも皆んなそうだから」


 貞操逆転してから男性は性欲が皆無となった関係でエロ関係のグッズが必要なくなり処分するケースが俺の周りでは相次いでいた。

 実際にイケメンなくせに実はムッツリスケベでエロ漫画を隠れて購入していた彰人も貞操逆転後は邪魔になったという理由で全部売ったらしいし。


「って訳でいくら部屋の中を探しても見つからないから諦めろ」


「本当今の世の中って夢が無いよね」


「ですね、せっかくエロ漫画みたいな展開になるのを期待してたのに」


「言っておくが間違っても俺以外にはするなよ、絶対通報されるから」


 貞操逆転していない俺だからまだ笑って許せるがもしこれが他の男子だったら間違いなくとんでもない事件になっている。下手したら体育館に集められて授業を潰した全校集会が開かれるレベルだ。


「こんな事先輩以外にはしませんからそこは安心してください」


「そうだよ、私も玲奈ちゃんも潤だからしてるわけだし」


「それはそれでちょっと複雑なんだけど」


 信頼されているのか舐められているのか判断に困るんだが。まあ、玲奈と叶瀬の事だからどっちもありそうな気がする。そんな事を思いながら休憩をし、その後はしばらく勉強会を続けた。

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