第24話 それなら私のおっぱい揉ませてあげるからさ

「じゃあ私と一緒に食べましょうか」


「残念ながら潤は私とお昼の予定だから」


 教室を出た途端玲奈と叶瀬は口々にそう声を上げ始めた。勝手にそんな主張をしている二人だが俺の意見をガン無視するのは辞めてくれないだろうか。


「てか、玲奈も叶瀬もいつも友達と一緒に食べてた気がするけどそいつらは放置していいのか?」


「先輩から心配されなくても私はちゃんと話をつけてます」


「私も性悪で邪悪な後輩から幼馴染も守るって重大な任務があったって事後報告するし大丈夫」


「だから勝手に私の事を性悪で邪悪な後輩にしないでくださいよ」


 うん、もう完全に二人ともその気らしい。片方だけを選んでも面倒な事になる未来が目に見えていたため結局三人で食べる事にした。玲奈も叶瀬も不満そうだが俺も精一杯の妥協して選んだのでこれ以上は勘弁して欲しい。


「理由は説明できませんが私は玲奈先輩とは違って先輩から深く愛されているので」


「何言ってるんだよ、私も詳しく説明は出来ないけど潤からめちゃくちゃ大切に思われているから」


 そんなふうに俺を間に挟んでお互いマウントを取り合いがら昼食をとっている二人を見つつ内心でかなり焦っていた。

 叶瀬の深く愛されていると玲奈のめちゃくちゃ大切に思われているという言葉は俺が勃起した事をぼかして言っているに違いない。

 二人とも自分だけが俺の下半身を元気にさせたというアドバンテージを持っていると思い込んでいるからこんなに強気なのだ。

 だが実際は玲奈と叶瀬、ついでに雨宮先生の前でも俺は勃起してしまっている上に今後も増える可能性だってあるのだ。

 そのためアドバンテージにすらならないのだがそれを知られたらどう考えても大変な事になる。だから他の女で勃起した事は何があっても絶対知られないようにしなければならない。


「そう言えば今日からテスト週間ですよね」


「だな、朝から憂鬱で仕方がない」


「潤も華菜ちゃんも成績が良いから心配ないでしょ、私なんて赤点ギリギリの科目があるから結構やばいんだけど」


「玲奈先輩は冗談抜きで頑張った方が良いと思いますよ、赤点なんて取ったら夏休みに補習入るって聞きましたし」


「そうなんだよね、夏休みに補習とか絶対嫌だよ」


 さっきまでバチバチしていた玲奈と叶瀬だったがテストの話題になってひとまず休戦したらしい。ちなみにうちの学校では中間テストと期末テストの合計が基準を下回ると補習が入る。

 そしてその基準は中間テストと期末テストの赤点の合計だ。つまり中間テストで赤点ギリギリの玲奈は限りなく崖っぷちに近い状況と言える。


「そうだ、潤に勉強を教えて貰えば解決じゃん。って訳で早速今日の放課後から頼むよ」


「だるいからやだ」


「そうですよ、勉強くらいちゃんと自分でやってください」


 思いつきでそんな事を言い始めた玲奈に対して俺は即座に断り叶瀬もバッサリとそう切り捨てた。これで諦めてくれれば嬉しかったのだが当然そうはならない。


「そう言わずに教えてよ」


「俺にメリットがないからやる気になれない」


「それなら私のおっぱい揉ませてあげるからさ」


 なんと玲奈はそんなとんでもない事まで言い始めた。玲奈には羞恥心という言葉が無いのかと思い始める俺だったが、そう言えば貞操逆転してるからむしろ喜んで揉ませてくれそうだ。


「無駄に大きいだけの脂肪の塊なんて揉んでも先輩にとって何のメリットもないでしょ」


「それな、貞操逆転前ならまだしも今は喜ぶ奴なんていないだろ」


 俺は平静を装ってそう答えておいた。本当は魅力的な提案だったが貞操逆転していない事がバレると非常にまずい。そんな事を考えていると玲奈は俺にだけ聞こえるくらいの小声でぼそっとつぶやく。


「……勉強を教えてくれないならあの事をうっかり誰かに喋っちゃうかも」


 どう考えてもあの事なんて一つしかない。痺れを切らしたらしい玲奈はとうとう脅迫という名の強硬手段を使ってきた。

 と言っても俺が勃起した事実は玲奈の中ではアドバンテージになっているらしいので本当にバラす可能性は極めて低いと思う。しかし万が一の事があっては困る。


「……分かった、今回だけだぞ」


「先輩、急にどうしたんですか!? あっ、もしかして変なものでも食べました?」


「母さんが作った弁当が変なものなわけないだろ」


「そうだよ、おばさんに失礼だから」


「ごめんなさい……って、そうじゃないですよ。何で突然手のひらを返したんですか?」


 やはり叶瀬は納得いかないようだ。まあ、俺が叶瀬でも先ほどの手のひら返しはあまりにも不自然過ぎて納得できないと思う。


「潤は昔から私に返しきれない恩があった事を思い出してくれたんだよ」


「じ、実はそうでさ」


 ひとまず俺は玲奈がでっち上げたであろう適当な理由に話を合わせる事にした。


「ふーん、なら私も参加します」


「華菜ちゃんは学年トップなんだから参加する必要なくない?」


 確かに叶瀬はどうせ今回も学年トップを取りそうだから俺が教える必要なんて全くない。そう思っていると叶瀬は予想外の言葉を口にする。


「違いますよ、私は教わる側じゃなくて教える側です。先輩の負担を少しでも減らしてあげたいので」


「いやいや、後輩の華菜ちゃんが先輩の私に勉強を教えるなんて無理でしょ」


「玲奈先輩が赤点ギリギリだったのって英語でしたよね、私は英検2級まで持ってるので高校二年生レベルなら大丈夫です。って訳でびしばし教えるので覚悟しておいてください」


「そんなの反則じゃん……」


 迫力が凄過ぎてとても断れそうになかったため叶瀬の参加も認めるしかなかった。

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