第2章

第23話 さっき決めたので約束なんてしてるわけないじゃないですか

 雨宮先生に振り回されてから一夜が明けて月曜日がやって来た。週明けの月曜日という事でただでさえ一週間の中で一番気が重いというのにさらに憂鬱な気分になるイベントが今日は控えている。


「おはよう潤、今日はいつもより二割増しくらいで怠そうな顔をしてるな」


「そういう彰人だって多分俺と似たような顔だと思うぞ」


「まあ、普通はそうなるか」


「ああ、テスト勉強が好きな奴なんて普通はいないだろ」


 朝学校に登校した俺は彰人とそんな会話をしていた。そう、六月の最終週に突入した今日は期末テストの範囲発表日なのだ。クラスメイト達も心なしかいつもより気怠げに見えるし多分皆んな同じ気持ちだろう。


「今日からテスト週間とか本当だるいよね」


「それな、中間で化学基礎が赤点ギリギリだったからやばいんだけど」


「紗羅が赤点ギリギリなのはいつもの事じゃない?」


「そういう玲奈だってこの前のコミュニケーション英語は赤点ギリギリだったじゃん」


「わ、私はやれば出来る子だから」


 玲奈や暁さん達クラスのヤンチャ女子軍団もそんな話題で盛り上がっていた。中学時代はそこそこの成績だった玲奈が高校に入ってからすっかりお馬鹿キャラになってしまって幼馴染としては少し悲しい。

 ちなみに俺は学年で上位三割に入っているため成績はそこそこ良い方だ。昔は玲奈から勉強を教えてもらったりしていた事が本当に懐かしい。

 そんな事を考えているうちにあっという間に朝のホームルームの時間がやってきた。教室に入ってきた雨宮先生は少しだけ気分が悪そうに見える。恐らく二日酔い状態に違いないがいくら何でもアルコールに弱過ぎるだろ。


「……みんな、おはよう。今日は知っての通り期末テストの範囲発表日だ、もう分かってるとは思うが放課後から職員室が入室禁止になるのと部活動も停止になるから注意してくれ」


 しばらく伝達事項を話す雨宮先生だったがやはり覇気が無い。暁さんから茶々を入れられても空返事だったためよっぽどなのだろう。


「なんか今日の詩乃ちゃん体調悪そうだったけど大丈夫なんかな……?」


「あっ、もしかして一晩中抜いてて寝不足とか?」


「あり得る、処女を拗らせ過ぎて欲求不満だった可能性もあるし」


 ホームルームと一時間目の授業が終わった後、ヤンチャ女子達を中心にクラスメイト達は色々と考察して盛り上がり始めた。

 勿論俺は体調不良になった理由や原因を知っているがそれを話すと昨日あった出来事がバレてしまう可能性が高いため黙っておくつもりだ。その後何事もなく二時間目の授業が終わり昼休みがやってきた。

 今日は忘れずにちゃんと持ってき弁当箱をリュックサックから取り出していると突然教室内がザワザワし始める。一体何事かと思い顔を上げると目の前に叶瀬が立っていた。


「……なんで叶瀬がうちの教室にいるんだよ」


「何でって先輩に会うために決まってるでしょ、可愛い後輩がわざわざ会いにきてあげたんだから感謝してください」


 なるほど、こいつがやってきたからクラスがざわついたのか。一年生が二年生の教室に来る事など滅多にない上に叶瀬がとびきりの美少女だから皆んな驚いたのだろう。


「じゃあ行きましょうか」


「行きましょうってどこに?」


「そうですね……中庭とかどうですか?」


「いやいや、行きましょうとか言っておいて目的地決まってなかったのかよ。てか、叶瀬はわざわざうちの教室なんかまで何しに来たんだ?」


 まずそれが全く分からなかった。確か今日の昼休みに約束などもしていなかったため本当に謎だ。


「それは先輩と一緒にお昼を食べようと思って」


「そんな約束なんてしてたっけ?」


「さっき決めたので約束なんてしてるわけないじゃないですか」


「自信満々な顔で言われてもな、そもそも俺は彰人と食べるつもりだし」


「あっ、それなら俺は他の奴らと食べるから潤なら好きにしてくれて良いぞ」


 彰人を理由にして断わろうとした俺だったがまさかの裏切りにあってしまった。彰人の奴絶対巻き込まれるのが面倒になって逃げたに違いない。


「じゃあ式波先輩の許可も貰えたって事で早速行きましょう」


 このまま叶瀬に連れて行かれる流れになるのかと思いきやここで横から邪魔が入る。


「華菜ちゃんごめんね、実は潤は今日は私と一緒に食べる予定だから」


「ちょっと先輩、どういう事ですか?」


「いやいや、簡単に信じるなよ。玲奈もさらっと嘘を吐くのは辞めろ」


 いつの間にか俺の席の前に来ていた玲奈まで参戦してきたせいで余計に面倒な事になってしまった。俺の平穏な学生生活を破壊しに掛かるのは勘弁してくれ。

 これ以上ここでやり取りを続けられると色々誤解される可能性があるためひとまず俺は二人を連れて教室から出る。もう既に手遅れになってしまった気もするが何もしないよりかは遥かにマシなはずだ。

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