第21話 そもそも棒を穴に入れた事があるかないかだけでこんなに馬鹿にされる理由が全くわからないんだが

 本屋を出た俺達は近場の居酒屋に来ていた。この辺りは繁華街なのでわざわざ車で移動しなくても飲食店は多く存在している。

 だから徒歩で十分移動できる距離だ。てか、生徒と教師が車で移動するのはどう考えても不味いためこれで良かったと思う。


「でも何で居酒屋なんですか? 俺はてっきりラーメン屋に行くと思ってたんですけど」


「確かにここは居酒屋だがラーメンがめちゃくちゃ美味しいんだよ、だから私のお気に入りでな」


 なるほど、そういう理由があったのか。ちなみに居酒屋に来るのは今日が人生で初めてだ。そう思った俺は雨宮先生をからかう事にする。


「なるほど、おかげで雨宮先生に初体験を奪われちゃいました」


「お、おい。急に何を言い出すんだ!?」


「あっ、居酒屋が初体験って意味ですよ」


「君の発言一つで私の人生が終わりかねないから本当に勘弁してくれ……」


 雨宮先生をからかって満足したところで俺達はラーメンを注文した。運ばれてきたラーメンを早速食べてみるとおすすめだけあってめちゃくちゃ美味しい。


「スープがかなり濃厚ですね」


「そうだろう、この癖になる味がたまらないんだ」


「確かに病みつきになりそうです」


 そんな会話をしながらラーメンを食べていた俺達だったがここでとんでもないアクシデントが起こる。


「これは!?」


 雨宮先生はラーメンと一緒に注文していた烏龍茶を飲んだ瞬間そう声をあげた。一体何事かと思った俺だがすぐ理由に気付く。グラスの中からは明らかにお酒の匂いがした。


「あっ、これ烏龍茶じゃなくて烏龍ハイじゃないですか」


「どうやら間違えて持ってきたみたいだな」


 顔が少しずつ赤くなり始めているためだんだん酔いが回ってきたのだろう。そんな雨宮先生の様子を見て不安になった俺は注文したコーラを匂う。


「うん、こっちはアルコールの匂いはしないので大丈夫です」


「まだ間違えていたのが私の方で良かったよ、もし沢城だったら色々と洒落にならない事になってた」


「ですね、不可抗力とは言え飲酒なんてしてたら不味かったですし」


 万が一高校に飲酒がバレたら保護者呼び出しの上に反省文レベルだ。ひとまず店員を呼んで事情を説明すると店の奥から慌てた様子の店長が飛び出してきて謝罪をしてきた。

 今回の料理代はタダで良いと言われたためある意味ラッキーだ。そう思っていたのも束の間新たな問題が発生する。何と雨宮先生が本格的に酔っ払い始めてしまったのだ。

 グラスの中に残っている烏龍ハイの量的に雨宮先生はほんの少ししか飲んでいないはずなのにどれだけ弱いんだよ。


「おい、沢城。聞いてるか? 私は処女を卒業しようと思えばいつでも出来たんだ、それをあえてしなかっただけだからな」


「今日その話を聞いたのはもう三回目ですって」


「あれっ、そうだったか?」


 さっきから雨宮先生は自分が過去にどれだけモテたのかを永遠と話し続けていたが、その節々から処女コンプレックスが感じられた。やっぱりめちゃくちゃ気にしているらしい。


「そもそも棒を穴に入れた事があるかないかだけでこんなに馬鹿にされる理由が全くわからないんだが」


「雨宮先生の言いたい事はよく分かりますが、周りから見られてるので少し落ち着いてください」


 だんだん手がつけられなくなってきたためひとまず俺は残っていたラーメンを一気に食べて居酒屋から出る事にする。


「おい、私をどこへ連れて行く気だ。もしかして夫婦やカップルが愛を育む例の場所か?」


「そこには絶対行かないので安心してください」


「こらっ、なぜ行かないんだ。私みたいな美人に手を出さないなんて男として失格だぞ」


「貞操逆転してるのを忘れたんですか?」

 

 そんな話をしているうちに雨宮先生はだんだん大人しくなっていきそのまま眠ってしまった。いくら貞操逆転していて性被害にあう危険はないとは言え、流石にこのまま放置しては帰れないためひとまずタクシーを呼ぶ。

 そして雨宮先生の財布の中に入っていた免許証を取り出し、そこに記載されていた住所を運転手に伝えてタクシーで移動した。


「雨宮先生、家に着きましたよ」


 そう声を掛けて揺さぶっては見たが起きそうな気配はない。仕方なく雨宮先生を背負って部屋の前まで移動して勝手にカバンの中から取り出した鍵を使って中に入る。

 今まで玲奈以外の女性の部屋には入った事が無かったためどんな感じか気になっていたが中は散らかっていてかなり汚かった。

 何となくそんな気はしていたが雨宮先生はかなりズボラなようだ。ひとまず俺は雨宮先生をベッドに寝かせると起きた時用の書き置きを準備した。

 これで帰っても良かったのだが部屋の散らかりっぷりを見て我慢できなくなった俺はそのまま掃除を始める。綺麗好きな俺には許せないレベルの荒れようだったのだ。

 結構時間がかかりそうな気はするがこの状態は目に余るためしっかり綺麗にしてから帰ろう。

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