第22話 その時は大変心苦しいですが社会的に死んでもらう事になります

 さっきからひたすら雨宮先生の部屋を掃除している俺だったが現在かなり苦戦中だ。雨宮先生の部屋は一言で言うなら汚部屋であり本当に酷い有様だった。

 部屋の中がこんな状態だったら絶対人なんて呼べないと思う。まあ、俺が今この場所にいる事は雨宮先生にとって想定外に違いないが。


「……それにしても雨宮先生って歳下好きなんだな」


 部屋の中にはエロ漫画も散乱していたが、そのほとんどが後輩モノやらおねショタモノばかりだった。雨宮先生の性癖が丸わかりになってしまい何とも言えない気持ちにさせられている。

 ただでさえ処女ネタでからかわれているというのに万が一こんな趣味がある事を玲奈や暁さんに知られたら確実にネタにされるだろう。

 そして男子からは軽蔑されるはずだ。雨宮先生にとって幸運だったのはたまたま俺が貞操逆転してなかった事に違いない。そうでなければ雨宮先生は少なくとも今日だけで三回は社会的に死んでいる。


「寝ている雨宮先生はめちゃくちゃ美人だし、本当勿体無いよな」


 ベッドで寝ている雨宮先生の姿をチラッと見た俺はそうつぶやいた。もし残念なところさえ無ければ元の世界で爽やかなイケメンが女の子から大人気だったように貞操逆転した今でも雨宮先生はモテていたはずだ。

 イケメンでも童貞オーラを出しまくっていれば全くモテなかったように処女オーラ全開な雨宮先生が彼氏を作る未来は残念ながら限りなく低いだろう。

 それからしばらく掃除をしているうちにようやく終わりが見えてきた。後はベッドの下に散乱している物さえ片付ければ終わりだ。そんな事を思いながら片付けていると黒い布のような何かを拾う。


「何だこれ……?」


 俺は何も考えずにぐしゃぐしゃになっていたそれを手で広げ始めたわけだがすぐその正体に気付く。


「ちょっ、何でこんなところに脱ぎ捨ててあるんだよ!?」


 それは間違いなくパンティだった。しかも明らかに着用した形跡があり、誰が履いていたのかに関しても火を見るより明らかだ。

 俺は必死に頭の中で素数をカウントして心を無にして抵抗を試みたが手遅れだった。俺の下半身は痛いほどに勃起をしてしまったのだ。

 だがこんな状況になって健全な男子が元気になるなという方が到底無理な話だろう。あっ、でも今は貞操逆転しているから健全は男子は絶対勃起なんてしないか。

 一人で激しく葛藤しているとタイミングが悪い事に雨宮先生が目覚めてしまう。ベッドから起き上がった先生は最初ぼんやりしていたが俺が手に持っていた物を見た瞬間この世の終わりのような顔になる。


「おい、どうして沢城が私の下着を……いや、そもそも何で私の部屋にいるんだ!?」


「ちょっ!?」


 雨宮先生は俺の手からパンティを奪い返そうと立ち上がるがまだアルコールが抜け切っていなかったらしくバランスを崩して倒れてきた。

 俺はそれに巻き込まれて一緒に倒れ込む。完全に雨宮先生から押し倒されたような形になったがさらにまずい事が起きる。


「……えっ、何で勃起してるんだ!?」


「き、気のせいですよ」


「なら私のお腹に当たっている固い物は一体なんだ?」


 うん、これ以上は誤魔化せそうにない。玲奈と叶瀬に引き続き雨宮先生にまでバレてしまった。いくら何でもここ数日間でバレ過ぎだろ。


「……分かってるとは思いますけど今の事は俺と雨宮先生だけの秘密ですよ」


「もしそれを破ったら……?」


「その時は大変心苦しいですが社会的に死んでもらう事になります」


「い、言わない。絶対秘密にするから」


 まだ酔っているとは言え冷静な判断力はあるらしい。今の状況を世間に知られれば破滅するのは俺ではなく雨宮先生のため震え上がるのは当然だろう。

 貞操逆転前に女性が痴漢を訴えただけで例え相手の男性が無罪だったとしても有罪になった可能性があったように、今の世界では全く逆の現象が起こっている。

 だから俺が雨宮先生から家に連れ込まれて手を出されそうになったと言えば社会的に殺すことなど容易い。勿論そんな事をするつもりは全く無いが。


「とりあえず水を飲んで大人しくしててくださいよ」


「ああ」


「あっ、それと家までのタクシー代は俺が払っておいたのでまた返してくださいね」


「分かった」


「じゃあ部屋も綺麗になって満足したので俺は帰りますから」


 俺は完全に今の状況を理解しきれていないであろう雨宮先生を残して部屋を出る。さっきのやり取りの記憶が果たして残るのかは不明だがあれだけ脅しておけば覚えていたとしても言いふらすような事はしないだろう。


「結局この土日は叶瀬と雨宮先生のせいで散々だったな」


 先日の玲奈の件もあったため三人のせいで本当に疲れてしまった。ひとまず勃起した事については一応全員に口止めをしたが本当に大丈夫なのだろうか。


「悩んでても仕方がないか」


 俺は一旦考える事を放棄して帰り始めた。多分大丈夫だ、きっとそうに違いない。実は全くと言って良いほど大丈夫では無いのだがこの時の俺はそれを知るよしも無かった。

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