第20話 ああ、俺は詩乃さんの彼氏です
「それでそのエロ漫画は買うんですか?」
「平然とした顔でそんな事を聞いてくるな……買う」
いやいや、買うのかよ。流石に買わないと思っていたためちょっと驚いた。恐らく俺にバレて開き直ったに違いない。
「やっぱり先生もしっかり女なんですね」
「悲しくなるからそれ以上言うのは辞めてくれ」
「流石に可哀想なので辞めてあげます」
そんな話をしていると突然雨宮先生が後ろから誰かに話しかけられる。
「すみません、ちょっと良いですか」
「ん、私か?」
俺と雨宮先生が同時に振り返るとそこには女性警察官の姿があった。あっ、多分雨宮先生が怪し過ぎて誰かに通報されたパターンだな。
「本屋の中を不審者がうろうろしているという通報があって駆けつけたんですよ」
「そうか、それは大変だな」
そして雨宮先生は自分がその不審者と疑われている事に全く気付いていないらしい。うん、思っていた以上に鈍感だわ。
「単刀直入に聞きますがここで何をされてるんですか?」
「ま、待て。もしかして私を疑ってるのか!?」
「そういうわけではありませんが、かなり目立つ格好をされていたので声をかけさせてもらいました」
雨宮先生はようやく自分が疑われている事に気付いてあたふたし始めた。女性警察官はそんな雨宮先生に追い討ちをかけてくる。
「それで今日ここに来た理由を教えていただきたいのですが」
「ま、漫画を買いに来ただけで……」
「漫画を買いに来るだけでそんな格好をする必要はないと思いますが、それともそんな格好をしなければならなかった理由でもあるんですか?」
完全に萎縮してしまった雨宮先生を見てだんだん可哀想になってきた俺は助け船出す。
「詩乃さんは普段からこういう服を好んで着ているだけですよ」
「そう言えばあなたはそちらの女性とはどういう関係なんですか?」
「ああ、俺は詩乃さんの彼氏です」
そんな発言を聞いて驚く雨宮先生を無視して俺はそのまま話し続ける。
「詩乃さんは二十四歳にもなってこんな服装を本気で格好良いとか思っているかなり痛い人なんですけど、中身は全然悪い人じゃないので勘弁してあげてください」
「ちなみにあなたは何歳ですか? 年齢がそこそこ離れていれるように見えますが」
「二十歳の大学生ですよ、詩乃さんはもう社会人ですけど同じ大学の先輩後輩って関係なので」
俺は色々と嘘をつきまくったが特に大きな問題は起きなかった。そのおかげで雨宮先生の不審者疑惑も無事に晴れて解放されたので結果良しだろう。
「沢城のおかげで本当に助かったよ」
「これに懲りたらもうそんな格好で外出はしない事ですね、とりあえずサングラスと帽子は今すぐ外しましょう」
「そうだな、もう職務質問は二度とされたくない。ところで何であんな嘘を吐いたんだ?」
「ああ、雨宮先生が休みの日に生徒と一緒にいたら今のご時世色々面倒な事になりそうじゃないですか。だから適当にそれっぽい設定をでっち上げて話したんですよ」
もし素直に話していたら未だに解放されていなかったはずだ。下手したら署まで連れて行かれていたかもしれない。そうなっていたらせっかくの日曜日が台無しになっていただろう。
「教師として嘘はあまり感心できないが今回だけは特別に不問にしてやる」
「偉そうな事を言ってますけどこれで倉庫の時の件と合わせて俺に対する貸しは二つですからね、返済しなかったら容赦なく取り立てるつもりなので覚悟しておいてくださいよ」
「ちゃんと返済してやるからお手柔らかに頼む」
雨宮先生は仕方ないなと言いたげな表情になった。とりあえず一件落着となったので今日の目的だったラノベの棚へ行こうとすると雨宮先生から話しかけられる。
「ところで沢城はこの後はどういう予定になってるんだ?」
「ラノベを買ってから普通に帰るつもりですけど」
「なら全然時間はありそうだな、早速借りを一つ返そうと思うんだがどうだ?」
「えっ、まさか一昨日言ってたように体で払うつもりですか?」
俺は大袈裟に怖がるような素振りをしながらそう口にした。すると雨宮先生は心外だと言いたげな表情になる。
「人聞きの悪い事を言うな、昼を奢ってやろうとしてるだけだ。それに体で払わせると言ったのは私ではなく沢城だろ」
「あれっ、そうでしたっけ?」
俺はとぼけた顔でそう話した。相変わらず雨宮先生をいじるのはめちゃくちゃ楽しい。
「またさっきみたいに職務質問されるのは嫌だから迂闊な発言はしないでくれ。それで何か食べたい物はあるか?」
「別にラーメンとかで良いですよ、教師二年目の雨宮先生の懐事情は分かってますし」
「うっ、すまない」
社会人二年目で一人暮らしをしている雨宮先生にあまり余裕がない事は知っているので回らない寿司や焼肉が食べたいなどとは言わなかった。
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