第17話 じゃあ今日から先輩は私の彼氏って事で

「そろそろお待ちかねのウォータースライダーに行きません?」


「そうだな、プールでただ遊ぶだけなのもそろそろ飽きてきたし」


「まずは短い方のスライダーから行きましょう」


 ひとまずプールから上がった俺達は短いスライダーへと向かう。そして列に並ぶ俺達だったがスライダーの距離が短く回転率が良かった事もありすぐに順番が回ってきた。


「よっしゃ行ってくる」


「先輩の姿を上から見ててあげますね」


 俺は寝転んだ体勢で勢いよくスタートする。想像以上にスピードが早かったためあっという間に着水した。着水の衝撃でちょっと海パンがズレそうになったのは内緒だ。

 貞操逆転した現在、女性達はインターネットで男性器の画像を検索して自家発電に勤しんでいるらしいので海パンがずれていたら間違いなくおかずにされていたに違いない。

 続く叶瀬も俺と同じように寝転んでいたためかなり早いスピードで下まで滑ってきた。そんなに勢いよく着水してビキニは脱げないのだろうか。


「やっぱり早いと楽しいですね、次は長いスライダーに行きましょうよ」


「分かったからさらっと手を繋ごうとするな」


「先輩のけち」


「何とでも言え」


 それから俺達は長いスライダーの順番待ちの列に並ぶ。こちらは長さがあって滑り降りるまでの時間が結構掛かるためしばらく待つ必要がありそうだ。


「そう言えば結局サボってた週末課題は昨日で終わったのか?」


「何言ってるんですか、あの量が昨日一日で終わるわけないでしょ」


「そんな自信満々な顔で言うなよ。てか、それなら俺と遊ぶのは不味いだろ」


「そもそも初めから終わらせる気がないので大丈夫です」


「全く大丈夫な要素ないじゃん、中学時代はちゃんとやってなかったか?」


 中学生の叶瀬はその辺は面倒とぼやきながらも一応やっていた記憶がある。


「高校受験と違って大学受験は内申点とか基本関係ないじゃないですか、私は省エネで生きるタイプの人間なので手を抜いても大丈夫なところは手を抜きます」


「初めから推薦入試を受ける気はゼロなのか。まあ、叶瀬の今の成績なら基本どこでも一般入試で行けそうな気はするけど」


「ですね、私って賢いですし」


 課題をサボりまくっている癖に成績は中学時代に引き続き学年トップだから本当にタチが悪い。先生達が頭を抱えている姿が容易に想像出来てしまう。

 そんな会話をしているうちに列はどんどん進んでいき遂に俺達の順番が回ってきた。先程海パンがズレそうになったため俺は寝転ばず普通に滑るつもりだが叶瀬は相変わらず寝転んで滑るらしい。

 先にウォータースライダーを滑り終えた俺がプールサイドから叶瀬が滑ってくる様子を見ていると着水のタイミングでとんでもないハプニングが起こってしまう。


「マジか!?」


 なんと叶瀬が身につけていた黄色いビキニの上半身部分が滑り終わってプールに着水した衝撃で外れてしまったのだ。


「あらら、外れちゃった」


「何呑気な事言ってるんだよ、丸見えだから今すぐ胸を隠せ」


「そんなに慌てなくてもいいじゃないですか、貞操逆転した今の世の中で女の胸を見て興奮する人なんていないんですから」


 大した事ではないと言いたげな顔でそう口にした叶瀬だったが俺の方を見た瞬間驚いたような表情になる。


「えっ!?」


 叶瀬の視線は俺の下半身に向けられていた。そこで俺はようやく自分がやらかしてしまった事に気付く。俺は叶瀬の胸を見て無意識のうちに勃起してしまったのだ。

 海パンの上からもっこりしている事が丸わかりになってしまっているためどう言い訳をしてもこれは誤魔化せようがない。


「……先輩それ」


「と、とにかく今は早く外れたビキニを探してこい」


 俺はひとまず叶瀬にそう命令した。その後ビキニを回収して元の姿に戻った叶瀬は俺に対して質問をしてくる、


「もしかしてさっき勃起してましたよね?」


「叶瀬の気のせいじゃないか……?」


「いいえ、絶対に勃起してました」


 誤魔化す作戦は通用しなかったらしい。叶瀬はギラギラした表情で俺を見つめてくる。


「私を見て勃起したって事はそういう事で良いですよね?」


「……えっと、どういう事だ?」


 俺は思わず叶瀬にそう聞き返した。まさか貞操逆転していない事がバレてしまったのか? もしそうだとしたら非常に不味い。


「先輩が私を好きって事ですよ」


「ああ、なるほど……」


 流石の叶瀬でも俺が貞操逆転していないという発想にはならなかったようだ。ひとまず安心だが状況が悪い事には変わりない。玲奈に続き叶瀬の前でも勃起してしまい挙げ句の果てにバレてしまった。


「じゃあ今日から先輩は私の彼氏って事で」


「いやいや、そうはならないだろ」


「でも私を見て勃起しましたよね?」


「確かにそれはそうだけどさ」


 実は叶瀬と付き合う妄想をした事があるため受け入れたい気持ちもあったが下手に誰かと付き合うと貞操逆転していない事がバレる可能性がある。

 そのため今の俺には断るという選択肢しか取れない。そのため俺は叶瀬と付き合えない理由を適当にでっち上げる。


「実は気になってる人がいてさ、だから叶瀬とは付き合えないんだよ」


「……もしかして玲奈先輩ですか?」


「いや、玲奈ではない」


「なら、誰なんですか?」


「それは秘密だ」


 俺としてはさっさとこの話を切り上げたいのだが叶瀬が食い下がってくるため中々終わらせられない。


「ちなみにその人を見て勃起しましたか?」


「いや、してないけど」


「ならこれ以上聞くのは許してあげます」


 そこまで言って叶瀬はようやく追求を辞めてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る