第18話 えー、絶対今の世界の方が良いでしょ
ウォータースライダーのトラブルの後、俺達は昼食を適当に済ませてからジャグジーに来ていた。先程の事がまだ頭から離れない俺に対して叶瀬は何事もなかったかの様子だ。
やはり貞操逆転してしまったこの世界では俺が上半身を見られても恥ずかしくないように女子の叶瀬は胸を見られても全く気にならないらしい。
「温かくて気持ちいいですね」
「ああ、ここ最近の疲れが一気に吹き飛びそうだ」
「何おじさんみたいな事を言ってるんですか」
「叶瀬もこの歳になれば分かるから」
「私と先輩って一歳しか違わないでしょ」
そんな馬鹿な雑談で盛り上がりつつ俺達は二人揃ってまったりしていた。貞操逆転してから特に今まで大きなトラブルは起きてなかったというのにこの数日で一気に色々な事があって俺は凄まじく疲れさせられたのだ。
そろそろリラックスして疲れを取らないと倒れてしまう自信がある。それはそれで学校をサボれてラッキーだなと一瞬思ったが、よくよく考えたらかなりまずい。
病院に入院する事になれば毎晩欠かさずやっている自家発電が出来なくなるのだ。もし病室でやっているのがバレたら飢えたナースから襲われるというエロ漫画みたいな展開になる可能性がある。
「マジでやばいよな」
「何がやばいんですか?」
「い、いや。何でもないぞ」
うっかり言葉を口に出してしまった俺は慌ててそう言い訳をした。だが明らかに不自然だったため叶瀬は怪しみ始める。
「もしかして私に何か隠してます?」
「……別に何も?」
「大人しく白状した方が早く楽になれますよ?」
「おい、やめろ」
叶瀬は俺の方にジリジリと迫ってきた。横にスライドしながら逃げる俺だったが気付けば壁際でこれ以上逃げ場がない。
「さあ、先輩の隠し事を白状してください」
「い、いやさっき買ったラッシュガードの値段がやばいってだけだから」
俺は咄嗟にそう言い訳をした。すると叶瀬は哀れみと呆れが半分ずつ入ったような視線を向けてくる。
「とうとう先輩も貞操逆転ビジネスの被害者になったんですね、どんまいです」
「そうなんだよ、実は恥ずかし過ぎてそれを叶瀬に知られたくなくてさ」
ラッキーな事に勝手に勘違いしてくれたため俺は話を合わせる事にした。ちなみに貞操逆転ビジネスとは以前の価値観を悪用した商売の事だ。
例えば貞操逆転してから男性は胸を見られる事に嫌悪感を覚えるようになったためプールなどではラッシュガードを着るのが普通だがそれを忘れてくる者も割と多い。
何故なら以前はそんな習慣なんてなかったからだ。しかし今の価値観では俺のような例外を除きラッシュガードを着ないなんて事はまずあり得ないだろう。
だから忘れてきたら俺みたいに現地で買うしかなくなるのだがその価格設定はぼったくりと言いたくなるくらいには高い。
だが買わなければプールに入れないため泣く泣く買うしかないというわけだ。まあ、多分そのうち規制されるとは思うが。
「マジで元の世界に戻ってくれないかな……」
「えー、絶対今の世界の方が良いでしょ」
「下心丸出しで見られる俺の身にもなってくれ」
「でも元の世界に戻ったらまた私みたいな女の子が危なくなるじゃないですか」
「それは確かにそうだけどさ」
叶瀬は小柄で非力なため大柄な男に襲われたら多分抵抗できないに違いない。それを考えたら叶瀬的には今の世界の方が絶対に生きやすいだろう。
「そろそろジャグジーも満足したので今度はサウナに行きません?」
「そうしようか」
「じゃあ行きましょう」
「何度も言ってると思うけど手を絡めてくるな」
相変わらずさらっと恋人繋ぎをしようとしてくる叶瀬に俺はそう言い放った。叶瀬はどれだけ俺と手を繋ぎたいんだよ。
それからサウナへと行き、しばらくしてまたプールに戻って遊んだりしているうちにあっという間にかなりの時間が経過した。
「いっぱい遊べて楽しかったですね」
「だな、もう当分プールは大丈夫ってくらいには遊んだし」
プールから出た俺達は着替えてからロビーでジュースを飲んでくつろいでいる。かなり久々に泳いだため明日は筋肉痛になりそうだ。
「この後はどうします?」
「えっ、普通に帰るつもりだったんだけど」
「何言ってるんですか、時間もまだまだあるんだから帰しませんよ」
叶瀬は平然とした表情でそう口にした。どうやら叶瀬は遊び足りないようだ。
「ちなみに叶瀬はいつまで俺を連れ回すつもりだ?」
「うーん、明日の夜までとか?」
「いやいや、それは流石に駄目だろ」
「ちなみに今日の夜はパパもママも用事で家にいないんですよね、だから私の家でお泊まりとかどうですか?」
「さらっとお持ち帰りしようとするな」
ホイホイ家について行ったら何をされるか分かったものではない。結局お持ち帰りはされなかったもののしっかり夜まで叶瀬に付き合う羽目になった。
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