第15話 決して目の保養がしたくて行くわけではないですからそこは誤解しないでくださいね

「先輩おはようございます」


「……ああ、おはよう」


「めちゃくちゃ眠そうな顔をしてますね」


「だって眠いし」


 普段の土曜日よりもかなり早い時間に起きたため眠いのは当然だろう。あまりにも眠すぎてもう既に家に帰りたい気分だった。


「せっかくのデートなんだからもっと元気出してくださいよ」


「えっ、これってデートなのか?」


「男女が二人で遊ぶんだからデートでしょ、今回は玲奈先輩の邪魔も入らないと思うので楽しみです。って訳で早速行きましょう」


「分かったからナチュラルに手を繋ごうとするな」


 そんな会話をしながら俺達は駅のホームへと移動をする。今回の集合場所は駅前にしていたためホームまではすぐだった。


「てか、何で今日は東京アクアランドへ行こうと思ったんだ?」


「ほら、最近めちゃくちゃ暑いじゃないですか。だからプールに入って涼みたいって思ったんですよ」


「確かにまだ五月なのにもう既に夏みたいな暑さだもんな」


 昨日もそうだったが今日も真夏日らしく最高気温は三十度を超えるらしい。ちなみにプール開きは六月くらいだが東京アクアランドは屋内プールのため年中楽しめる。だから今日みたいな日にはピッタリだ。


「決して目の保養がしたくて行くわけではないですからそこは誤解しないでくださいね」


「叶瀬は三次元より二次元の方が抜けるとか前言ってたし、一応信じてやるよ」


「そんな信じ方をされるのはちょっと複雑なんですけど」


 それから俺達はホームにやってきた電車に乗って移動をし始める。そして電車で数駅移動して降りて五分ほど歩いたところで東京アクアランドに到着した。


「思ったよりも人が多いですね」


「だな、俺達と同じような考えで皆んな来てるのかもな」


「じゃあ私はこっちなので、くれぐれも女子更衣室を覗かないでくださいよ」


「言われなくても絶対そんな事しないから」


 今の世の中では女子更衣室に侵入したり盗撮しようとする男性は絶滅危惧種になっている。逆に関しては爆増しているが。

 そんな事を思いながら俺は叶瀬と別れて男子更衣室へと入る。そして水着に着替えようとする俺だったが忘れ物をしてしまった事に気付く。


「あっ、ラッシュガードが入ってないじゃん」


 貞操逆転してから男性は肌を女性に見られる事に強い嫌悪感を抱くようになったらしくほとんどがラッシュガードを身に付けている。

 そのため俺も準備していたのだがリュックに入れるのをすっかり忘れていたらしい。一応外の売店で売っていたのを見たためお金を払えば今からでもまだ間に合うがそこまでする気にはなれなかった。


「まあ別に無くてもいいか、ぶっちゃけ俺は全然気にならないし」


 元のままの俺はどれだけ女性から見られたとしても不快にはならない。そんな軽い気持ちで更衣室を出てシャワーを浴び、そのままプールサイドに出る俺だったがすぐに後悔する事となる。


「……いやいや、これはやばい」


 プールサイドに出た瞬間、全方向から凄まじい視線を向けられた。言うまでもなく俺に向けられている視線の主は全部女性だ。

 プールには幅広い年齢層の女性達がいたが小さい子供や高齢者など性欲が無さそうな層以外は俺の事をガン見している。

 貞操逆転してからプールに来るのは初めてだったため正直舐めていた。外の売店でラッシュガードを買わなければまずい。そう思って更衣室へ戻ろうとしていると後ろから声をかけられる。


「もしかして欲求不満なん? それならうちらが相手をしてあげるからついてきなよ」


「ホテル代は私達が出すからさ」


 俺に声をかけてきたのは派手な髪色をしてたくさんのピアスを耳につけた、いかにも遊んでそうな二十代後半から三十代前半くらいのギャル二人組だった。


「い、いや別にそういう訳ではないんですけど」


「いやいや、その格好は絶対誘ってるって。本当はエッチしたくてたまらないんでしょ」


「絶対満足させてあげるから一緒に行こうよ」


 ギャル二人組は目をギラギラさせておりまるで飢えた獣のようにしか見えない。逆ナンというシチュエーションには昔から憧れがあったが今は普通に怖かった。

 恐怖のあまり完全に固まっていると俺達の間に誰かが割って入ってくる。その人物の正体は叶瀬だった。


「あのー、私の先輩に手を出そうとしないで貰えます?」


「お前誰だよ」


「良いところなんだから邪魔しないでくれない?」


「高校生が年増おばさんの相手なんてするわけないでしょ、寝言は寝てから言ってくださいよ」


 思いっきり煽られて逆上し始めるがそれは叶瀬の作戦だったらしい。騒ぎを聞きつけてやってきた屈強なスタッフにギャル二人組は連行されていった。これで一安心と思っていると叶瀬が凄い剣幕で話しかけてくる。


「ラッシュガードも着ずにプールサイドに出てくるなんて先輩は馬鹿なんですか? こうなる事くらい分かるでしょ、とにかく今すぐラッシュガードを取ってきてください」


「わ、分かった」


 叶瀬の迫力に圧倒されてしまった俺はそう答える事しか出来なかった。

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