第14話 そんな事を言われても全然嬉しくないんだが
「それで雨宮先生と潤はなんであんな事になってたんですか?」
「ずっと座りっぱなしで足が痺れてたのに我慢して立ったらバランスを崩したんだ……」
「相変わらずドジっ子なんですね」
「こら、クールな私のイメージが崩れそうな事を言うのは辞めろ」
「……色々とツッコミたい事もありますけど、ひとまず今の話を信じてあげますよ」
雨宮先生の言葉を聞き終わった呆れたような表情になった。クールキャラぶっている雨宮先生の中身が非常に残念という事はクラスメイトなら皆んな知っている。
「本当か……?」
「だって二十四歳にもなって未だに処女を拗らせてる雨宮先生が潤を襲うような勇気なんてとてもあるとは思えませんし」
「そんな事を言われても全然嬉しくないんだが」
「まあ、とりあえず誤解も解けて無事に外にも出られたって事で今回は一件落着にしましょう」
俺は雨宮先生の肩を叩きながらそう口にした。やっと外に出られたためこれでようやく家に帰れる。
「そう言えば玲奈は何でこの辺をうろうろしてたんだ? 何か用事でもないと基本的にこんなところなんて来ない気がするんだけど」
「部活で練習してたら急にムラムラしちゃったから頭を冷やすために外を歩いてたんだよね。適当に歩いていたからこの辺りに来たのは本当にたまたま」
「……そんなくだらない理由だったのか」
「でも私がムラムラしてたおかげで潤と雨宮先生を助けられたんだからしっかり感謝してよ」
玲奈は自信満々な表情をしていた。俺の中にあった貞操逆転前の玲奈の美人な幼馴染像がどんどん崩れていく。もう嫌だ、この世界。
「てか、雨宮先生は早く職員室へ戻った方が良いんじゃないですか? 学年主任の
「やばい、今日中に職員会議の議事録を出せって言われてたんだった。って訳で私は戻るから二人とも気をつけて帰るんだぞ」
「あっ、雨宮先生スカートが何かに引っかかって色々と大変な事になってますよ……って、全然聞いてないな」
全力疾走をする雨宮先生の後ろ姿を見た俺はそう声をあげたが多分耳に入っていない気がする。パンティ丸出しで校内を走るなんて雨宮先生も中々チャレンジャーだな。
多分職員室に戻ったら他の先生から色々な意味で大目玉を食らいそうだ。雨宮先生には本当に強く生きてもらいたい。
「私もそろそろ部活の練習に戻るね」
「ああ、頑張れよ」
「あっ、さっきの雨宮先生をおかずにして抜いちゃ駄目だからね。私だったら別に良いけど」
「そんな事しないから安心しろ、てかさらっとセクハラ発言をするな」
「ごめんごめん、じゃあまたね」
玲奈はそう言い残して俺の前から去っていった。それから俺は教室に戻って机の上に置きっぱなしにしていたリュックサックを背負う。そして靴箱へ向かっているとかなりげっそりした表情の叶瀬と遭遇する。
「あれっ、叶瀬がこんな時間まで学校にいるって珍しいな」
「あっ、先輩。実は職員室に連れて行かれて今までやってなかった週末課題をさせられてたんですよ、いくら何でも酷くないですか?」
「いやいや、完全に自業自得じゃん」
「へー、先輩は可愛い後輩に向かってそんな冷たい事を言うんですね」
「だって事実だし」
俺は膨れっ面になってジトっとした目で見つめてくる叶瀬に向かってそう言い放った。
「てか、先輩こそなんでこんな遅い時間まで学校にいるんですか? 普段の先輩ならもう帰ってると思うんですけど」
「雨宮先生の手伝いをしてたら色々とトラブルに巻き込まれたんだよ」
「あっ、それでさっき雨宮先生は二年生の学年主任から怒られてたんですね」
「やっぱりか……」
案の定職員室に戻った雨宮先生には雷が落ちたようだ。今日という日は雨宮先生にとっては凄まじい厄日だったに違いない。
「今日はお互い災難だったという事でこれから二人で慰め会でもしませんか?」
「嫌だよ、面倒だし」
「えー、良いじゃないですか。せっかくの金曜日ですよ?」
「マジで今日は疲れたから」
叶瀬に付き合ったらただでさえ疲れている体がさらに疲れるに決まっている。だから俺は叶瀬の提案を速攻で拒否をしたのだ。
「それなら明日はどうですか?」
「明日もだるいからパスで」
「この間杜の街テラスで迷惑をかけたお詫びって事で私が全部奢りますから行きましょうよ」
諦めきれなかったらしい叶瀬は俺に密着しながらお願いをしてくる。貞操逆転して性欲が枯れている他の男子とは違い元のままな俺にはあまりにも効果抜群だった。これ以上続けられると下半身がやばい。
「わ、分かったからあんまりくっ付いてくるな」
「やったー、じゃあ明日はお願いします。また詳しい事はLIMEで送るので、くれぐれも既読無視とかはしないでくださいよ」
さっきまでの疲れ切った表情とは一転して明らかに元気な表情を浮かべながら去って行った。叶瀬は本当に単純な奴だ。こうして俺の明日の予定が一つ強制的に決まってしまった。
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