第12話 もう我慢できない、すまないが私は脱がさせてもらう

「それでこれからどうします?」


「そうだな、電話もスマホが無いから出来ない上にこの辺は人通りも全くないから叫んでも多分無駄な気がするし……」


「えっ、じゃあ割とマジで出られなくないですか?」


 さっきまで雨宮先生を揶揄う余裕のあった俺だが自分達の置かれた状況が不味い事をようやく認識し始めた。


「一応夕方くらいには鍵が閉まってるのかの確認を用務員さんがしてるはずだから最悪その時には出られるとは思うぞ」


「まだかなり先じゃないですか、今すぐ出たいんですけど」


「それは私も同じだがこの状況でこれ以上出来る事なんてないしな。それにもしかしたらいつまで経っても職員室に戻らない私を他の先生が探してくれるかもしれないから大人しく待とう」


 どうやらかなり諦めが良いタイプらしい。雨宮先生は近くにあったダンボールに腰掛けて座る。逆に諦めの悪かった俺は何か他に出る方法がないか倉庫内を探してみたが結局何も見つからなかった。


「てか、この中結構暑いですね」


「だな、飲み物も一緒に持ってくれば良かった」


「それならスマホを持ってきてくださいよ」


「それは間違いない」


 そんな会話をしながらしばらく待つ俺達だったが一向に助けが来る気配は無い。汗のせいでワイシャツが濡れて気持ち悪くなり始めた俺だったがそれは雨宮先生も同じだったようで不快そうな表情を浮かべている。


「もう我慢できない、すまないが私は脱がさせてもらう」


 雨宮先生は俺の目の前でブラウスを脱ぎ捨てて上半身下着姿になった。貞操逆転してから女性が人前で下着姿の上半身を晒すのは割と普通の光景だが元のままの俺には刺激が強過ぎる。


「ちょっと、そのくらい我慢してくださいよ」


「すまないが限界だったんだ、それより沢城はどうしたんだ? さっきより顔が赤いように見えるが」


「暑さのせいですから気にしないでください」


 本当は雨宮先生の下着姿を見て興奮させられた事が原因だがそんな事は口が裂けても言えない。


「……てか、今の状況を誰かに見られたらめちゃくちゃ不味くないですか?」


「どうしてだ?」


「男女二人きりの状況で片方が下着姿ってこれからそういう事をするつもりと勘違いする人がいてもおかしくないと思うんですけど」


「!?」


 俺の言葉を聞いた雨宮先生はようやく事態の深刻さに気付いたらしく明らかに慌て始めた。少し考えれば分かる事だが多分雨宮先生は暑さのせいで頭が働いていなかったのだろう。

 言うまでもなく男子生徒に手を出せば確実にアウトなわけだし、よりにもよってここが学校の敷地内という事を考えれば尚更だろう。

 貞操逆転前であれば女教師が男子生徒に手を出す事なんてまずあり得なかったが今の世の中は違う。疑われただけでも雨宮先生にとって大ダメージになってしまう事は確実だ。


「ありがとう、この歳で社会的に死ぬところだったから助かった」


「どういたしまして」


 俺はブラウスを着直す雨宮先生の姿を見ながらそう口にした。本当は雨宮先生が下着姿のままだとムラムラさせられて下半身が元気になる可能性を排除するための行動だったがそれは秘密だ。


「じゃあさっきのお礼代わりに質問をしたいんですけど雨宮先生って何で処女なんですか?」


「さらっと私のメンタルをえぐってくるような質問は辞めろ……処女を卒業する機会を逃したからだよ」


「えー、今の世界ならともかく前なら雨宮先生とそういう事をしたいって思ってた男くらいたくさんいたと思うんですけど」


 残念なところがあるとは言え美人で身長百七十四センチほどあってスタイル抜群な雨宮先生なら絶対貞操逆転前はかなりモテたと思うのだが。


「確かに高校生や大学生の頃には付き合っていた彼氏も一応いたが、別に私はそんなにやりたいと思ってなかったから断り続けてたんだよ。まあ、それが原因でフラれたんだがな」


「へー、雨宮先生にも二次元以外の彼氏がいた事があったんだ」


「だからさらっと私のメンタルにダメージを与えるのは辞めろ」


「その結果が今なんですね」


「ああ、おかげで二十四歳処女ネタで暁達から揶揄われる羽目になってるのは沢城も知っての通りだ」


 雨宮先生はほんの少し悲しげな表情を浮かべていた。ちなみに今の世の中で二十代以上の処女はネットなどでかなり馬鹿にされていたりする。

 インターネット掲示板などには貞操逆転する前なら簡単に処女を捨てられたはずなのにそれが出来なかった奴らは本当に情けないという内容のレスがよく書き込まれているほどだ。


「今の世界の方が生きやすいって女性もいるらしいが、私的には元の世界に戻って欲しいよ」


「それには俺も同感です」


 貞操逆転物のエロ漫画が好きだった俺は最初この世界ならハーレム作れるじゃんなどと考えていたわけだがすぐにそれが無謀だと気付いた。

 一回イケば終わりな男性とは違って何度でもイケる女性の相手をし続けるのはどう考えても無理だ。ハーレムなんて作ってしまった日には間違いなく相手のし過ぎで腹上死していたに違いない。

 それにハーレムが原因で俺だけ貞操逆転していない事がバレればどこかの研究所に拉致されて人体実験されていた可能性も普通に考えられた。だからマジで元の世界に戻って欲しい。

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