第11話 ほら、真面目そうな奴ほど実はドスケベだってよく聞くし沢城も不真面目なのかと思って

 昼休みに購買で雨宮先生と絡むというイベント以降は特段何事も起こらず気付けば放課後になっていた。俺は学級日誌を書き始める。

 毎回日直になるたびに学級日誌の感想内容で頭を悩ませる俺だったが、今日は雨宮先生の授業が無くてめちゃくちゃ悲しかったと書いてみた。

 読んだ時に雨宮先生がどんな反応をするか楽しみだ。それから黒板を消して花瓶の水を変えた後、俺は教卓の上に重ねられていたクラスメイト達の提出物を持って職員室へと向かう。


「雨宮先生、学級日誌と提出物を持って来ましたよ」


「なんだ、今日の日直は沢城だったのか」


「じゃあ用事も済んだので俺はこれで」


「あっ、ちょっと待ってくれ」


 雨宮先生の机の上に学級日誌と提出物を置き終わった俺が帰ろうとしていると呼び止められた。


「どうしたんですか?」


「実はあれを運ぶのを手伝って欲しいんだ」


 そう言って雨宮先生は入り口の方に置いてあったダンボールを指さす。そこそこ大きいが一体が入っているのだろうか。


「中には何が入ってるんですか?」


「あの中には結構昔の赤本が入っているんだが、もう古くて使わなくなったらしくて倉庫に運んでくれと言われてな。私一人では大変だから手伝ってくれそうな男子を探してたんだよ」


「なるほど、流石に女性の雨宮先生一人で全部運ぶのはキツそうですね」


「ああ、私が若いからって理由でこき使われてるから本当に大変なんだぞ」


 雨宮先生はそんな愚痴をぶつぶつとつぶやいていた。まあ、去年大学を卒業してまだ二年目の雨宮先生が雑用を押し付けられるのは無理もない話だろう。

 ちなみに貞操逆転してから男性は女性に対してあまり気遣わなくなったらしいので下心を持って雨宮先生を手伝おうとする人もいなかったらしい。

 ひとまず俺と雨宮先生はそれぞれダンボールを手に持って倉庫へと運び始める。職員室から倉庫まではそこそこ距離があるため運ぶだけでも一苦労だ。


「……重いせいでめちゃくちゃ疲れますね」


「……だろ、そのせいで誰もやりたがらなかったから私に白羽の矢が立ったんだよ」


 しばらく二人で歩き続けてようやく倉庫の前へと到着した。倉庫は校舎からも離れた位置にあるため普段は中々こんな場所には来ない。


「あれっ、鍵が空いてるじゃないか」


「誰かが閉め忘れて帰ったんですかね?」


「かもしれないな。まあ、鍵を開ける手間も省けたしさっさと中に運ぼう」


「分かりました」


 俺と雨宮先生は倉庫の扉を開けると中にダンボールを持って入る。手前には置けそうなスペースが無かったため奥の方に置く。


「よし、これでオッケーだ。沢城のおかげで助かった」


「いえいえ、今回頑張ったご褒美も楽しみにしてますね」


「そんな話は一言もしてなかった気はするが、何かしら用意しておこう」


 運び疲れた俺達がそんな話をしながら座って休憩をしていると入り口の方からバタンという重い扉の閉まる音とガチャっという鍵がかかるような音が聞こえてきた。


「……なあ、鍵が閉まるような音が聞こえてきたのは私だけか?」


「俺も聞こえたような気がします」


「ひょっとして私達、閉じ込められた……?」


「とりあえず確かめましょう」


 嫌な予感がしたため慌てて開けようとする俺と雨宮先生だったが、どれだけ頑張っても目の前の扉は開きそうにない。


「本当に閉まってるな」


「俺と雨宮先生が中にいる事を一切確認せずに閉めたみたいですね」


「どこの誰が閉めたかは知らないがちゃんと確認してくれないと困るんだが」


「これって中からは開けられないんですか?」


「外からじゃないと開けられないんだよ」


 おいおいマジかよ。せっかくの金曜日なのに倉庫に閉じ込められるとか最悪過ぎるんだけど。


「あっ、そうだ。先生はスマホ持ってますよね、それで助けを呼んでくださいよ」


「残念ながら今は机で充電中だからない、逆に聞くが沢城は持ってないのか?」


「いやいや、学内では使用禁止で基本カバンから出せない事は雨宮先生も知ってるでしょ」


 だから俺のスマホは現在教室にあるリュックサックの中にある。


「なんだ、沢城はちゃんと真面目なんだな」


「ちゃんとってどういう事ですか? 俺は割とルールは守ってる方だと思いますけど」


「ほら、真面目そうな奴ほど実はドスケベだってよく聞くし沢城も不真面目なのかと思って」


 雨宮先生はさらっとそんな言葉を口にした。確かに真面目そうなクラス委員長の白石さんも玲奈曰く凄まじいむっつりスケベらしいのであながち間違ってはいない気はする。


「言いたい事は分かりましたけど、今の発言は普通にセクハラになりますよ」


「おっとすまない、つい口が滑った。忘れてくれ」


「仕方ないですね、なら貸しイチって事にしときます。ちなみに踏み倒そうとしたら雨宮先生の体で払って貰いますから」


「おい、それってどういう意味だ!?」


「どういう意味だと思います?」


 明らかに動揺し始めた雨宮先生にそう聞き返すとさらにあたふたし始めた。相変わらず雨宮先生を揶揄うのは面白い。

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