呪術巫女様、正義なう。~主を封印された巫女さんは、「正義」を見直すための旅に出るのでした!~

イズラ

#1「殺す者」

 ――しき者を消し去ることで、正しき世を築く――。思想のもと、呪神祀りし神社を建てる者がいた。――日﨑皿ひざきのさら。呪詛によって大勢の人間を殺し、『生悪霊しょうあくりょう』とも呼ばれた彼女が存在したのは遠い昔。――平安の世。

 これは、平安から約1000年後――平成の物語である。


 * * *


 今朝も、少女は呪殺した――。


 ある過疎地域の森奥に建つ『咒我じゅが神社』の巫女は、しばしば『呪殺』の依頼を受ける。

 電話・問い合わせでの予約はナシ。――直接依頼のみが、『呪詛サービス』の利用条件である。もちろん神社の存在をおおやけに晒そうとする者には、『呪罰じゅばつ』によって死が降りかかる――。


「……ナゼわざわざ広めようとするのか。自分が死んでまで悪人を救いたいの……?」

 独り言を呟きながら縁側沿いの廊下を歩くは、咒我じゅが神社の巫女――日﨑有理処ひざきありか。黒い髪をひとつ結び。卑屈な黒い目をギロギロと動かす、彼女の本職は『呪詛・呪殺』。――儀式によって遠隔で人間を殺し、依頼人から報酬を受け取る――。


「……『規約違反』って言ってる。自殺なら他所よそでやれよ……」

 居間のふすまに手をかけた

 ――その瞬間、『黒いモノ』が彼女の肩に手をかけた――。

 「え?」という声すら出ない。――有理処は硬直したまま、必死に思考を回転させる。

〈……そんなはずはない。『呪罰のやく』がある。だから、秘密は誰にも話せないはず――。――まさか……〉

「――あなた、日﨑有理処さん?」

 透き通った女性の声だった。

 有理処はやっと体の向きを変え、その正体をる――。

 180cmほどの高身長。表情は微笑み。白い髪は腰まで伸び、前髪は均等に垂らしてあった。清楚さに対して服装はモダンであり、黒パーカーにジーパン、頭には黒いキャップを被っていた。

「…………カミサマ、ホトケサマ……?」

 かすれた声に被せるように、神は有理処に尋ねる。

「ねぇ――、『呪詛サービス』って、――何?」

 ニコニコとした表情からは、とんでもないほどの『殺気』が漏れ出ている。恐らく返答次第では、この場で斬首されることは確定だろう――。

「…………はい。……呪詛・呪殺の依頼を金銭によって承り、咒我神社に住まわる呪神様の力を使っているということ……」

 有理処は慎重に事業内容を伝えるが、神はあまりピンときていないようだ。

「……つまり、古くから当神社で行われていた呪詛・呪殺を、慈善事業から営利事業に変えただけで……」

 「……それがなんなのか?」という言葉を咄嗟に飲み込み、相手の返答を待つ。

 神はしばらく腕を組んで考えていたが、やがて殺気を消すと、

「――へぇ……。じゃ、あなたが”直接”殺してる訳ではないのね?」

「……は、はい」

「――それなら、私にあなたを咎める権利はないわね」

「へ……?」

 女性は軽く会釈をすると、縁側からひょいと飛び降り、すぐに消えてしまった。

「……いったい、なんだったのか? 分からない……」

 と、その時――。突然、甲高い悲鳴が耳に飛び込んできた。――その声を聞き、有理処は間もなく走り出す。向かうは、神の住まう拝殿の部屋――。

「間違いなどはない! ”呪神様の声”だ……!――――」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る