驚安の殿堂

驚安の殿堂

「この映画みたいになったらどうしよう」「ドン・キホーテに二人で逃げよう」

隣人のくしゃみの音がでかすぎる玄関で知らない猫が勝手に寝てた

戸を少し浮かせて鍵をひねるだけこことは違う場所へ行く技

気まぐれで誘ってしまった同僚と釜玉うどんを黙ってすする

きみのいう「後で話す」は唐突で深夜の小さな地震みたいだ

好きでもないおしゃれなドーナツ選んでた頃ならたぶん「うん」と言ってた

ババ抜きのババみたいだなめぐりゆく緑青だらけの十円を出す

言葉の裏のその裏の裏さらに裏もう肩パンで通じ合えない

海が見たいのなんていうから砂浜に打ち上げられる何かの死骸

隠しコマンドＡボタンとＢボタン同時に押すと部長がキレる

紫陽花を摘んでいる人なんだかさ首を狩ってるみたいだよね

ご褒美のルールはますますほころびて今夜も食べるハーゲンダッツ

なんで、自分だけが、こんな目に、蟻の退路を執拗に断つ

寿司二貫つがいのように皿にのり回ってやがるここは明るい

どら焼きの上部をそっと取り外し栗を確認してまた閉める

音だけがオフィスに咲いて誰となく花火かよとただようため息

割り箸が斜めに割れてささくれてひとりっきりで舌打ちをする

いくつもの異なる世界のうちきみに出会えなかった世界のぼくだ

ファミチキを食い食い見あげた街灯だ急に正気に返るじゃない

きみだけは必ず守る肩を抱きドン・キホーテの最果ての棚