お袋の葬儀のあと、謎の美女がうちにやってきた
春風秋雄
亡くなった母に世話になったという美女が訪ねてきた
母が逝ってしまった。まだ54歳だというのに。俺がまだ小さい頃に父親はこの世を去り、母は再婚もせず女手ひとつで俺を育ててくれた。俺は父の顔を覚えていない。写真を見て、この人が俺の父親なのだと認識することしかない。だから俺の30年間の人生は、母と二人きりの生活が当たり前だった。そんな母を亡くし、一人きりになった俺は茫然としていた。
葬儀が終わって、10日ほどした頃に、一人の女性が家を訪ねてきた。ドキッとするほど綺麗な女性だった。新聞のお悔やみ欄で知ったという女性は、本郷雪乃と名乗り、ずっとお世話になっていた者ですと言って、線香をあげさせてもらいたいと言った。まだ若い、俺と変らない年齢の女性が、母とどういう関係なのか気になったが、母の仕事関係の人かもしれないと思い、俺はその女性を家にあげた。本郷さんは、長い間母の遺影に手を合わせたあと、振り返り俺に頭を下げた。
「この度は、ご愁傷さまでした。お母さまはまだお若かったのに、本当に残念です」
「ご丁寧にありがとうございます」
本郷さんは、母の最期のことを聞いてきた。心筋梗塞で倒れ、俺が病院へ駆けつけた時は息を引き取っていたと説明すると、とても悲しそうな顔をした。葬儀に来ていた人の中にも、これほど母のことを悲しんでくれた人はいなかったと思う。
「お母さまがおられないと、食事とか、お一人では大変じゃないですか?」
本郷さんはそう言って台所をチラッと見た。
「ええ、まあ。でも、私も子供ではないので、何とか食べてはいます」
「お母さまは、悠太さんは家事のことは全くダメで、料理など作ったことがないとおっしゃっていましたけど」
この女性は、俺の名前を知っているのか?しかも、お袋からそんな話まで聞いていたとは。
「母はそんなことまで本郷さんにお話ししていたのですか?母とはどういう関係だったのでしょうか?」
「悠太さんのことは色々お聞きしています。私はお母さまには長年お世話になっていました」
「母がお世話をしていたというのは、仕事関係のことですか?」
本郷さんは、一瞬黙り込んだ。そして唐突に口を開いた。
「私、何かお食事を作りましょうか」
「いや、そんなことしてもらっては」
「大丈夫です。今から買い物に行ってきます」
本郷さんは俺がそんなことしてもらっては申し訳ないと言うのに、お母さまにはお世話になったので、それくらいさせて下さいと言って、家を出て行った。俺はあっけにとられながら本郷雪乃さんの背中を見送るしかなかった。
しばらくすると、本郷さんが帰って来た。
「長浜さんは、ハンバーグ好きですか?」
「ええ、好きです」
「よかった。じゃあ、今から作りますから、ちょっと待っていてください」
本郷さんは台所に立ち、ハンバーグを作り出した。とても手際が良かった。台所にお袋以外の女性が立つのは初めてだったので、不思議な感覚だった。
小一時間もすると、ハンバーグが出来上がった。いつの間に作ったのか、ポテトサラダもある。料理は二人分並べられ、当たり前のように本郷さんも食卓に座った。俺はすっかり本郷さんのペースに乗せられて、「いただきます」と言ってハンバーグに箸をつけた。美味しい。お袋が作ってくれていたハンバーグの味と同じだった。俺は家庭料理のハンバーグはお袋が作ってくれたものしか知らないので、誰が作っても家で作ればこういう味になるのかと思った。続いて、ポテトサラダに箸をつける。驚いた。これもお袋が作ってくれたポテトサラダと同じ味だ。入っている材料もジャガイモの他にキュウリ、ハム、人参と、お袋が作っていた物と全く同じだった。しかも、お袋は人参が苦手だった俺のためにジャガイモをつぶすときに一緒に人参もつぶして混ぜて、食べやすくしていたが、本郷さんが作ったポテトサラダも人参がつぶしてあった。
「とても美味しいです。何故か、母が作ったのと同じ味がします」
俺がそう言うと、本郷さんはニッコリ笑った。
「料理は、お母さまから教わったのです」
「母が本郷さんに料理を教えたのですか?」
「ええ。色々教わりました」
「母と、本郷さんは、一体どういう関係だったのですか?」
「私が高校1年のときからお世話になっていました」
「高校1年のときから?失礼ですけど、本郷さんは、今おいくつなのですか?」
「私は長浜さんより2つ下で、今28歳です」
この女性は俺の年齢まで知っているのか。16歳の時というのだから、今から12年前から母がお世話をしていたということになる。ならば、仕事関係の付き合いではないということか。
「母とはどうやって知り合ったのですか?」
「父の紹介です」
「本郷さんのお父さんの?」
一体どういうことなのだろう?お袋と本郷さんのお父さんとはどういう関係だったのだろう?
「それより、長浜さんから見て、お母さまはどのような人だったのですか?」
「母は厳しい人でした。母子家庭で育つ私に、人様に後ろ指差されないようにと、厳しく躾けようとしたのだと思います」
「でも優しいところもあったのでしょう?」
「そうですね。仕事で帰りはいつも遅かったですけど、休みの日にはどこかへ連れて行ってくれることが多かったです」
「新しいお父さんが欲しいと思ったことはなかったですか?」
「物心がついた頃には父はいませんでしたから、父親の存在というのがイメージできなかったので、父親が欲しいと思ったことはありませんでしたね。ただ、ある程度大人になってからは、母の人生は私を育てることだけで終わっていいのだろうか、母は母の幸せを見つけるべきではないかと思うようになりましたね」
「そうですね。母親といっても、一人の女性ですものね」
「私の母と、本郷さんのお父さんとはどういう関係だったのですか?」
「あ、私そろそろ帰らなければ。洗い物もせずに帰りますけど、いいですか?」
「それは構いませんけど」
「長浜さんは仕事から帰るのは毎日7時頃なんですよね?明日も食事を作りに来ます」
俺は公務員なので、毎日7時には家に帰っている。そんなことも知っているとは。
「明日もですか?」
「ご迷惑ですか?」
こんな綺麗な女性が食事を作りに来てくれるのを迷惑と思うはずはない。それに、本郷さんには色々聞きたいことがある。
「迷惑ではないです」
「じゃあ、明日の7時頃に、またお伺いします」
本郷さんは、そう言って帰って行った。
本郷雪乃さんとは、一体何者なのだろう。本郷さんのお父さんとお袋はどういう関係だったのだろう。明日こそは、そのあたりの話を聞かなければ。
翌日本郷さんが作ってくれた料理は、煮魚と肉じゃがだった。どちらも、見事にお袋の味だった。
「美味しいです。これもお袋と同じ味です」
「煮物は、お母さまに何度も何度もダメ出しされながら教わりました」
「もうそろそろ、話してもらってもいいのではないですか?あなたのお父さんと、私の母は、どういう関係だったのですか?」
本郷さんは、ジッと俺を見つめたあと、意を決したように口を開いた。
「私が高校1年の時に、いきなり父が長浜さんのお母様を家に連れて来られました。私を産んだ母親は、私が小学校のときに男を作って家を出て行ったみたいで、うちは父と私の二人きりの家庭でした。そんなところへ父が女性を連れてきたのですから、新しいお母さん候補の女性なのだなと、ピンときました。思春期だった私は、当然反発します。思わず“誰なのそのオバサン”って言ってしまったのです」
俺には、お袋がそう言われた後、どのようにリアクションしたのかという展開が予想できた。
「そしたら、静江さんに、こっぴどく叱られました」
本郷さんが初めてお袋のことを名前で呼んだ。
「あなたは、片親だから、母親がいないから、初対面の人に対してちゃんとした挨拶も出来ないのですか!あなたは単に反発して言ったのかもしれませんが、世間の人から見れば片親だからそういうふうに育ったんだと思いますよ。そう思われるのが嫌なら、ちゃんと挨拶しなさい!てね」
想像通りだった。お袋は、俺に対してもそういうことに関しては厳しかった。
「驚いた。普通父と結婚しようとする人なら、娘の私に機嫌をとるものでしょう?でも静江さんは違った。静江さんの迫力に押されて、私はちゃんと挨拶をし直したの。そしたら、静江さんも16歳の私に対して、丁寧にあいさつをして頭を下げたの」
お袋らしい。その光景が目に浮かぶようだった。
「静江さんは、私の父と良いお付き合いをさせてもらっていると言い、当面は出来る範囲で家事を手伝うと言ってくれたの。父と結婚するということですかと聞くと、それはわからない。雪乃さんの気持ちもあるし、自分の息子の気持ちの問題もある。それらを無視して結婚するということはない。それよりも、現在の状況は、この家の家事がほとんど出来ていないということだから、とりあえずはそれを手伝うと言ってくれたの」
俺の気持ちの問題もあると言いながら、一度もそんな話はしてこなかった。それはどういうことだろう。
「その日から静江さんは、毎日うちに来て、料理・洗濯・掃除と、まるで家政婦のように働いてくれた。そして、父と結婚するとは限らないから、結婚しなかった場合は、いつまでも家事を手伝うわけにはいかないのでと、少しずつ私に家事を教えてくれるようになったの」
毎日通っていたなんて、俺はまったく気づかなかった。その頃は俺が高校3年生の時だ。夏までは部活で帰りは遅くなり、秋からは受験勉強で友達の家で勉強したり、図書館へ行って勉強したりで、家に帰るのは遅かった。だからお袋の帰宅が遅くなってもまったく気にならなかったのだ。
「静江さんには、色々相談にも乗ってもらったの。父親には相談しづらい事ってあるじゃない。女同士の内緒話もよくしたわ。そんなとき、静江さんに父とは結婚しないのかと聞いたの」
俺は何故かドキッとした。お袋の再婚なんて考えもしなかったからだ。
「そしたら、今息子は受験勉強中だから、そんな話を息子にできないと言っていた」
確かに、そんなときに再婚話なんて聞かされたら、受験勉強どころじゃない。
「高校2年になったら、静江さんが家事を手伝ってくれる時間が増えたの。息子さんが県外の大学へ行ったので、早く帰る必要はなくなったからだと言っていた」
俺は東京の大学に合格して、食事付きの学生マンションで4年間暮らしていた。
「もうそろそろ、結婚の話を息子さんにしてみてはどうなのと言ったら、そうだね、今度帰ってきたら言ってみようかなと言っていたの」
そんな話は、大学へ行ってからも聞いていない。
「そんなときに、父が病気になったの。白血病だった」
あまりの展開に俺は驚いた。もうすぐ結婚というときに、相手が病気になったのか。
「父は治療のために、入退院を繰り返しました。入院して抗がん剤治療を1週間くらいして、またある程度期間を置いて入院して治療をするということを繰り返すのです。退院して家に帰って来ても、抗がん剤の副作用で、まともに歩けない、まともにしゃべれないといった状態です。そんな状態でも静江さんは、甲斐甲斐しく父の面倒を見てくれました。父は静江さんに、お前とはもう結婚しない。ここにはもう来なくていいと言っていました。でも静江さんはそんな言葉は無視して、父と私の面倒をずっと見てくれました」
お袋は、雪乃さんのお父さんのことを、本当に愛していたのだろう。
「父の病気は、何とか完治したの。でも、抗がん剤の影響で、しばらくはまともに生活できなかった。仕事も出来ずに、会社に籍だけは置いていたけど、傷病手当しか収入はなかったから、おそらく静江さんが援助してくれていたのだと思う。私にもお金のことは気にせず、大学へ行きなさいと言ってくれた」
お袋は、俺の大学の学費や仕送りで、とても余裕はなかったはずだ。愛する人のために、相当自分の生活をきりつめていったのだろう。
「私は父に、もう静江さんと結婚したらと言ったの。そしたら、この病気はいつ再発するかわからないから、5年間は油断できない。それまでは結婚はしないと言っていた」
ガンの再発は5年以内ということだ。逆に5年間再発しなければ生存率がグッとあがるということだ。
「私は受験勉強を頑張って、何とか地元の大学に合格した。でも、大学2年の時に、父の病気は再発したの。そして、私の成人式を見届け、息を引き取ったの」
何ということだ。雪乃さんのお父さんも他界されていたのか。
「静江さんは、お父さんがいなくなっても、ずっと私の面倒をみてくれた。悠太さんが公務員試験に合格して、地元に戻って来てからは、毎日ではなくなったけど、それでも週に3回ほどは顔を出してくれて、食事も作ってくれた」
そうか、お袋は週に何回か帰りが遅いことがあり、相変わらず仕事が忙しいのだなと思っていたが、雪乃さんの家に行っていたのか。
「私は、静江さんのことをお母さんと呼びたかった。でもお父さんがいなくなった以上、もう静江さんのことをお母さんと呼ぶことは出来ないなと思っていたら、静江さんが言ったの。将来、悠太と結婚しないかって。そうすれば雪乃ちゃんは私の娘になるからって」
えー?そんなことを勝手にお袋が決めるなよ。
「それから静江さんは、悠太さんの写真を見せてくれたり、悠太さんはこういう人だと、色々教えてくれたの」
俺の知らないところで、お袋は何をやっているんだよ。
「私、悠太さんの写真を見て、そして悠太さんのことを色々聞くうちに、悠太さんと結婚したいと思ってきたの。もちろんその時は、静江さんをお母さんと呼びたいという気持ちが大きかったけど」
俺は、どう反応すれば良いのかわからなかった。
「静江さんは、私が24歳になったら、悠太さんに紹介すると言っていたの」
雪乃さんが24歳の時ということは、俺が26歳の時ということだ。俺が26歳の時と言えば・・・。
「私がもうすぐ24歳になるという時、静江さんがゴメンなさいと謝って来たの。悠太さんに彼女が出来たって」
そうだ。俺はその頃に、当時付き合っていた彼女をお袋に紹介した。
「私はショックだった。これで静江さんをお母さんと呼べなくなるということもショックだったけど、私は悠太さんに失恋したような気持だった。いつの間にか、まだ会ったこともない悠太さんに私は恋をしていたみたい」
俺はそれほど思われていたということなのか。まだ会ったこともない人に、そのような感情を持つことができるものなのか。
「静江さんは、まだ希望はあると言っていた。悠太は彼女とは、絶対にうまくいかない。私はそんな気がするって、何度も言っていた」
その通りだった。最初は二人とも舞い上がっていたので、相手のことを良く知ろうとはしなかった。しかし、1年、2年と付き合っていくうちに、段々相手のことがわかってくると、俺とは合わないという部分がかなり出てきた。最終的に、結婚を考えた際に、俺と結婚すればお袋の面倒を見なければならないというのが、彼女にとっては大きなネックになっていたようで、俺たちは3年ほどで別れることになった。
「悠太さんが彼女と別れたと聞いた時は、すぐにでも紹介してほしかった。でも静江さんは、悠太さんの気持ちが落ち着くまで待ってと言ったの」
そう言えば、俺が彼女と別れてしばらくすると、お袋が良い娘がいるけど、会ってみないかと言っていた。その時は、まだそんな気持ちになれないと言ったけど、それは雪乃さんのことだったのか。
「そして、今年になって、やっと静江さんから、悠太さんに会わせる段取りを練るから待っててねと言われていたのに、いきなり連絡が取れなくなって、そしたらお悔やみ欄に静江さんの名前が出ていて・・・」
それから雪乃さんは声をつまらせ、泣き出した。
それからも雪乃さんは毎日俺の家に来ては食事を作ってくれた。あれだけの話を聞いて、俺はどうすれば良いのかわからなかった。お袋の遺志を尊重するなら、俺は雪乃さんと結婚するのが良いのだろう。雪乃さんは美人だし、料理は上手だし、家事に関しては言うことがない。しかし、それでいいのだろうか。そこに俺の意思はない。俺自身が雪乃さんと結婚したがっているのかと自問自答するが、今の段階では答えが出なかった。何よりも、雪乃さんが俺と結婚したがっていたのは、お袋の存在が大きかったということだ。そのお袋は今はいない。それでも雪乃さんは俺と結婚したいのだろうか。
雪乃さんが俺の家に来るようになって、1週間もすると、雪乃さんは遠慮がなくなってきた。雪乃さんの家は、俺の家から車で15分程度のところらしいが、たまにバスでやってきて、一緒にお酒を飲む日もある。休みの前日などは夜遅くまでいることもある。そんなときはお風呂に入ってから帰ることもあった。そんな雪乃さんを俺は拒むことはなかった。お袋がいなくなった寂しさもあったが、雪乃さんと一緒にいることが楽しいという気持ちが大きかった。
その日は、休みの前日で、雪乃さんはバスできていた。食材の買い物と一緒にビールも買い込んでいた。
「悠太さん、今日は飲みましょう」
「何か良い事でもあったの?」
「今日は私がこの家に来るようになって、ちょうど1か月です。その記念日です」
「そんなの、記念日になるの?」
「私にとっては記念日ですよ。悠太さんにもう来るなと言われるのではないかと、冷や冷やしながら毎日来ていたのに、それが一か月も来ることが出来たのですから」
「雪乃さんは、今も私と結婚したいと思っているの?」
「当然です。それでなければ毎日ここに来たりしません」
「でも、お袋はもういないんだよ」
「私は、悠太さんに会うまでは、写真と静江さんの話でしか悠太さんのことを知りませんでした。でも、この一か月ずっと一緒にいて、私はどんどん悠太さんのことが好きになっています」
そう言う雪乃さんの笑顔は、とても可愛かった。
かなりお酒が進んだところで、俺は思い切って雪乃さんに言った。
「来週の日曜日に、お袋の四十九日の法要をするのだけど、雪乃さんも来てくれる?」
「私も呼んでもらえるのですか?是非お願いします」
「四十九日は誰も呼ばずに、ここでお経をあげてもらうだけにしようと思っていたのだけど、雪乃さんが来てくれたらお袋も喜ぶよ。ところで、雪乃さんのお父さんのお墓ってあるの?」
「ええ。静江さんが新しいお墓を建ててくれました」
「じゃあ、そのお墓には雪乃さんのお父さんしか入っていないんだ?」
「そうですけど?」
「四十九日の法要の時に、納骨もしたいと思っているのだけど、お父さんのお墓にお袋のお骨も入れさせてもらえないかな?この世で一緒になれなかった二人だから、せめてお墓では一緒にしてあげたいんだ」
雪乃さんの目から、ポロリと涙があふれた。
「そうしてもらえば、父も、静江さんも喜びます」
「ありがとう。そうすると、私は一生雪乃さんのお父さんのお墓を守っていかなければならないということになる」
雪乃さんは俺が何を言おうとしているのか理解できていないようで、ポカンと聞いていた。
「だから、雪乃さん。私と結婚してもらえませんか?」
雪乃さんは、一瞬信じられないという顔で俺を見た。
「ダメかな?」
雪乃さんが俺に抱きついてきた。
「ダメなわけ、ないじゃないですか。私こそ、お願いします。私と結婚してください」
俺は雪乃さんを抱きしめた。その時、写真のお袋と目が合った。お袋が写真の中で笑っている。俺は立ち上がり、お袋の写真のところまで行き、その写真を裏返して雪乃さんのところへ戻った。そして、雪乃さんに優しくキスをした。
四十九日の法要のあと、車でお墓へ移動した。昨日の土曜日に雪乃さんに案内してもらい、二人で墓の掃除はすませていた。
僧侶の読経の後、お墓を開け、お袋の骨壺を収める。雪乃さんのお父さんの骨壺にピッタリくっつくように並べた。
「二人、幸せそうですね」
雪乃さんが並んだ骨壺を見ながら言った。
納骨が終わり、再び僧侶の読経が始まる。俺たちは焼香をして手を合わせた。
「静江さん、やっと静江さんのことをお母さんと呼べますよ。今まで本当にありがとうございました」
雪乃さんが涙声でつぶやいた。
それを聞いて俺は、お袋が逝ってしまってからずっとこらえていた涙が、堰を切ってあふれてくるのを、どうしようもなかった。
お袋の葬儀のあと、謎の美女がうちにやってきた 春風秋雄 @hk76617661
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます