剣聖の俺を追放するって正気ですか!?~ただ百万ゴールド負けただけなのに~

鬼柳シン

第1話 勇者パーティーの剣聖改め、借金百万ゴールドの剣聖

【一話完結】


「それが問題なんだよ!!!!」




 ギルドの前でたった今追放宣言を言い渡した勇者アレスは、俺の反論に対し、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


 他の仲間である女僧侶も女魔術師も怒りを顔に映している。




「いいか!? 百万ゴールド稼ぐのにどれだけの時間と労力がかかると思ってる!?」


「そ、そりゃ、賭場で大穴に一万ゴールドでもぶっこめば一瞬で……」


「クソ! 聞き方を間違えた!! じゃあ一万ゴールドでいいから博打以外で稼ぐにはどうすればいいか答えろ!!」


「そ、そんなの、レア装備を転売でもして……」


「お、お前ってやつは……」




 ハァッー、とアレスが深すぎる溜息を吐き出すと、少し落ち着いた様子ながら、沈んだ瞳で俺を見据えた。




「なぁジーク、追放は言いすぎたかもしれない。なにせお前は孤児院時代からの友だからな。俺が教会で勇者の神託を受けて、お前が魔王を倒すため共に旅をするべき剣聖だと知ったときは運命を感じたよ」


「やっぱりそうか! 俺だってお前は最高の相棒だと思ってるからな! それにお前はいつだってすぐカッとなるが、落ち着きゃ話の分かる奴だって……」


「まだ話は終わっていない」




 アレスが刺すような視線を向けたので黙ってしまうと、咳払いをしてから続けた。




「お前の感覚が狂ってるようだから、俺たちの普段の生活基準から教えてやる。まずパン一つで十ゴールドだ。酒場で一晩飲み食いしても五十ゴールド。その後普通の宿に泊まっても百ゴールドが相場だ。全部合わせて一日あたりいくらだか分かるな?」


「……百六十ゴールドだが、なんつーかケチな一日だな」


「なんだと?」




 アレスが怪訝な顔をしたが、俺は「つまらない一日だ」と跳ねのけた。




「そんな一日を過ごしても退屈なだけだろ? パンを食べるにしても賭けワイバーンレースに五百ゴールドでも使って楽しみながら夜を待って、勝った金で最高の酒を飲みながら賭場に繰り出して二千ゴールドくらい使う。そこでも勝ってから宿に帰って気持ちよく眠る。これこそ旅暮らしの俺たちが街で過ごす最高の一日ってやつだろ?」




 違うか? と首を傾げてみせたのだが、アレスは頭痛がするかのように頭をおさえてから、道行く駆け出し冒険者を指差した。




「あの新人が熟達するまで何年も使うだろう剣が、一般的な相場だとお前が昼間に使うと言った五百ゴールド。何度も修繕に出しながらも身を守ってくれる防具一式も、相場はお前が賭場で使うと言った二千ゴールドだ。お前がどれだけ金遣いが荒いか分かったか? なぁ頼む、年来の友を仲間の前でこれ以上責めたくないんだ……一般的な回答を……」




 ふむ、と縋るようなアレスと睨み続けている僧侶と魔術師の二人組を見てから、頭の中で答えを導き出した。




「剣じゃなくてヒノキの棒にして、防具はいっそのこと何も装備しないで戦えば、浮いた金で好き放題……」




 と、そこまでだった。親の仇のように睨み続けていた女二人がウンザリだと怒鳴ったのだ。




「いったいどれだけ強欲なのですか!! 神がお怒りにならないのでしたら、私が代わりに罪を与えますよ!?」


「ほんっとにウンザリ!! 今ここでアタシが魔術で火だるまにしてもいいのよ!? っていうか、お金関係でアタシたち二人に謝ることはないの!?」




 アレスがどうにかなだめようとしているが、どうやら限界らしい。


 いやまぁ、実のところ百万ゴールドどころか、その十倍近く負けたのだが、負け分を取り返す過程では、少々二人にはやりすぎた気はしないでもないが……




「そりゃ二人には辛い思いをさせたかもしれないが、結果的には……」


「結果だけ言うならアタシたちには百万ゴールドの借金が残ってるのよ!」


「罪深い!! 結果しか見ないだけでも愚かだというのに、その結果すらこの様では本当に罪深いです!!」




 言いながらズンズンと詰め寄ってきた二人のうち、まずは僧侶が俺に常識がなさすぎると続ける。




「いくら大敗したからといって、普通仲間である私を質に入れますか!? 私は魔王を倒すために神より選ばれた僧侶ですよ!?」


「その件は……まぁ、質に入れた時の額が額だったからな……」


「私自身驚きましたよ!! 私一人に五百万ゴールドですよ!? 質屋の人も王族と同額だって驚いてましたよ!?」




 神託を受けたという非常に希少な価値と、世界を救うためにも勇者が何が何でも買い戻そうとしていたあたりから、質屋も計り知れない価値があるとしたのだろう。


 負け分の三分の一……いや、四分の一ほどを渡してくれた。




「でもなんとか買い戻しただろ」


「ええそうですね!! 質屋でもらったお金が途切れる寸前で偶然にも賭場で何倍にも膨れ上がりましたからね!! でも元からある借金が多すぎて、私を買い戻してもかなり借金残ってましたよね!!」




 それに関しては、と言おうとして、魔術師が今度は自分の番だとでも言わんばかりに胸倉を掴んできた。




「忘れてないわよね!? アタシにも屈辱的なことをしたのを!!」


「そっちに関しては倫理的にも反省してるつもりなんだが……」


「少しでも倫理感あったら仲間を娼館に売ったりするかぁ!!」




 僧侶と同じく神託を受けたという価値は、娼館にとって一人の娼婦として扱うだけでなく、とてつもない宣伝効果があったとかで、なんとしても買い取りたかったのか二百万ゴールドで売れた。




「アタシまだ処女なのよ!? なのに娼館で「富裕層が指名してくるだろうから怒らせないよう、神託を受けた魔術師のサービスをするように」とか言われたのよ!? ってか魔術でどんなサービスしろってのよ!!」


「で、でもなんとか別の博打で勝ってすぐに買い戻せたろ? それに男の相手はしてないって……」


「勝つまでアレスがアタシを指名してくれたからよ!! 勇者が必死に頭下げるからなんとか割引してくれたお陰でアンタの勝ち分が消える前に買い戻せたのよ!! それでもまだ百万ゴールド残ってるって……ああもうホント……!!」




 魔術師と僧侶が顔を合わせると、二人して指を突き付けてきた。




「「パーティー追放!!」」




 そんな! と反論しようとしたが、もはや二人の怒りは限界だったようだ。


 アレスにも俺を追放しなくてはパーティーを抜けると脅しだし、更に百万ゴールドの負け分は俺に背負わせるように言っている。




 どうにかしようにも、「公平な多数決です!!」と僧侶が言えば、「このままじゃ魔王を倒す前にパーティーが亡びるわよ!!」と魔術師が怒鳴る。




 アレスはしばらく考え込んでから、少し待つように制してギルドへ向かった。


 今にも嚙みついてきそうな女二人に囲まれながら数分待って戻ってくると、アレスは残念そうな顔で俺に告げる。




「ジーク、たった今国王様含める何人かに手紙を出して、お前のハーティー脱退を正式に認めるように申請した」


「えっ」


「それとお前の聖剣と聖なる鎧も没収して次の剣聖が現れるまで俺たちが管理することになった」


「えっ!?」


「百万ゴールドの負け分も、元はと言えばお前のせいだから、たった今お前が借金として背負うように申請してきた」


「えぇぇっ!!?」


「悪いが、もう覆せない……長い付き合いも、これで終わりだ」




 それを最後に、俺の言い分などまったく聞き入れてもらえず、勇者パーティー三人によって動きを封じられ、装備をすべて奪われ、借金の保証書だけが残された。




 動けないまま去っていく三人を見ながら、空いた口が塞がらないまま時間が流れ、ようやく言葉になったのが、




「はしゃぎすぎたか……」




 貧乏な孤児院時代から裕福な剣聖に成り上がったが故にドハマりしたギャンブルのせいで、俺は魔王を倒す勇者パーティの剣聖改め、借金百万ゴールドの剣聖となった。








 ####








「金がない……装備もない……追放の噂のせいで依頼も受けられないから仕事もない……本当に何もない……」




 路地裏でこの先どうするか考えこんでいるのだが、どうしたらいいのか本当に分からなかった。




 魔物の毛皮なり鱗なりを売ってみようかとも考えたが、いくら剣聖と言えど、剣がなければ魔物とは戦えない。動物相手ならなんとかなるかもしれないが、そんなことで百万ゴールドを返せるわけがない。




 とにかく困ったので、改めて所持品を確認してみた。聖剣も聖なる鎧も取り上げられたが、その他は無事だ。


 所持品を詰めていた革袋の中をガサガサと漁れば、まさに灯台下暮らしとでも言わんばかりの品が出てきた。




 財布である。




「そうだよ!! コイツさえありゃ、今までの隠してた勝ち分がタンマリと……」




 なんて夢は、財布の革ひもを解いた瞬間に崩れ落ちた。




「一ゴールドしかねぇ……」




 色褪せた一ゴールド硬貨を手に項垂れながら、そういえば先日酔った勢いで有り金を賭場で使ったのを思い出す。


 たしか全額スッたはずだが、偶然残っていたか、拾ったかしたのだろう。




 とはいえだ。




「こちとらガキの頃は貧乏孤児院で育ったんでね」




 ニヤリと笑い、誰に言うでもなく口にすると、スクッと立ち上がって一ゴールドを指で弾いた。


 それを手の甲で受け止めると、もう片方の手で覆う。




「表なら街に残って仕事を探す。裏ならしばらく物乞い生活といくか!」




 そうして覆っていた手をどけると、そこにあった一ゴールド硬貨が表なのか裏なのか確認する前に、誰かの手によって奪われた。


 困惑していると、目の前には厳つい顔をした巨漢が数人。




「……これで一ゴールド返済だ。さて、とっとと残りを返してもらおうか」




 名乗られることもなく理解する。この巨漢たちは、所謂借金取りだ。




「――裏でも表でもないから、そうだな……よし」




 周りを囲い始めようとする巨漢たちからバックステップで距離を取ると、回れ右をする。




「街の外へ逃げる!!」




 すぐさま「待ちやがれ!」と声がするが、もうこうなったら知った事ではない。


 とにかく全力で街中を駆け抜けた。




 腐っても剣聖なので、身体能力自体は高いのだ。借金取りに追いつかれることなく検問まで来ると、通行税も払わず、というか払えないのでそのまま走り抜けた。




 とにかく走って、夜になるまで姿を隠す。それから追っ手がいないことを確認してからさらに逃げる。




 もはやそれしかできないのだと、流石に情けなく思いながら、身から出た錆なのだから仕方ないだろうと言い聞かせ、追っ手が見えなくなるまで走った。








 ####








 夜が来て、街からもずいぶん離れた街道沿いの森を歩いていた。


 夜の寒さも空腹も、かつての孤児院時代で慣れたものだ。なんなら飲み水なら泉があるだろうし、食い物なら木の実がある。




 しばらくはそれで食い繋ぐか、なんて思いながら街道沿いに森を進んでいる時だった。


 なにやら悲鳴が聞こえてくる。それと、剣と剣がぶつかり合う音だ。




 そちらへ目を向けると、街道の先で火の手が上がっていた。よく見れば、馬車が襲われている。




「こんな時間に馬車……?」




 行商人にしろキャラバンにしろ、夜は身の安全のためどこかに隠れて寝るものだ。


 それをしないということは……どういうことだろうか?




 しかし、なんにせよだ。




「いくらなんでも襲われてるのを見て見ぬ振りってわけにはいかねぇな」




 腐っても剣聖であり、百万ゴールドの借金があっても魔王を倒して人々を救うために勇者パーティーに選ばれた一人なのだ。


 昼間の巨漢は素手だったので逃げたが、剣の音がするのなら、なんとか奪えば扱いに関して剣聖の俺の右に出る者はいない。




 それに、丁度足元に剣を奪うまでなら活躍してくれそうな長く太い木の枝が落ちていた。




「まさか昼間の冗談で言ったヒノキの棒と防具なしで戦うって目に遭うとはねぇ……」




 なんて言いながらも、木の枝を拾って襲われている馬車へと駆ける。


 そこには見るからに金持ちが乗りそうな馬車と、数人の騎士が大勢の男たちを相手取っていた。




 間違いなく、金目当ての山賊か何かだろう。騎士たちはなんとか陣形を組んで対処していたが、敵の数が多い。




 だが俺からすれば、それだけ武器を奪える奴が多いのと同意義だ。




「後ろから失礼!」




 騎士たちに気をとられていた山賊らしき男一人を木の棒で叩きつけると、よろめいた隙に持っていた粗悪な剣を奪い、周りの男たちを斬りつける。




 剣聖の剣捌きは勇者すら超えると謳われたものだが、いざ斬り付けると違和感を覚える。




「斬れねぇ……?」




 確かに革の鎧を着こんだ男たちを切り裂いたはずなのだが、あまりに粗悪な剣だからか刃が皮膚にまで到達しなかったようだ。


 出血はなく、粗悪な剣は折れてしまった。




 だが、まぁ粗悪とはいえ剣が折れ、革の鎧をぶった斬る勢いで振ったので、喰らったやつは吹っ飛んでいったが。




「ついでに二本目もゲットだ」




 またしても刀身がボロボロの剣だったが、この要領で一人一人倒していけばどうとでもなる。それにこんな剣ばかりなら、斬られた奴はメチャクチャ痛くても死ぬことはない。


 切れ味の良い物が手に入っても加減だってできる。剣聖を舐めてもらっては困るというものだ。




「んじゃ、続けるか! ……って、あれ」




 一人吹っ飛ばして剣を奪ったわけだが、次が来ない。突然現れた俺の事を気にかけるような素振りもない。


 襲っていた男たちは俺を一瞥してから、頷き合って吹っ飛んでいった奴を回収して逃げていった。




 いったい何だったのか。一応正義の味方としては追うべきなのか。




 そう悩んでいると、馬車の方から悲鳴の主だろうか。俺へと向けられた女の声がする。




「どなたか存じませんが助かりました!!」


「え……? ……えっと」


「山賊に襲われ窮地に陥っていた私たちを助けてくださったこの恩にどうやったら報いたらいいものか!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」




 何やら身なりの良い女性が馬車の中から出てきたのだが……いや、それは分かる。




 見るからに貴族の馬車と護衛といった連中が襲われ、俺が来たら襲っていた連中は去っていった。


 それに恩義を感じ、俺に今のようなセリフを言うのは分かる。分かるのだが……




「なんだか、展開早くねぇか?」




 山賊が去るにしても、もう少し俺は誰だとか抵抗するだとかあってもいいはずだ。


 このお嬢さんにしても、今の今まで襲われていたのだから、もう少し怯えながら出てきたり、騎士が駆けつけて、安全を確認してから出てきたりしてもいいはずだ。




 なんというか、そこら辺の過程をすっ飛ばしているような……。




 しかし、そんな些細な疑問はお嬢さんの言葉で頭からスッ飛んでいった。




「バイオレリス公爵家の長女アンジュの名をもって、全力で恩返しすることを約束いたしますわ!」


「こ、公爵……!? 超金持ちってことだよな!?」


「ええ! さぁ、馬車にお乗りください! 屋敷にてお父様を交えてお礼について話しましょう!」




 『公爵家の令嬢を救ったお礼』。俺の頭はそれだけで一杯になってしまったのだった。








 ####








 あの後のことは、なんと言うか矢継ぎ早に決まってしまった。




 やけに近くにあった屋敷に連れられていくと、バイオレリス公爵家とやらの当主は俺に大変感謝し、望みを聞いてきた。


 当然俺の望みは金だ。借金を返して、なんなら更にお釣りも欲しい。




 しかし、百万ゴールドと口にした時、当主は眉間にしわを寄せた。




 なんでも、高すぎるとのこと。貧乏孤児院暮らしと剣聖ギャンブル狂い生活のせいで俺の金銭感覚は相当疎かったようで、百万ゴールドの重さをハッキリと理解していなかった。




 公爵家のバカでかい屋敷一つ建てるにも百万ゴールド必要なのだ。


 つまり俺の背負っている借金を返すには、この屋敷をそっくりそのまま売るでもしない限りは不可能とのこと。




 それでも、バイオレリス公爵は娘を救った俺のために、百万ゴールドの借金を背負ってくれるというのだ。


 俺が逃げ回っていては利子が増えるばかりでどうにもならないところだったらしいが、公爵家が分割で払うと言えば、借金取りも強くは出られないようで、利子無し且つ分割払いで返してくれるという。




 ただし額が額なのと、借金取りを完全に黙らせるため、一割に値する十万ゴールドは俺が返すことになった。ちょうど俺の聖剣と聖なる鎧を売った額と同等とのことだ。




 一応そのための仕事はバイオレリス公爵家が斡旋してくれるという話だったのだが、剣聖の俺に回ってくる仕事は、やれエンシェントドラゴンの退治だとか、ゴブリンロードの討伐だとか、S級冒険者がパーティーで挑むようなものばかり。




 最初こそは終わった後に賭場へ行こうと思っていたのだが、そんな暇も金もなかった。




 報酬から支払いに回す分を引いて、そこから遊ぶ金なんて出していては仕事で死にかねないのだ。




 結局余った金でポーションなどを買い、一流の鍛冶職人に武具の点検をしてもらうことになる。


 それだけやって余った金は微々たるもので、賭場で遊ぶには足りず、仕方なく貯金している。




 そうしていると、また新しい仕事が回ってくるのだ。なにせ魔王含め魔物を倒す勇者パーティーは俺を欠いている。それだけ難敵が溢れているのだ。




 こうして俺は今日も嘆く。「またタダ働き同然の無茶ぶりかよ!!」と。








 ####








 ――ジークが仕事に出ている間のバイオレリス公爵家にて。




「これでアイツも、少しはお金の大切さが分かってくれるといいんですが」


「そうですわね、いつまでも勇者パーティーに剣聖が不在ではたまりませんもの。ですよね、勇者アレス様?」


「申し訳ない、アンジュ殿。俺たちの仲間のせいで民にも貴女方バイオレリス公爵家にも迷惑を掛けます」




 深々と頭を下げる俺こと勇者アレスは、ジークを追放する際にいくつか手紙を認めた。


 しかしあの時は追放を認めるような文面にしたと言ったが、真実は勇者の名をもって借金の返済を待ってもらう事と、街の近くの別荘に来ていると知らせを受けていたバイオレリス公爵への頼みだった。




 そんなことをする目的は複雑にして簡単。ジークの目を覚まさせることだ。


 そのためにバイオレリス公爵家の騎士たちに山賊と護衛を演じ分けてもらい、あとは金で釣ってこの状況を作った。




 隣に座る僧侶と魔術師を説得するのは骨だったが、ジークにちょっとした嘘をつくことで解決した。




「あの強欲な罪人が行っている仕事ですが、本当でしたら一回あたり最低でも十万ゴールド支払われる事には、流石の私も悪いと知りながらも笑ってしまいます」


「いーのよ、それで本当に百万ゴールド稼がせればいーの。それにほら、神様も言うじゃない、強欲もそうだけど、無知は罪だって」


「そうですね、そもそも罪人なわけですから贖罪が必要と考えれば納得もいきます」


「そーそー贖罪よ贖罪。あの馬鹿がヤバい奴をヒーヒー言いながら倒してる間に、アタシたちは最低限魔王軍の進行を止めてりゃいいの。そうよね、アレス?」




 聞かれ、肩をすくめて答えた。




「ジークが相手しているのが魔王の送ってくる幹部クラスの連中で、俺たちはその間に進軍してくる雑魚の群れの掃除をしながら他の冒険者たちとの連携を深めておく。こうすればジークの腕も上がって借金も返せるし、なによりお金についての常識が身につく。俺たちも俺たちで、ジークのいない穴は他の冒険者たちで埋めれば、借金を返済する頃には魔王相手に大軍で攻められるからな」




 まったく、同じ孤児院育ちじゃなかったらここまではしてやらなかった。


 これを機に親友が心を入れ替えてくれることを願いつつ、ジークがそろそろ帰ってくるので隠れることにしたのだった。




 再会するのは、百万ゴールドをしっかり働いて返してからだ。




【作者からのお願い】

最後までお読みいただきありがとうございました!


「面白かった!」、「頑張って借金返してね!」


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剣聖の俺を追放するって正気ですか!?~ただ百万ゴールド負けただけなのに~ 鬼柳シン @asukaga

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