第三十九章 けががなくてよかっ・・・

みなもと 真奈美まなみ

 思えば私のあんな行動がなければこんなことにはなっていなかっただろう。


 今から10年前・・・


「行ってきま~す!」


 元気に玄関を出て行った6歳の私はこの日、小学校の入学式を控えていた。父と母は入学式が始まる3分前に小学校にやってくると言っていたのでボディーガードをつけるという話が出てきた。でも私は・・・


「いやだ!学校くらい自分で行きたいの!!」


 そう言ってボディーガードを取り外してもらったが、本当はただボディーガードが邪魔だと思っていたからだ。ボディーガードに囲まれて歩いているとどこかの金持ちだというのは容易に想像でき、黒ずくめの集団なのでみんなの視線が私に向けられる。


 それがいやだった。じろじろと周りから私の姿を見られていたのがこの上なく苦痛だった。


「わぁ~!」


 そうして私は解放感に満ちた世界を歩いた。私にとってはすごく新鮮だった。小学校までルンルンで歩いていると一台の車が私の前に止まった。


「ねぇお嬢ちゃん。おじさんと一緒についてきてくれないか?」


 中から現れたのは数人の40代のおじさんたちだった。ボロボロのパーカーを着ていてどう見てもお父さんの知り合いって感じの恰好ではなかった。


「ッ!!」

「ちょっと待ってくれよ」

「いや!離して!!」


 私は危険を察知してその場から逃げ出そうとしたが所詮は小学生。大の大人に勝てるわけがない。すぐに私はつかまってしまった。


「急いで車に乗せろ!!」

「いや!離して!!」

「おとなしくしてろ!!」


 何とか逃げ出そうとしたが先ほど言ったように大人と小学生とでは筋力の差が大きいので私は振りほどくことができなかった。

 もうだめかと思ったその時・・・


「真奈美を離せ!!」

「ん?誰だ!?」

「お父さん!!」


 私のお父さんが私を助けようとこちらに走ってきていた。お父さんは怪しいおじさんたちを次々となぎ倒していった。そしてあっという間に全員倒したの。


「お父さん・・・どうして?」

「なぁに、少し嫌な予感がしていたからね。けががなくてよかっ・・・」


バァン!!!


 突然の銃声。そこからはスローモーションのようにゆっくりと。


———グラッと揺れ動いて・・・


———お父さんの胸から血が出てきて・・・


———地面にどんどん重力に引っ張られて・・・


「お父さん!!」


 私のお父さんが倒れてしまった。ハッとして銃声の聞こえた方を見るとお父さんがなぎ倒していたおじさんのうちの一人の銃口から煙がたっていた。

 そのおじさんが私の方にも銃口を向けてきたがお父さんが呼んでいたSPの人たちによって事なきを得た。しかし・・・


「おとぉうさぁん・・・うぅ・・・」


 お父さんは完全に心臓を撃ち抜かれていた。もう手遅れの重傷だった。私のせいで・・・


「ごめん・・・なさいぃ・・・おとう・・・さん・・・」


 もう声が届かないと分かっていても私は何度も何度も泣きながら謝り続けた。



「まだあんなに小さいのに社長なんて務まるのか?」

「務まるわけねぇだろ。基本的に副社長の新渡にいわたさんが指揮するんだってさ」

「まぁ、そうなるわな」

「・・・・・・」


 数週間経って私はお父さんの会社を継ぐことになった。しかしまだ小学生の私を社長として世間に公表してはならないので世間上は新渡さんが社長ということになった。


———社員からの愚痴。


———お父さんの会社を守るという責任。


 一度に多くのものを背負ってしまい、私の中で焦りと不安がよぎった。お母さんと一緒に経営について勉強して早く私がみんなを引っ張っていこうと考えていた。


 なのに・・・・・・私はミスをした。


 ただでさえお父さんが亡くなってから経営が傾いていたのに私のやんちゃな性格が直らず、重要データが保存されていたパソコンを壊してしまった。それが決定打となって私の・・・お父さんの会社は倒産した。


 こうして我が家は一瞬にして貧乏と化した。いろんな人からも馬鹿にされる日々。そしてお母さんも栄養失調で亡くなってしまった。

 人生に絶望し、家も追い出されて途方に暮れていたとき、一人の男性が声をかけてきた。それが店長だった。実は私はあれ以来男性恐怖症になっていて初めて話しかけられたときは怖かった。


「どうも、私は『魏馬ぎば』の店長をしているものだ」

「なんの用なの?」

「うちで働いてくれないか?」


 それがきっかけで私はここでバイトをすることになった。店長には厳しく指導してもらっている。一度逃げ出したいと思ったこともあったけどめげずに働き続けた。

 さらに店長が住処を紹介してくれたので居住地も確保できた。私が一安心していた時期に彼がやってきた。


「店長、1名」

「おお、次射じい君じゃないか!久しぶりだね」

「まぁのう・・・ん?この子は・・・」

「ああ、最近バイトを雇ったんだ。一人だと手が回らなくてね」

「源 真奈美です」

「おう、わs——ゴホンゴホンッ。俺は黒速くろはや 次射だ」


 黒速君は不自然に咳をこみながら自己紹介をしたらそのままカウンター席に座りに行った。同い年くらいかな・・・

すると店長が私に耳打ちする。


「彼はここの常連の黒速君だ。まぁ悪い奴ではないからそんなに緊張することはないぞ」

「は、はい」


 正直、ここで働いていたのでいろんな男の人を対応していた。最近では男性恐怖症も起こらなくなったけど同年代の男の子と話したことがなかった。

 私は緊張した状態で彼のもとに向かう。


「ご注文はお決まりですか?」

「ああ、青ラーメン一つ頼む」

「かしこまりました」


 私はすぐに店長に伝えに行った。ってあれ?私、なんであんなにスムーズに話せたんだろう・・・

 いつもならこんなにスムーズにいかない。男性恐怖症は直っているがまだ緊張が出てきている。「あ、あの・・・」と話しかけるのに多少時間がかかったりしていたこともしばしばあった。なのにこの人と話す時には驚くほどに緊張しない。まるで同年代と話していないような・・・


 不思議に思いながらもふと黒速君の方を見る。ドキドキと心臓の音がうるさい・・・すると黒速君がこちらに気付いて目が合ってしまった。そして恥ずかしくてすぐに顔をそむけた。


私はすぐに気づいた。これが恋っていうものだと・・・



◆ 黒速 次射 ◆

「そんなことがあったのか・・・」


 禾本のぎもとは心底驚いた様子を見せる。

 わしは源との出会いやそれまでの経緯を事細かに話した。そして続けて話す。


「実はのう、わし最近相手の心情を顔見ただけでわかるようになったんじゃ」

「はぁ!?なんだそれ!?」


 実は1週間ほど前にうちの母の瑠奈が困っているように見えたので話しかけたら「えっなんでわかったの!?」と驚かれたんじゃ。そのあともいろんな人の顔を見たらその人の心情がわかるようになったのじゃ。うん、ほんと便利じゃ。


 わしは空気が読めないことが度々あったからのう。ちなみに魔法とかではなくただの特技という判定じゃろうだ。その証拠に心情を読んでいるときにMPを消耗しない。まぁ読んでいる間ずっとMPを消費されてたら持たんわな。


「それでどういう内容だったんだ?」

「わしが読めたのは、『まさか、黒速君が来るなんて・・・勘が鋭いからバレないようにしないと』という感じの内容じゃったな」

「お前、勘そんなに鋭くないだろ・・・しかしバレないようにか。やっぱり何か隠しているのか?」

「そのようじゃ。店長も探りを入れているが何もないらしい」


 そう話した後、わしは先ほど手に入れたメモに書いてあった店長の電話番号を打った。少し経ってから店長が電話に出た。


『もしもし、黒速君かい?』

「そうじゃ。とりあえず今どうなっているのかが知りたいんじゃ」

『つい1週間前にうちに謎の黒服たちがやってきたんだ。そいつら、結局ラーメン食わずに出て行ったんだけどな・・・』

「黒服・・・」

『真奈美がそいつらを見た瞬間、顔を青ざめながら厨房に逃げていったからおそらく知り合いかなにかだろう』


 黒服の男たち?まさかな。

 わしはある可能性を考えたが一度思考を止めた。まだ何も証拠がないし、万が一外してしまったら恥ずかしい。わしは落としかけていたスマホを持ち直し、店長に話しかける。


「とりあえず今日のところは帰るわい。また新しい情報が入ったら連絡をくれ」

『わかった』


 そしてわしは電話を切った。

———黒服の集団か・・・

考えすぎても仕方ないのでわしは家に帰ることにした。美紀の誕生日プレゼントを渡さんにゃあいけんしのう。

 わしは禾本の方を振り返った。


「よし、そろそろ帰るか」

「そうだな、恵美えみに怒られそうだ」

「ん?小鮒こぶなさんにか?どういうことじゃ?」


 わしは不思議に思って訪ねてみると禾本が顔を赤くしてボソッとつぶやいた。


「いや、つい2日前くらいから・・・・・・同居したんだ」

「・・・・・・・・・は?」


 わしは思考を停止した。は?同居?高校生が?二人で?

 わしの様子から察したのか禾本が続けて話す。


「うちのおふくろと恵美のおふくろ、仲がいいんだよ。俺だってびっくりしたよ、急に同居しろだなんて」


 どうやら両家の母親たちが決めたことのようじゃ。もちろん両家の父親たちは反対したそうじゃが・・・返り討ちにあったようじゃ。ご愁傷さまです・・・


「まぁそういうことなら早く帰った方がいいな」

「おう、んじゃあまた明日な!!」

「明日は休日じゃぞ~!」


 禾本に訂正を加えてからわしはその場を後にした。

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