第一六話 二人きりの生活 二日目⑦

 夜も更けて――

 風呂に入り、寝る準備を整えた玲香は、今日も詩穂美と電話をしていた。

『『その荷物を持たせて下さい。持ちたくてしょうがないんです』――って、面白いこと言うね。お義兄さんは』

 強引に買い物の荷物持ちをした件を話したら、詩穂美に笑われてしまった。

「本当よ。あんなにわざとらしい言い方するなんて」

『でも、いい人じゃない。そこまでして、荷物持ちをしようとするなんて。お義兄さんの方もかなり頑張っているんじゃない。――だって、そうでもしなければ、玲香に断られる・・・・・・・のがわかってるんだから。玲香、人に頼るの苦手だもんね』

「……そんなつもりはないのだけれど……」

『そんなことないって。前にわたしが手伝うって言った時も、かなり抵抗したじゃない?』

 そういうことはあったかも知れない。

 でもそれは――

「でもそれは、手伝ってもらわなくても自分で出来ると思ったから」

 玲香は、自分でできる範囲のことを手伝ってもらうことにとても抵抗があった。

 どうしても、相手に負担を強いてしまっているのではないか、という思いが出てしまうのだ。

『そういうところよ。――もっと気楽に頼ってよ。手伝う側だってその方がうれしいんだから』

「……詩穂美の言うことは理解は出来るわ。でも……」

 詩穂美の言い分もわかる。

 納得は出来る。

 玲香も逆の立場であれば、そう思うだろう。

 だがこれは理屈ではないのだ。

 人の本質はなかなか変えられない。

『でもじゃないの』

 詩穂美はそんな玲香の気持ちにお構いなしに言ってくる。

「……わかったわよ。でも、意識はするけれど、実践できるかどうかはわからないわよ」

『いいよ。玲香も少しずつ変わっていけばいいから。そうすれば友達ももっとできるでしょ』

 いつものからかい口調の、詩穂美。

「……大きなお世話よ」

『ほら、そういうところ。そうやって、わたしの忠告を無視するんだから』

「なに言っているの。これはそういうのじゃないでしょ」

『似たようなもんでしょ』

「似てないって」

 詩穂美が半ば冗談で言っているのはわかるのについムキになってしまう。

『ごめんごめん。ちょっとからかいすぎたかな』

 詩穂美は笑いながら謝ってきた。

「本当よ」

「でも、そう考えると、わざとらしく言ったにせよ、お義兄さんのお願い・・・を聞き入れたのは、珍しいんじゃない?」

「…………そうね。普通であれば、なにを言われても断っていたかも知れないわ。でも、必死にお願いをしてくる健一さんを見てたら、受け入れてしまったのよね」

『よかったじゃん。それって、本当の兄妹に近づいたってことじゃない?』

「そうかもしれないわね」

 まだ同居して二日目ではあるが、少しずつお互いの事がわかってきている気がする。

 この調子で行けば、じきに本当の兄妹のような関係になれるのではないか。

 ――そうか、そういうことなのね……

 玲香は、そこで理解した。

『高橋里美と健一が話していた』のを気になってしまった理由を。

 健一と兄妹らしくなってきたからこそ、義兄がどのような女生徒と仲が良いのか気になってしまったのだ。

 でなければ、わざわざ健一に、高橋里美との関係を訊こうとするはずが無い。

 絶対にそうだ。

 玲香は自分の中にあった、心のもやもやを納得させた。


 その後、雑談をして通話を終えようと言う時――

「あと、詩穂美に言いたいことがあるのだけれど」

『なに?』

「いつまでも健一さんのこと『お義兄さん』と呼ばないで欲しいのだけれど。あなたの兄でもなんでもないのだから」

『――――!』

 そんな真面目くさった玲香の言葉に、詩穂美は爆笑していた。

「なんでそんなに笑うのよ」

『そりゃ、笑わずにはいられないでしょ。あの・・玲香がそんなこと言うなんてさ』

「別にいいでしょ」

『じゃあ、なんて呼べば良いのよ。健一さん? それとも健ちゃん?』

「…………名字の真田でいいでしょ」

『それじゃ、玲香と区別が付かないじゃん』

「あなた、私のことは名字で呼んだことないのだから問題ないわ」

『……まあ、そうね。――それにしても、なんだか、真田君・・・に興味が出てきたかも……』

「……詩穂美。なに考えているのよ」

『じゃ、おやすみ、玲香』

 ぷつりと通話が切られる。

 ――なにを考えているのかしら? 詩穂美……

 どうも詩穂美がなにか企んでそうで不安になる玲香だった。

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義妹できました。~クラスメイトが義理の妹になったけど、元々あまり親しくないので気まずいです~ 青雲空 @bluecloud1117

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