第11話 †嵐の中の静けさ†

 「いやー、バイク楽しかったな」


 「ザーニャ機は変形しちゃったのを悪魔パワーでなんとか動かせただけだったから危なかったけどね……」


 あの後、難なく県境を越えて愛しの我が家を内包する大倉庫へと到着。

 ポストに封筒が突っ込んである。

封を開け、出てきたハガキをクイーニャが読み上げる。


 「えー、拝啓皆様方、今回は度重なる襲撃申し訳ございません、返り討ちにあってしまって顔無い。

 最新鋭機の伍式も奪取されて横転」


 なんじゃこりゃ、と一応国語の教師として学校に赴任している彼女がそのふざけた手紙を放り投げる。

 キャッチしたザーニャちゃんが続きを読む。


 「と、いうわけで話し合いをしましょう。

 明日18:00に中心街のショッピングモール3Fフードコートでおk?

 ………軽すぎんだろ」


 礼儀とかには雑なザーニャちゃんですら引いている。

 しかし、そこに記されていた名前は"申巳アキ"。

 あの鵺使いの悪魔術士(ザーニャちゃん談。悪魔本人ではなく契約悪魔の術式を使う人間)だ、そういえば僕らが脱出できたのはアイツが尋問中にどこかへ行ったからだ。

 しっかし胡散臭い、絶対罠だろう……


 「どうだろうな、ちょうどマサルは天涯孤独で知人は私とクイーニャだけ、人質もなくわざわざ呼び出すというのは謎だな。

 まぁ、お前ら如き1人で相手出来るという自信の表れでそれが案外有り得るのが腹立たしいが」


 「うん、とはいえ今回は私が最初から警戒して羅刹を使えるし先手は取れそうじゃない? 行こうよ!」


 さっきまでモンスターマシンの超スピードにビビり散らかして大人しかったクイーニャのテンションが、やにわに高くなる。

 む、封筒に何かのチケットらしきものが同梱されている。


 「なになに、ご家族様用1日フリーパス?

 あのショッピングモール、テーマパーク付きだったなそういえば。ちょうど明日は日曜日だし。

 クイーニャ、これ行きたいの?」


 僕の問いかけを聞いたザーニャが、いやらし~い笑みを浮かべてクイーニャの方へ振り返る。


 「子供だなぁ、クイーニャ?

 立派なのはその胸からぶら下げた脂肪の塊だけか?」


 「べ、別に行きたくなんかないもん!!

 黙れぺったんこ姉貴!!」


 「言ったなこのクソガキ!!」

 「ガキはどっちだい!!」


 また2人がお馴染みの喧嘩を始める。


 「なんだ、2人とも行きたくないの?

 なら、使わないのも勿体ないから僕が1人で行ってくるよ」


 残念だなぁ、2人と遊びに行きたかったなぁ、と呟くオマケ付きでトボトボ歩いてみせる。

 すると2人がつかみ合いを辞め、こちらに向き直る。


 「いや、別に行きたくなくなんかないよな?

 むしろめちゃくちゃ行きたいまである」


 「お姉ちゃんが行きたいって言うならね?

 私もついて行くにやぶさかじゃないね?」


 ……と、いうわけで明日は3人でテーマパークへおでかけ、その後悪魔術士とフードコートで会談という、平和なんだか不穏なんだかどっちつかずな休日を過ごせそうだ。


 やっと住み慣れた家へ入り、冷凍しておいた唐揚げを解凍し、これまた解凍したてほかほかのご飯に載せる。その上に卵を割る。

 〆に醤油を入れた小瓶に生姜をすりおろして、しょうが醤油を作り、たまごかけ唐揚げ丼にかける。

 しょうが醤油で食べる卵かけ唐揚げ丼、完成!!

 暴れまくってお腹が空いていた僕らは一瞬で各々のどんぶりをすぐに平らげる。

 その後、ザーニャちゃんとクイーニャに無理矢理連れられて風呂へ入り(僕は頑として眼を開かなかった)、歯を磨いて(後ろでタオル1枚でうろうろする悪魔っ娘の方は頑として振り向かず)、ベッドへ倒れ込んだ(2人に挟まれて)。

 あまりにも思春期男子には刺激が強すぎる、いつか襲われたらどうするのか。

 そうザーニャちゃんとクイーニャに説くも、


 「やりたきゃやれば良い、どうなっても知らないが」

 「いやん優くんのえっちぃ~」


 という返答があっただけで僕が一人顔を赤くするだけの結果となった(顔を覆う僕の後ろで姉妹がよく似た笑い声を上げた)。

 というかちょっと待て、何さり気なくクイーニャが居着いているんだ。

 そういえばそうだぞ、とザーニャちゃんも声を上げる。

 が、したたかな女クイーニャはしなを作って甘ったるい声で言った。


 「もう1時過ぎよ、私に1人で家まで帰れって言うのぉ……?」


 そして僕とザーニャちゃんは現在時刻をやっと確認、クイーニャの処遇は明日決めればいいや、さっさと寝るかという結論へと同時に至った。

 いやっほう! という掛け声と共にベッドへダイブしてきたクイーニャの豊かな胸部に顔を覆われ視界が真っ暗に、芳しすぎる香りに頭が朦朧とし、直後そのまま僕は意識を落とした。




 ん、遠くから声が聞こえる……


 「……信用するな……真の愛など……」


 な、なんだ。意識がハッキリとしない。


 「存在はしないのだから……」


 そう言って声はフェードアウトし、直後に別の声が聞こえてくる。


 「マサル! 起きろ!!

 朝だ、日曜だ、遊園地だぁぁぁぁ!!!」

 「いぇぇぇぇぇぇぇい!!!」


 むにゃ……もう朝か、さっきのは2人の話し声だったのだろうか?

 それにしては聞き慣れたようで聞き慣れない男の声だった気がするが……


 「おはよう2人とも、元気すぎない……?」


 「そりゃあマサルとデートだからな、お邪魔虫がいるが今日くらいは許してやる」

 「上から目線で腹立つんだよ、でも今日くらいは許してやるんだからねっ」


 2人が同時にまくし立てる。

 そんなに楽しみにしてくれていたのか、僕まで楽しみな気分になってくる。

 が、僕はロングスリーパーなので1時に寝て8時起きは、ちょっとばかしキツいな……とはいえ美少女姉妹とのデートなのだ。

 健全なる紳士としてはそれくらいの代償、目をつむって然るべきである。


 「ふんふふ~ん♪」


 鼻歌交じりにさて、着替えるかとクローゼットを開く。そして気付く。


 「しまった!?

 今まで人と出かけることもないしほぼ制服しか着てなかったんだ、アニメTシャツしかない!?」


 が、焦る僕には構わず姉妹の反応は予想外のものだった。


 「あ! これ〇ライガンのパニッシャーじゃないか!?」


 「こっちはワールド〇リガーの嵐山隊!!」


 ネット漂ってる時にアニメ観てたんだよなぁ、これ着て行こうっと! と2人の声がハモる。

 その反応に僕も安心して、ノゲ〇ラのオメガぐっじょぶTシャツをいそいそと着る。

 そしてクイーニャの準備してくれたピザトースト(想定外にとても料理上手だった。野菜の切り口がとても綺麗に揃っていた)を頬張って舌鼓を打つ。


 「いざしゅっぱーつ!!」


 と、勇んで2人は玄関に向かったが、そこで僕はふと気付く。

 あれ、ここ埠頭の倉庫群だよな。交通機関なくね……?

 が、そんな不安もすぐ解消される。

 昨日乗ったバイクが三台、家の前に並んでいた。


 「行くぜ相棒、ラザニエル弐式!」


 「行っくよ、相棒、天翔あまかけ一式!」


 ハイになっているのか怖がらず、余裕の笑みでクイーニャがバイクに跨がっている。

 そしてお二人、そのバイク伍式で弐式でも一式でもないのでは……

 やれやれ、と肩をすくめながら僕も愛機に搭乗する。


 「行くよ、"閃竜零式"!!!!!」


 「「ってあんたもかいッ!!」」


 僕の掌返しネーミングに、二人のツッコミが入る。

 高鳴る胸と愛機のエンジン音が、晴れ渡った夏の空へと舞い上がった。



 「で、こうなるのか」


 「どうだクイーニャ降参かァ!?」

 「まだまだァ、お姉ちゃんこそじゃないの!?」


 うわおうおわぁぁぁぶわぁぁぁッ!!

 姉妹の激戦コーヒーカップに、最新技術搭載の曲芸軌道ジェットコースター。

 科学の粋集めた博覧会ですか? ってツッコみたくなる過激なアトラクション祭り。

 辿り着いた遊園地は、2人の家族を楽しませるには足る鮮烈さに満ち満ちていた……

 そして、楽しい時間はすぐに過ぎる。

 申巳との会合時間が、迫っていた。

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飽くまで悪魔と契約を!! 風若シオン @KazawakaShion

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