第10話 †疾駆キック†

 「いやっほぅぅぅぅぅ!!!!!

 これ楽しすぎるな、マサル!!!!」

 「いぇぇぇぇぇいぃぃ!!!!!

 楽しすぎるね!!!!」

 「おわぁぁぁお姉ちゃんたち速いよぉぉぉ」


 追っ手から逃走中のテンションではない。

 いや、むしろ追っ手から逃走出来ているからこそのテンションかもしれない。

 少し、遡る……


 ~(監禁先から脱出後)~


 「マサル、なにか逃げるのに良いアシはあるか?」


 「そうだな……あっ、あれ使おう!」


 さっきの国営と思われる謎施設が脱出、僕のスマボはザーニャちゃんが取り返しておいてくれたので手元に。

 地図を開くと学校や家のある県の隣県、その辺境だったので帰れなくはない位置である。

 変に地の利が無い場所だと迎え撃つにも骨が折れる、との悪魔っ娘姉妹の意見により家へ帰ることにする(転移したので埠頭の大倉庫の中にある家屋だが)。

 少し走ると、レンタライドと書かれた、レンタルバイク店の看板が眼に入った。

 ちょうど3台バイクが並んでいる、すぐにスマボをバイクのハンドルの真ん中にかざすと、ホログラムウィンドウがハンドル奥の計器類上に立体的に浮かび上がる。

 そこにいくつかプログラムコードの文字列が走ったかと思うと、非承認、の文字が非常にも浮かび上がる。


 「なんで!?」


 「この施設の奴専用、とか?

 レンタルバイク店はカモフラージュなだけで、承認されたら銃火器装備の装甲単車出てきたりしてな」


 えいやっ、と右手を光らせたザーニャちゃんが3台に手を滑らせる。

 と、その瞬間自動音声のアナウンスが鳴り響く。


 「要請承認、制限解除アンロック

 白線の外側にお下がりください。

 車両搬出後は、直ちに指令に従い出動して下さい。

 承認権限レベル、5」


 ゴゥン、と地の底から響いているかのような重低音が耳に入る。

 アナウンスの通り、地面を見ると白線が正方形にこの無人店舗を囲んでいる。

 急ぎ外に出ると、白線に沿って赤い光が瞬く。

 次の瞬間、床が落ちて空洞が産まれたかに見えたが、すぐに再び床がせり上がってくる。


 「ありゃ、ビンゴだったか」


 システムロックの強制解除なんて荒技をサラッとやってのけた本人の筈のザーニャちゃんがドン引きしている。

 そして、僕は彼女と同じく引きはしたものの、より大きな感情に胸中を埋め尽くされた。

 並ぶ3台のバイク。

 その車両は、一般に出回るバイクとしても最高性能で知られている。

 また、眼前に並ぶType-Aと呼ばれる車種は、普段カウルに特殊な畳み方で薄く収納されている極薄装甲が、走り出す際に展開されドライバーを完全に包み矢のようなシルエットとなり走行時の空気抵抗を最大限無くす。

 かつ超高度AI補正により、走行姿勢・銃火器管制が完全なものとなり空まで飛ぶことが可能。

 その驚異の性能スペックから、バイクの域を超えたマシンとして"車両"ではなく、"機体"と呼称される装甲単車。


 「カワセミのフリューゲル参式Type-A!?

 なんつー機体だ、しかもこれ、フルカスタムの軍事用だぞ!?」


 うっかり早口オタクが顔を覗かせ、後方を警戒していたクイーニャが引いた顔をする。

 やめて、傷付く……

 が、流石我が嫁、ザーニャちゃんは幻滅しないでいてくれたらしい。というか、なんだか様子がおかしい。


 「あっれ、さっきシステム覗いたときは試作伍式あったはずなんだけどなぁ。

 ぽちぽちぽち、あっ、あった」


 不満そうに機体を観ていたザーニャちゃんが不穏なことを呟きながらホログラムに手を滑らせる。

 と、再び床が落ちて、先程並んでいた機体達よりも少し小さいバイクが三台並び直す。


 「……え?」


 「どうせ乗るなら最新機が良いだろ、その方がロマンがある」


 ミリオタの僕すら知らない機体が、顔を覗かせる。

 参式より小さく、正面から見た際の面積が減っている、被弾が減りそうだ。

 ホログラムに機体性能の解説が映し出される。装備は、試作品だからだろう、2つだけ記載されていた。

 ワイヤーアンカー、レールガン。

 字面からしてテンションの上がる装備である、他にも何かあるかな!? と表示をスワイプさせているとクイーニャが大声を張り上げる。


 「ちょ、なに呑気にオタトークしてるの!

 敵さん来ちゃったけど!?」


 「なぬ、急ぐぞ。

 2人とも、さっさと搭乗しろ」


 「ラジャー!」


 昔はあったらしいが、現代ではほぼ全ての車両が高度な自律補正機能を保持しているため、運転免許が要らなくなっているので学生の僕も気軽に乗ることが出来る。

 レンタルバイクには何度か乗ったことがあるが、こんなハイスペマシンに乗った経験は無いが。

 いそいそと車体に跨がる。

 ハンドル中心に嵌めたスマボが、簡素に1つのアイコンを表示させる。

 『Ready?』、もちろんYES!!

 タップするが速いか、車体前面からぶわっ、と薄い装甲パーツが飛び出し車体全面を覆う。

 姿勢補正の賜物で、スタンドが無いのですぐに発車できる。

 アクセルを思い切り捻ると、少し後悔した。

 バゴオォォンッ、ヒィィィィィィン!!

 初っ端からとてつもない加速度、だがGが多少かかるだけで済む、なるほどこれなら誰でもすぐ扱える兵器だ……

 舌を巻きつつ、幹線道路へと繰り出す。

 追っ手のシルエットがホログラムに映し出された後部映像によぎる。

 ハンドルを握る手の力が増す。


 「あっあー、聞こえるか。機体間無線だ」

 「聞こえるよぅぅぅぅ、怖い怖い怖い!!」


 ポコンポコン、と表示が2つ増えてザーニャちゃんとクイーニャの、楽しそうな顔と引き攣った泣き笑いの顔が映る。


 「マサルは、大丈夫そうだな。

 このまま進むとゴーストタウンがあるようだ、そこまで引きつけてから迎え撃つ」


 「あれ? 帰るんじゃなかったの?」


 「気が変わった。マップを見てみろ。

 そのゴーストタウン、どうも私たち少数対追っ手多数に向いてそうじゃないか?」


 言われてマップを音声入力で表示、そのゴーストタウンは元々、サイバーパンク映画撮影用に立てられた後にITビジネス街となった街らしい。

 街の入り口に道路が繋がり、そこで漏斗のようなその入り口を超えるとビルの建ち並ぶ町並みがあるようだ。

 なるほど、この向こう側で待ち伏せして敵が少数ずつ入ってきたのを撃つのか!

 そう僕の上げた声に、ザーニャちゃんが、にひっ、と笑いながら返す。


 「いいや、そんなトロいことはしない」


 そして装備を思い出してみろ、と問われる。


 「そのワイヤーアンカー、使い捨てで高所に射ち出してその引力で宙に飛び上がり滑空する為の装備だ、つまり」


 そして、次の発言はクイーニャの顔色を失わせた。


 「街に突入し次第、前方の高層ビルの壁面にワイヤーアンカーを射出。

 そして車体を思いっきり投げ飛ばしてから滑空、180°旋回してレールガンをぶっ放しながらアイツらの頭上を飛び越える、そのまま道路を行けば県境だ。

 実は今、県境の反対方向に向かってるんだよな」


 でも確かに成功しそうな作戦だ、さっきから素人運転でまともに走れるこの性能があれば可能だろう。

 勇んで街に突入、マップで確認したビルが目前に迫る。

 

 「今!!」


 僕らの駆る3台のマシンが一斉にアンカーを射ち出す。

 壁面に突き刺さり、そこから伸びたワイヤーが車体を宙に浮かせる。

 重量に耐えかねたワイヤーが切れ、アンカーの付け根がパージされる。

 それと同時に機体側面から車体を揺らさぬ精度と速度で翼が展開、空気抵抗も重力も知らないかのような滑らかさで機体が空を舞う。

 そのまま一気に旋回、正面から追っ手の襲撃者達が参式に乗り向かってくる。


 「よし。

 マサル、クイーニャ、撃てェ!!!」

 「「ファイアぁぁぁ!!!!!」」


 ゴッ!!!

 撃ってからかなりの後に射撃音が響く。

 直撃コースの機は事前に脱出したようだ、パイロットが道路脇の森に駆け込む。

 衝撃波で残りの一団も吹っ飛ぶ、流石の姿勢制御も敵わなかったようだ。


 「やったか!?」


 「待てマサル、そのセリフは駄目だ…!!」


 しまった、死亡フラグか!?

 僕の焦りを加速させるようにアラートがなる。

 部隊の隊長だろうか、1機だけ最奥に伍式がいた。

 その伍式が無理矢理ウィリーしたかと思うと、そのままこちらに向かって宙を突き進む。

 照準されていることを知らせるアラートが装甲内に鳴り響く、しまった……!!!

 だが、大丈夫っぽい、とクイーニャが呟く。


 「モードチェンジ、ウォーカー!!」


 画面の端でザーニャちゃんが叫んだ途端、彼女の期待がその推力で展開する機構なのだろう、いきなりバキャッ! と側面が開いて四肢らしきパーツが飛び出し、1回瞬きした間に、流線のシルエットラインが美しい全長3メートル程の人型メカに早変わりしていた。

 飛行形態でなくなったザーニャ機は、1度姿勢を丸めて宙で前転、そのまま重力と慣性に従い急降下していく。

 そして、その進行方向の延長線上にはまさに僕を狙わんとする追っ手の伍式。


 「しまった、名前決めてなかった……よし。

 ザーニャ、キィィィィィック!!!!」


 通信からとても楽しそうな声が聞こえ、ザーニャ機が一気に脚を伸ばす。

日曜日の朝にヒーローが見せるよりはややダーティーな、鮮烈なる蹴擊ドロップキックが敵機を撃破。

 緊急脱出した、中にパイロットの乗ったポッドがこれまた森の中に消えていく。


 蹴り飛ばした敵機体が爆発する閃光を背に、鮮やかな姿勢制御で着地したザーニャ機が、やけに人間くさい動きでサムズアップをこちらに向けた。


 「任務完了ミッションコンプリートぉ!!」


 クイーニャの、お姉ちゃんたらまた調子乗って……、という嘆息は夜の闇に掻き消えた。

 

 

――――――――――――――――――――

(登場機体設定)

カワセミ・フリューゲル参式

→ カワセミ社製の高性能バイク。

  元は防衛警察の警察車両"白バイ"として開発され、後継の肆式が配備以後、一般車両として販売される。

 Type-Aは治安維持用の戦闘・暴徒鎮圧目的でカスタムされた軍事用車種。


カワセミ・フリューゲル試作伍式

→ 現在、防衛警察に現役で配備される肆式の後継機として開発中の試作機。

 参式には無かった、様々な状況へ対応する為の変形機構が備わっている。

 参式と同じくType-Aが存在するが、試作機の為、現在の兵装はレールガンのみ。

 機体表面で受ける空気抵抗による摩擦で発電を行い、本体電源のみならず電力を確保することが可能。

 よって暴発の危険性のある火薬を積まず使用できるレールガンが兵装として選択された。


モードチェンジ:ウォーカー

→ 伍式に搭載された緊急時用変形機能の1つ。

 前輪と後輪の支柱や周辺パーツが、ヒトの四肢にあたる部位へと変形する。

 本来は悪路等でタイヤ走行・ワイヤーアンカーによる飛び越えが不可能な万一の際、手足で脱出に使用する最終手段。

 その為、腕部・脚部共に白兵戦で耐えうる強度は持たないものの、ザーニャ機が行ったように、その類い希なる姿勢制御性能が多少の強引な機動を可能としている。

 

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