第4話 †眷属武装†

 ~(前回のあらすじ)~

 担任教師の正体は、"悪しき悪魔"黒嵐シュヴァルツシュトゥルムだった。

 襲撃されその言葉に惑わされんとする優は、短い関係の中でだが育まれた強くザーニャを思う愛でそれを振り切り、その手に"眷属武装ファミリアアムド"を顕現させる。


 「―眷属武装ファミリアアムド"ザーニャ"!!」


 紫色に光り輝く剣と片翼が、僕の掌と背に顕れる。

 その長剣を構え、黒嵐と対峙する。

 さっきまでの焦りも怖れも霧散した。

 今まで頭の中に留めていた、黒歴史印の『言ってみたい台詞&独自オリジナル技名ノート』のページが高速で繰られてゆく。

 ゆっくり腰を落として刀を構える。

 カキン、っと涼やかで小気味よい音を立てて掌中の刀が斜めに構えられる。

 突然のことに戸惑い動きを止めていた黒嵐が再び動き出す。迫り来るはその2対の黒腕、速い。

 だがなぜか、先程までとは比べられないほどに遅く視える。眷属武装ファミリアアムド、身体強化も付いてるのか?

 ……多分、情けない僕に対するザーニャちゃんの気遣いだろう。

 だが、ならばもう怖れるものは無い!!

 まとめて一気に斬り飛ばしてやるッ!!!


 「―羅斬丹矢ラザーニャ!!!!」


 ラザーニャちゃんの名を冠する、剣技なんて一切知らない僕でも放てる必殺技、

 "羅斬丹矢ラザーニャ"(命名時間3秒)

 技名を叫んで素早く振りかぶり、思いっきり手にした刀を投擲する!!

 刃が紅く輝く赤紫の光刃が撃ち出される。


 「刀構えたのに投げるのかよッ!?」


 そしてそのまま焦燥の表情を浮かべる黒嵐を、宙を斬り裂き進撃する刃が討つ。

 ……本当ならそうなる筈だった。が、僕の投げた刀はナナメに飛んでゆき、全く黒嵐に当たる軌道にはならなかった。


 「焦らすなよ、何処狙ってやがるんだァ!!」


 ……やっちまった。

 流石に戦い慣れているのだろうか、散々隙を見せてくれていた黒嵐が完全に落ち着きを取り戻し鋭く攻撃を放つ。


 先程までの戦闘で障害物は一切ない更地と化した教室だ、防ぐ術は無いのか…ッ!?

 こちらに武器は……そうだ、まだ終わってない!

 背に輝く片翼がある!!

 眼前には既に冥く黒くそれでいて眩く輝く稲妻が迫る。

 だが、僕の右胸辺りに着弾せんとするその雷を見た時、とっさの衝動が身体を突き動かす。

 左腕をテニスのバックハンドみたいに構え、その動きに追従するように背の光翼がしなって僕の身体を包む。

 そのまま、一気に裏拳を放つ!!!


 「―嵐光翼シュトゥルムフリューゲル!!!!」

 「なんとか反撃してきたと思えば直線の攻撃かァ!? 躱しやすくて助かるなぁ~!!!」


 翼が踊り絶大なる衝撃波を伴った暴風が放たれるが、その単純すぎる攻撃は、少し横に跳ぶだけで躱され防がれてしまう。

 ……が、本命はそっちじゃあないッ!!


 「"羅斬丹矢ラザーニャ・廻"!!」


 紫紺の壁に突き刺さる直前だった、さっき投擲に失敗し、ほぼ視界の隅で視えなくなりつつあった長剣。

 それは翼から放たれた強風を受け、急速に軌道を変え、勢いを増して黒嵐に向かう。


 「ぐがァッ!?」


 翼からの衝撃波を防御していた2対の黒腕で自らの視界を塞いでしまっていた黒嵐は、

為す術もなく死角からの刃に貫かれる。

 視覚的には肉体を貫かれているが、何故か柔らかさを感じさせない硬質な破壊音が響き、黒嵐の身体が砕ける。


 「くはッ、なんつー無理矢理な攻撃だ、上手くいって良かったな。

 まさかニンゲンのクソガキ如きに滅魔されるとはな、これだから世界は面白い」


 悪魔の仮身体レプリカがボロボロと崩れ落ちてゆく。

 最後に首から上だけが残り、重力に従い落下する。

 と、突如その引き攣っていた顔が柔らかく目を細めて、見慣れた優しい表情を浮かべる。そして黒嵐、いや、A組担任がこちらに微笑みかけて言葉を遺した。


 「まぁでも、阿久君は生徒としては申し分ない優等生でしたがね。

 ヒトとして生きるのも悪くありませんでしたが、 身中に滾る本能には抗えませんでしたね……

 私の弱さで君を傷付けようとしたこと、本当に申し訳なかった。それでは、さようなら。

 気を付けて下校してくださいね」


 カツ、パリィンッ。

 床に当たって砕け、彼の身体が完全に消え去る。

 その瞬間、周囲を覆う紫紺の壁が砕け散り、その欠片が舞い上がる。

 動体視力が戻ったのだろうか、宙を舞って消えゆく破片の落下速度が少しずつ速くなってゆく。黒嵐を貫いて黒板に刺さっていた長剣と背の片翼が音も無く消える。

 途端に、けたたましいサイレンの音と誰かが僕を呼ぶ声が聞こえてくる。


 「マサル、無事だったか!!!!

 すまなかった、私がもっとちゃんと警戒していれば……!!」


 さっきまでと違い、ちゃんとそこにあるA組教室の扉を開けてザーニャちゃんが駆け寄ってくる。


 「ご、ごめん、心配、させちゃって……

 大丈夫、だよ。この通り、怪我も無い……」


 そう伝えるが、上手く舌が回らない。

 最後に黒嵐、五十嵐先生が遺した言葉。あれは嘘には聞こえなかった。

 なら、あの優しさも本当の性質だったのだろうか。そもそも何故、悪魔が最近顕れるようになったのか。

 解らないことばかりだが、全て繋がっているはずで元凶が何処かに在る、もしくは居るはずだ。

 そこにとてつもない悪意がある予感がして、なんとか難を逃れたものの、僕は怯えに背を震わせた。


 ~(同日22時配信のローカルニュース)~


 今日6/16の16:00、■■高校より警察署へ20人余りの生徒から通報が入りました。

 その内容は全て、直前まで授業を行っていたクラス担任が突如姿を消したとのことで、当初は生徒たちは集団幻覚陥っただけであり教員は外出しただけではないかと判じられました。

 しかし、18時頃に校内の全監視カメラに記録された1日の映像が確認された所、その五十嵐教員は何処にも映っておらず、生徒達の通報内容である忽然と姿を消した、という発言との共通点が見られました。

 その為、警察当局は先日から多発している不可解な事故もしくは事件との関係があるとみて捜査を進めています。

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