第2話 †嵐の前のドタバタ†
学校に向かって、一夜にして我が嫁となった大悪魔のザーニャちゃんと肩を並べ歩く。
晴天も元気にレイリー散乱して、ザーニャちゃんの瞳みたいに美しく青色に輝いている。鞄はいつもより重い。
彼女が作ってくれたお弁当が入っているからだ、とても心地の良い重みである。
「うぅっ、愛妻弁当が食べられるだなんて幸せがすぎる」
「いちいち大げさだな……あくまでも悪魔との契約なんだぞ、もう少し警戒心を持ったらどうだ?
マサルは少々お人好しすぎるぞ」
呆れながらも、慈しんでくれるかのような優しい眼差し(当社調べ)が僕に向けられる。
そろそろ学校が見えてくるという所で、先程ふと気になったことを聞いてみる。
「僕の寝癖直しに頭洗ってくれたけどさ、服とか濡れなかったよね、悪魔的すーぱーパワー?」
「なんだ、濡れ透けな私でも期待していたのか。そうだ、悪魔的すーぱーパワーで防水術式を組んだんだよ。
だから、残念ながらこのボディもマサルの理想に合わせて形成した器の
まぁお望みなら用意してやるが、悪魔とナニかしちゃったらどうなっても責任は取らんぞ、にひひひひっ」
そう言って、腰の砕けそうな小悪魔的笑みを見せる。なんてハレンチな、頭がクラクラしてしまう……あれ?
ここで僕の脳裏に嫌な予感がよぎる。
そういえばザーニャちゃん、僕の好みを把握しすぎじゃなかろうか。彼女は電子の海をサーフィンしていたと言っていなかったか。
まさか、
「まさか、って顔したな?
にひひ、ご明察の通り検索履歴覗いた」
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
なんてことしてくれてるの!? 僕のあーんな趣味やこーんな癖もバレてるの!?」
「そんなもん覗くかバカタレ、好きなキャラクターの傾向とかを見ただけだ!!
なに顔赤くしてるんだ変態、セクハラで訴えてやろうか!? プライバシーに関わりそうなデータは覗いていないから安心しろっ!」
うぅ、何故こちらがこんな思いを……と顔を赤らめてしまったザーニャちゃんを宥め、急ぎ謝る。
周囲を歩く通行人がちらほらと、こちらに犬も食わない物でも見るかのような眼を向けてくるのを感じ、僕の顔も真っ赤になる。
「ご、ごめんよ勘違いだ……」
「うるしゃいこっち見るな、もう着くだろさっさと歩け!!」
ぷんすこ、と失礼ながら起こっていても可愛いザーニャちゃんはズンズン歩いてしまうので慌てて追いかけ隣に並び、また歩き始める。
しばし初々しい気まずい沈黙が続いた後、まだ少し赤い顔をしたまま(意外とザーニャちゃん、悪魔なのに純情なのだろうか)こちらを振り向き、紫色の透明な……十字架? のような形をしたイヤリングを2つ渡してきた。
ザーニャちゃんの顔を見つめると、彼女の耳にも同じ物が付いていることに気が付く。
「これを付けておけ、ラ・ザーニャ印の逆さ十字イヤリングだ。
もし"悪しき悪魔"、まぁそのままの意味だ、悪い悪魔に襲われたりしたときはこのイヤリングに手を添えて、それっぽいイメージをしながらその掌を虚空に滑らせろ。
そしたら多分、イメージした武器が顕れる。むやみに使うなよ、現世では目立つからな。
だが緊急時はすぐに使え、使えば私は気付く。最近は物騒だからな、まぁ私たち悪魔のせいだが」
なんと、彼女の †
カッコいい!! 試したい!!
「……厨二心をくすぐられて悪用するなよ。その時は飯抜き風呂は冷水だ」
「はい、肝に銘じますザーニャ様」
……心中お察しされていた、気を付けよう。
慣れないせいで上手くいかず、しばしカランカラン音を鳴らしながら苦闘して、なんとかイヤリングを耳に付ける。
視界の隅にキランッ、と紫光が煌めくのが非常にカッコいい。ちょっとばかりイタいかもしれないが、誰も僕のこと見ないから無問題!!
そんなことを言っている間に学校に到着。
うきうきしながら彼女からのプレゼントでテンションを上げる僕に、呆れていながらもやっぱり優しげな視線を再び向けて、そういえば学校までついてきていた彼女がしれっと告げる。
「マサルはA組だったな、私はB組に転校生として編入するから寂しくなったら隣に来ると良い。それとも私から出向いた方が良いか?」
んぇっ!? この学校通うの!?
「あぁ、これからはマサルの家で同棲してここに通うぞ。戸籍の時と同じだ、ネット頼りな現代社会の隙を悪魔的すーぱーパワーでなんとかしたんだよ。
マイダーリン、契約者マサルとの"らぶらぶ♡青春生活~学園ラブコメ編~"
そう一方的に言い切って、にやっとお得意の小悪魔スマイルで僕のハートを射貫きつつ、僕が向かっている下駄箱とは反対方向の事務室に駆けていった。
事務員さんに何かを話しかけるザーニャちゃんの余所行きだろうか、初めて聞く落ち着いたトーンの声が聞こえる。
「おはようございます、今日からこの学校に通わせていただく転校生の"
職員室ってどちらでしょうか?」
そんな礼儀正しい悪魔がいるかァ!! と驚いて振り返った僕は、更に驚くこととなった。
振り返るまでの少しの時間で彼女は、清楚系さらさら黒髪ロングの、長すぎず短すぎない適度な落ち着きのあるスカートに、ふわっとその細い体躯を覆うセーター、少しトロンとした瞳が庇護欲をかき立てる、とても可愛い女子高生に……
つまり、僕の好みランキング第2位の姿へと変貌していた。そこまでを脳内実況していた時、イヤリングから声が聞こえた。
『好きだろこういうの、にひひっ』
こちらをちらっと振り返り、あざとい萌え袖から人差し指を出して口元を抑え、下手なウインクをばちこーん。また事務員さんと一言二言何かを話して、たたっ、と駆けていった。
―その姿に目を奪われて立ち尽くす僕のことなんかお構いなしで、始業チャイムが無情にも鳴り始めた。
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