第22話 心配



「あー、疲れた…………」

「私は結構楽しかったけどね」



あれから数時間経って解散、帰り道を最近結婚したばかりの妻と駅まで共に歩いていく。

俺が大きくため息をついて発した言葉に、奏は苦笑しながら反応した。



「てゆーかうるさかったよな、ごめん」

「いや、それはこちらこそっていうか。むしろ大丈夫? みたいな」

「あー…………あれは強烈だった」



どこかこちらを伺うように見る奏に、目を遠くして呟く。

すると一気に真っ青になった彼女に「冗談だよ」と笑って、俺は寒くなった空気に身震いする。


寒いの最悪、と俺が思わず溢すと、「秋も終わるもんねぇ」と呑気に呟いた奏が笑う。



「コートとか、せめて手袋とかでも持ってくるべきだったかな」

「夜は流石に結構寒いよね」



ふふふ、と笑った奏の息は、微かに白い。

それを何ともなしに見ていると、寒さのせいだろうか、頬をほんのりと赤くした奏がこちらを見上げた。



「うわめ、かっっっゎぃ」

「? 瑞稀寒さのせいでなんかおかしいよ?」



寒さではなく、貴方のせいである。

蹲って唸る俺はそう言えるはずもなく、ただ奏の言葉に首を振る。


そうしてしばらくして立ち上がった俺に何か言いたそうな素振りを見せる彼女に、俺は小さく首を傾げた。



「奏、どうした?」

「えっ…………と」



キョロキョロと周りを見渡す彼女に、さらに首を捻る。

それから彼女は一瞬の逡巡の後、くいっと俺の袖を引っ張った。


一歩、彼女との距離が縮まる。


(ちっっっっっっっっっか)


「あの、あのね」

「うっ、うん」



上ずる声に気づかれないよう、平然を装う。

そんな俺に気づいたのか気付いていないのか、いやきっと気づいていないのだろうが――――彼女は俺のほうへまた一歩足を踏み出した。



耳元に、袖を引っ張っていたはずの手が添えられる。



「こうすればさ、」


(ASMRっ!?!?)



かじかんでいた手が、自分と同じくらいの体温に包まれる。

それは決して温かいとは言えなかったけれど、それが何かわかった瞬間、俺は体を震わせた。



「かっ、かなっ、奏さん!?」

「ね、温かいでしょ?」



温かいというか、熱い。

全身から吹き出しそうな熱を制御することができずにただ沈黙を貫く。


すると「瑞稀の手あったかいね」と笑った奏の笑顔が見えて、俺はさらに自身の体温が上がったのを感じた。



(寒いの最悪、ってさっき言ったけど)



寒いの最高、冬万歳である。

とりあえず少し早めの寒さに全力で感謝しながら、俺は手の中にある自分より一回り小さな手を握りしめた。






◇◇◇◇◇







「あー...........明日も会社」



奏が風呂に入っている最中。

さすがに漫画でよくあるラッキースケベ、なんてことをこの年になってしたら通報もんなので、おとなしく部屋にこもることにする。


プロポーズまがいのことをして結婚するまで12年空けてるのに、結婚してから離婚まで1週間未満とか笑えない。本当に笑えない。



「なんか見ようかな」



約1週間ぶりに開いた動画配信サイトは「プロポーズの成功率が上がる方法」という動画の履歴で終わっている。

今見れば何とも胡散臭いそのタイトルに苦笑いしながら、俺は画面をスクロールした。


...........けれどスクロールすれどもすれども出てくるのは、「プロポーズの仕方」「女性に恋愛対象として見られよう!」「疎遠になった同級生との距離の縮め方」などなど、冷静になった今見ると大分痛々しい。

しかしそこで電子書籍を見ても幼馴染との恋愛ものばかりで、俺は最初は苦い笑みで見ていたそれもどんどん笑えなくなり、静かにベッドの上に突っ伏した。



「嘘だろ俺...........」



どれだけ必死だったんだよ、と思わずつぶやく。

けれどその必死のおかげで今があると思えば、まあこの努力が報われてよかったという気持ちも湧いてくるものである。


良かったな俺、と目を遠くしながら何ともなしに呟く。

けれどやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいと顔を覆ったところで、不意に大きな音が手元からなった。



「うわあああっ!!」



あたふたしてその音の主―—――スマホをジャグリングの様に拾い、なんとか電話がかけられた先を確認する。

けれどそこには先ほど別れたばかりの人間―—――『綾瀬』の文字があり、俺はこてりと首を傾げた。



「どうした?」

『あ、天都? 奏さんと無事帰れたか』

「いや、帰れたは帰れたけど...........急にどうした? らしくないな」

『女性の夜道は心配ってだけさ』



奏さんは天都と違って繊細そうだからな、と言う綾瀬に思わず鼻を鳴らす。

そんな繊細そうな彼女に俺がけんかで勝ったことがないというのは、まああとから奏にボコされたくないので黙っておくことにした。



「で? まさかそれだけとは言わないよな」

『あー...........いや、柊クンのこと大丈夫なのか?』

「大丈夫、って」



唐突な言葉に反応できず、小さく首を傾げる。

そんな疑問に思った俺の雰囲気を感じたのか、綾瀬は少し先ほどよりもトーンを落とした。



『だって奏さんから見たら、自分が教えたかわいい後輩だろ。で、柊クンは見ての通り奏さんにぞっこんだし。職場も同じだし』

「うっ」

『12年間何のアクションも起こさなかった天都と比べて、ちゃんと奏さんにアタックしてたぽいし。まあ、気づいてなかったらしいけど』

「蒼井にしろお前にしろ、なんでそんなに俺を攻撃したがるの?」

『事実だろ』

「事実は時として人を傷つけるんだよ。覚えときな」



まあ、要はちゃんと取られないように注意しとけよってこと、と言葉を付け足した綾瀬に軽く返事を返す。

確かにああいうタイプはやるときはやるからなと頭の中で考えながら、俺はふっと息を吐いた。



「で? そんな君の心情の中で心配は何割ですか?」

「3割」

「残りは?」

「昼ドラ展開みたいなっていう気持ち」

「地獄に落ちろ」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




すみません大遅刻です!

そして私の心情としては...........明日も更新、できたらいいなって...........。

頑張ります。たぶんできるはず。たぶん、きっと、おそらく。


頑張ります、、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る