第11話 残念だったな


「いや............どんなって」

「ほら、レストランでロマンチックに告白とかさ!」

「そんな派手な方法で告白するわかなかろう」



それはお前だけだ、と俺が呆れたようにいうと、「えー」と唇を尖らせた恭弥が俯く。

だが次の瞬間置かれた手と共に、とても綺麗な笑顔を浮かべた恭弥の顔が目前に迫った。



「けど俺はな。まだお前が交際0ヶ月で結婚っていう話を詳しく聞かせてもらっていないんだよ」

「まあ話してない、しっ」

「で、俺にはそれを聞く権利があると思うんだけど」

「喜んで話させていただきます」



美人は怒ると怖い、というが、それは男子美形にも適用内である。






◇◇◇◇◇






とても美しい笑顔を浮かべた青年により突如始まった男子会は、「そもそも」と言う恭弥の声で幕を開けた。



「お前は奏とどんぐらいの頻度で会ってたんだよ」

「…………0」

「は?」




ピタ、とノンアルコールビールに向かい伸ばしていた恭弥の手が止まる。

先ほどまで寸分の狂いもない美しい笑みが浮かんでいたその顔は、少しだけだが口元が引き攣っていた。



「待て。待て待て待て待て。…………待て、一旦落ち着け」

「お前がな」



すう、はあ。と大きく息を吸った恭弥がじっと俺を見つめる。

そしてしばらくして上げられた親友の顔は、戦場で死を覚悟した戦士のようだった。



「…………何が0だって?」

「その…………会った回数、デス」



人間ここまで顔面を引き攣らせることが出来るのか、とやや現実逃避で考える。

そして最大限顔を歪めた親友は、次の瞬間顔を阿修羅のように変えた。



「このアホんだら!!」

「奏にも言われたわそれ…………重みは違ったけど」

「当たり前だこのヘタレ! チキン!!」



「奏が可哀想すぎる…………」と机に突っ伏している恭弥に、俺は何も言えず黙り込む。

でも、と続けようとした俺の口に、そいつは机の上に置いてあったサラミを突っ込んだ。



「うま」

「いいか! お前が! チキンの、ヘタレの、お前が!! 言い訳をする権利なんてない!!」

「このサラミうまいぞ恭弥」

「なあ殴っていいか?」

「ごめんなさい」



チキンだヘタレだとは思っていたが、ここまでとは想定外だった…………と呟いた恭弥の目はもはやどこを見ているのかがわからないくらい虚ろになっている。

そんな状態からしばらくして、恭弥は乾いた笑い声を上げながら俺を見た。



「で? プロポーズはいつ頃」

「…………鍋を準備してる時、お互いの30歳の誕生日にプロポーズしたって言ったろ? ほら、俺と奏の誕生日同じだから」



流石にきまりが悪いので、恭弥の目から少し下を見ながら話す。

ああ、言ったけど、と軽い相槌を打った恭弥は、ふと小さく首を傾げた。



「てか俺、その時も不思議に思ったんだよ。なんで30歳の誕生日? って」

「あー、それは…………昔、約束したんだよ」

「昔の、約束?」



「待て、なんだか嫌な予感がする」と言った恭弥は、ノンアルコールビールを一口飲む。

そうして続きを促した恭弥は、頭を押さえながら俺を見上げた。



「まさかその約束、5年前————とか言わないよな?」

「はっ、残念だったな」



恐る恐ると言うように口に出した恭弥の言葉に、俺は鼻で笑う。

今回ばかりは外れてよかった、と目を遠くした親友に、俺はさらに目を遠くさせて言葉を重ねた。



「12年前だ」

「クソ野郎じゃねえか」




———————————————————————————




明日も更新する予定です!10時ごろです!


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら星を入れてくださると嬉しいです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る