第10話 酔っ払いの本音



「ちゅーは!? ねえちゅーは!?」

「こんな............こんなに大きくなって..............」

「成人してるんだよ」



ビール片手に迫ってくる日和と、ぽろぽろと涙を溢しながらビールを飲み続ける恭弥を見て、今日は厄日なのかと目を遠くする。

両親にしろ親友達にしろ俺の周りには碌な人間がいない、と考えている頭には「類は友を呼ぶ」ということわざが浮かんだが、俺はそれを恭弥の頭を叩くことで打ち消した。



「キュゥ..............」

「よしまずは一人」

「物理的攻撃すぎる」



恐れ慄いた奏がそう言うけれど、そういう奏もかなりの武道派なのを俺は知っている。

子供の時から柔道を習っている奏に喧嘩で勝てたことはないことを思い出し、俺は少しだけ目を遠くした。



「さて次は日和だが」

「ねえちゅーは!? ちゅーは!?」

「お前は恭弥と飽きるほどしてるだろうに」



そんなに人の恋愛話なんて聞いて何が楽しいんだか、と俺がぼそりと呟くと、奏も頷きながら苦笑いする。

その瞬間、机に突っ伏していた日和が奇声を上げながら机の上に足を置いた。



「コラ行儀が悪い」

「私たちはなあ! 奏達のことを心配してるんだぞお!」

「そんな心配される年じゃねえんだよな」

「だって...........小さい時から拗らせに拗らせて、三十路に入ってやっと結婚って.........うう...........絶対訳ありじゃない...........」

「「うっ」」



恭弥の泣き上戸が移ったのか、最初はやいのやいのと騒いでいただけだった日和も泣き始め————やがて穏やかな寝息を立て始める。

二人とも楽しそうに酔うねえ、と言った奏が目をそっと逸らしたのが、長年心配してくれていたらしい親友達に対する全ての答えであった。






◇◇◇◇◇





30分後。



「いや............ごめんって」

「本当にな」



お前らは余計なことをしない、とため息をつく。

けれど今日突然訪れた親友達がなんだかんだで心配してくれていたことを知ってしまった今、強く責めることは俺にはできなかった。


————あの後客人二人が眠ってしまったため、俺は恭弥、奏は日和をそれぞれの部屋へ連れて行った。

まあ、奏の部屋といっても使っていなかったあまりの部屋だけれども、仕事ができる彼女はいつの間にかだいぶ模様替えをしていたらしいが。



「あー、もう。余計なお世話だっての」

「そりゃ心配もするだろ。俺らは中学から一緒だったけど、お前らは幼稚園、小学校、中学校、高校まで一緒だったわけだろ? チャンスは腐るほどあったはずだし」

「うっ」

「えーと、3+6+3+3で............15年間? うっわ、なんでこんな長い期間があって告れないんだよ」

「なあ酔いが覚めてから辛辣すぎないか」

「そら手刀で気絶させられたら多少辛辣にもなるわ」



じと、と半眼で俺を見つめてくる恭弥に両手をあげる。

そんなお前を看病したのも俺だから許せ、と言うと、「ま、それと今のでチャラにしてやるよ」と笑った恭弥に、なるほどこれは確かにモテるなと頷いた。



「結婚してからも女子が寄ってくるんだっけ?」

「結婚してから逆に増えたぐらいだな。まあ、既婚者に魅力を感じるって人は一定数いるみたいだし。あ、これ日和には内緒な? 俺の可愛い奥さんが嫉妬しちゃうからさ」



壁を指差してウインクした恭弥に、「言われなくともそんなことわざわざ伝えたりしない」と苦笑いする。

隣の部屋も盛り上がっているのを見るに、どうやら日和の方も起きて奏と談笑しているようだ。


学生時代からとてもモテていた親友は、日和という恋人ができても異性から告白されることが多く、本人自身もよく手を焼いていたが、どうやら今も変わっていないらしい。

モテるのも大変だな、と俺が言うと、「言っとくけどな」と俺の鼻先を指さして恭弥は言った。



「お前も結構モテてたからな? 顔よし、頭よし、運動神経よし、性格は...........少し、いやだいぶヘタレだけど」

「やかましい」

「俺のことを好きな子が派手な子が多かったってだけで、お前もそこそこ人気あったんだからな」

「はあ」



またこいつはつまらぬ冗談を言う、といつものように流すと、これまたいつものように「だー、こいつはー」とため息をつく。

奏っていう防波堤がいたから全然告白されなかっただけだからな、とジト目で付け足された一言に、俺がもう一度ため息をついた。



「いや、お前は日和という防波堤がいても告白されてただろうが。つまりそういうことだろ」

「いや告白は..........お前が気づいてないだけで結構されて.............いや何にもない」



今までの女の子達が不憫だな、と呟く恭弥は、チベットスナギツネの顔をした後に俺に向き直る。

先ほどまでの寂れた雰囲気はどこかへ行き、そこにはいつも通り目をキラキラと輝かせた親友がいた。



「で、そんな瑞稀くんはどうやってプロポーズしたんですか!」

「さてはお前それが本音だろ」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




少しリアルの方が忙しく、更新できていなくてすみません!

本日10時ごろにももう一度投稿させていただきます!

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