第8話 拗らせなかった大人の訪問
「ねえー、瑞樹くんちょっとよそよそしいんじゃないー?」
「お帰り下さい」
「ちょっと、奏も冷たくないー?」
「お帰り下さい」
つんつんつんつん、と永遠に頬をつつく男女とつつかれる男女それぞれ一組ずつ。
離れろ、とそれぞれを引き離した後――――俺らは、ぶはっと四人同時に噴き出した。
「あっはははは!! お前ダル絡みうぜーんだよやめろよ!」
「はあー!? この
「ダハハハハハ!!」
ひいっと俺が笑うと、そいつ――――
そんな俺たちの机を挟んだ先では、女子たちもまた盛り上がっていた。
「来るなら連絡くらいちょうだいよ!」
「だってサプライズしたかったんだよ!!」
「変なサプライズ魂いらないから!」
俺たちより高い笑い声がまた響く。
奏でほどではないにしろ久しぶりに会った友人たちは、まるで自分の部屋かのようにくつろいでいる。
そんな友人たちに呆れながらも、俺は突然の来訪がなんだかんだで嬉しかったりもした。
俺と折原恭弥と、そして奏と一緒に笑っている女性————神崎…………いや、折原
それぞれ中学高校と一緒になり、大学では離れてしまったが、俺にとってどちらも大切な友人であり。
そして、名前でなんとなくわかると思うが————-こいつらは夫婦である。
「まあ?」
「とりあえず」
「「結婚おめでとー!!」」
そして、こちらとしては涙が出るほど羨ましい、「拗らせなかった大人」であった。
◇◇◇◇◇
「いやぁ、まさかお前らが結婚するのにこんなにも時間がかかるとはなぁ…………」
飲むのは夕食の準備をしてから、とういことで、少し早めだが鍋を男二人組で準備する。
料理の苦手な女性二人はリビングにて歓談中だ。
結婚祝いにいい酒買った、とドヤ顔をしてくる男友達には頭が上がらない。
冷蔵庫に2日ほど前に買っていたいわしをさてどうしようかと考え、まあ鍋に突っ込もうかと捌いていたところで、さっきの恭弥の言葉であった。
「そこは『結婚すると思わなかった』じゃないんだな…………」
「まあ、結婚するにしろしないにしろ、付き合うとは思ってたし」
先ほどのしみじみとした口調とは打って変わりケロリと言ったそいつは、「で」と唇の端を上げる。
切り身を包丁で軽く叩いている俺の横でタネを作っているそいつは、結婚3年目である。
3年目と聞けば相手にも冷める頃だと聞くが、中学から付き合ってきたこいつらに倦怠期というものは存在しない。
そのことを知っている俺は顔を近づけてくるそいつから懸命に顔を逸らした。
「結婚するまでの過程をね、聞きたいわけですよ親友としては」
「うるさいうるさいうるさい! お前は自分の奥さんで満足しとけ!」
「え? 日和の可愛い話が聞きたいって???」
「言ってない!」
誰がお前の惚気なんて聞くか! と返すと、とてもいい笑顔が返ってくる。
それに思い切り顔を顰めると、そいつは整った顔に少し諦めたような顔をした。
「ま、惚気は今度の機会なんだけど」
「やめてくれ」
「一つだけ! 一つだけ質問させてくれよ!」
「…………一つだけなら」
何回も質問されるよりはいいかと思い頷く。
すると、なんでお前が渋い顔をするんだよ、と不満そうな顔をした恭弥が俺の手元から切り身を奪いながら言った。
「一週間既読スルーされてたと思ったら、昨日の夜いきなりメールが来てさ」
「いやおやすみにどう返せと。メンヘラ彼女か」
「『奏と結婚した』の一言で! 経緯は!? 過程は!? プロポーズの言葉は!?」
手元のタネをぐしゃりと握りつぶしている恭弥を横目で見ながら人参を洗う。
鼻息荒く興奮しているそいつをチラリと見ながら、俺は口を開いた。
「で、質問は」
「交際何ヶ月ですか!!」
あんなに拗らせたお前たちだから、結婚するのにもさぞ時間がかかっただろう、と頷く恭弥が引き出しから土鍋を取り出す。
そんなそいつが持っている鍋に俺はにんじんを入れながら、俺は端的に言葉を返した。
「0ヶ月だぞ」
「…………は?」
恭弥の手から取り落とされた土鍋を間一髪でキャッチした俺は、なかなかいい仕事をしたと思う。
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明日は英単語テストです! お疲れ様でした!!
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