第7話 さらに拗らせる
「うん。愛し合ってるのは分かったから。もういいわ」
どこか呆れたような母の言葉でこの気まずい空間が終わり、正直少しホッとする。
まだどこか顔が赤いままの奏を一瞥し冷汗が首筋を流れながらも、結局『義両親の挨拶』というそこそこ大きいイベントは特に何事も起こることは................なく、うん、ないったらない、ないのだ。まあ、つつがなく幕を閉じたのであった。
そして、「今日は遅いしもう泊まったら?」という母の言葉でそれぞれ久しぶりに実家で過ごすことなり。
引っ張り出されたアルバムで黒歴史を大暴露されたことで気恥ずかしさもくそもなくなったことで、天都瑞樹の思春期も同時に終わりを告げた。
◇◇◇◇◇
「なんか................酷い目に合った」
「いや、ほんとに」
俺が遠くを見てふっと笑うと、同じような顔をした奏が隣に並ぶ。
本日朝一の便で空港を出発した俺たちは、ちょうど昼頃に家に帰っている途中だった。
「ところで」
「はい」
「もしかして奏って俺の事ずっと嫌いだった?」
俺が横目で様子をうかがいながらそう言うと、ぴたりと歩みを止めた奏がこちらを向く。
その視線がどう見ても毛虫に向ける視線過ぎて、俺は思わずたじろいだ。
「えっ、なに」
「いやこっちのセリフなんですけど???」
なんでそうなんの? 馬鹿なの?? と負のオーラを漂わせながらこちらに詰め寄ってくる奏に顔を引きつらせる。
だって手繋げたとき怒ってたから、となぜか俺が言い訳っぽくぼそぼそと告げると、彼女は視線を釣り上げた。
「あんたね! なんで私が12年間も待ってたと思ってんの!?」
「................なんで?」
「いっぺん死んで来い」
「ええええ」
(................でも、だって)
「待ってた」という言葉に頬が蒸気するけれど、期待をしてはいけないと首を振る。
だって、彼女は前にも俺の事を「大嫌い」と告げた。
それも、今回よりもはっきりと、言葉で。
————彼女が俺を「好き」になってくれるなんて、ありえないのだから。
そうため息をつきながら、ただ一言「好き」と言えば終わるものを――――まあそう簡単にいかないから拗らせているのだが――――拗らせた大人はさらに拗らせる。
前を行く想い人の背中を見つめながらしゃがみこんだ男のスマホがぴろんっと軽快な音を立てた。
◇◇◇◇◇
「はあああ、我が家ありがとう」
「早く片付けてよね」
「俺の家に押しかけてそういうこと言わないでくれませんかね」
傷つくよ、俺泣いちゃうよ、というと、「あっそ」というなんとも冷たい言葉が返ってくる。
「結婚相手」ではなく「幼馴染」としての会話に少し安心している自分が情けないけれど、だって嫌われたくないんだから仕方がない。
そう心の中で言い訳していると、俺のほったらかしにされている衣類とにらめっこをしていた奏が不意にポケットを探る。
「ん? あれ、私のスマホじゃなかった」
「どうした?」
「いや、スマホの音がした気がして」
確かに私の音だと思ったんだけど、と首を傾げる彼女の言葉を数秒考えた後、そういえば俺と彼女のスマホの着信音は同じだったと思い出す。
どちらも初期設定のまま変えていないのだから仕方がないけれど、これは変える必要があるかもしれないと苦笑いしながら、俺は自身のスマホを探した。
「えー。あれ、どこだ」
「さっき床にポイってしてたでしょ。って、だから見つかんないじゃん」
敷かれたカーペットの上に衣類やらパソコンやら資料やらが散らかっている状態に奏がため息をつく。
私鳴らすから、とスマホを取り出した彼女にお礼を言って、俺はしゃがんでスマホ探索のポーズに入った。
「だっさ」
「うるせ」
トゥルル、と軽快な音がクリーム色の電子機器からなると、それと同じ音がわずかに聞こえる。
どこだ、と顔を顰めて耳をすませば、その音が自分がいる場所からそう離れていない場所にあると気づいた。
「あっ、」
――――ピンポーン。
そしてスマホを掲げた瞬間、何とも間抜けなインターホンの音が響く。
はて、何か郵便物でもあっただろうかと思いながら扉を開くと、そこには二人の男女が佇んでいて――――俺は思わずため息をつく。
「「みーずきくーん。あーそびーましょー♡」」
「................ハーアーイ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ちょっと遅刻ですすみません! 模試は終わりました!! ありがとうございました!!
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