第6話 拗らせた大人達
「見せるよ。愛し合ってる証拠」
「…………へ」
俺が奈津を見ながらそう告げると、奏は驚いたように俺の裾を引っ張る。
「ちょっと瑞稀、何言ってんの。というか何を、」
「…………瑞稀くん。春菜のことはあまり気にせず、無理しないでいいんだよ」
これまで黙っていた奏の父がそう言って笑い、隣の春菜の頭の上に手を置く。
それに少しむくれた春菜は、「だって可愛い娘が結婚したんだもの〜」と言ったあとこちらを上目遣いで見上げた。
「ごめんなさいね。こっちもテンションが昂っちゃって…………」
「でも、それとこれとは話が別よ」
話がおさまりかけていたところで、奈津の声が響く。
それに息を呑んだ俺たちを見て、母は父へ視線を向けた。
「ね、そう思うでしょ?」
「…………途中で決めたことを投げ出すのはよくない」
「この愛妻家め」
春菜の夫は結構な愛妻家であるが、うちの家はその比ではない。
「お金が好きな母さんが好き」と公言している我が家の父は、奈津の言うことは絶対とばかりにベタ惚れであった。
「…………じゃ、じゃあ。愛し合ってる証拠は」
「見せなさい」
「アッハイ」
そして我が家のルールも奈津の言うことは絶対である。
母>>>>>父=俺という悲しいヒエラルキーがゆえ、結局話は冒頭に戻った。
「ねえ瑞稀、どうする気なの?」
「…………手を、出して貰ってもよろしいでしょうか」
顔を逸らしながらそう言うと、彼女はクエスチョンマークを浮かべながらも手を机の上に置く。
それがどうしたと顔を向ける奏に、俺は「ごめん」と一言告げた。
「は? いやなにが」
「...............手、を...............握りました」
「「「「.....................」」」」
俺がぐっと力を入れて顔どころか体ごと逸らそうとするのを堪え、正面の四人の目をみる。
だが目の前の四人も隣の奏も————奏はなぜか顔から湯気が出ているけれど————固まったまま動かない。
そんな光景が数十秒ほど続いたのち、不意に大きなため息が響いた。
「..............うん。うん、わかった」
「えっと、何が」
「貴方達がここまで拗らせてきたのは理由があるって、よおおおおおおくわかった」
ふっと遠くを見る母、それに肩にぽんと手を置く春菜、そしてそんな妻を見守る父二人。
さてさて残念なことにこの男、自らこの状況を作り出した元凶の割に、その理由がわかっていないアホであった。
(..............拗らせてきた、理由)
俺はただ、自分が想いを伝える事ができなかったからだと思っていたけれど、拗らせてきたのには理由があったということ。
「貴方達」が拗らせてきた理由。..............つまり、奏側にも関係のある事。
ちらり、と横目で奏を伺うと、顔を赤くした奏がまだ固まっているのが見える。
それをじっと見つめていたけれど、不意に一つの考えが俺の頭に浮かんだ。
(今、奏は怒ってる? よな。つまり...........奏はずっと俺のことが、嫌いだった?)
————そしてさらに残念なことにこの男、自分が
「............っ、ごめん」
慌てて手を離すと、その拍子に固まっていた奏がハッとこっちを見る。
いや、別に、と小さく掠れた言葉に、彼女が無理して声を発しているのがわかった。
「ほんとごめ」
「別にいい」
————そしてそんなアホと結婚することになったこの女も、なかなかのバカであった。
彼女の中では「別にいい」=「別に(嫌じゃないから)いい」である。
しかし、そんなことはアホに通じるはずもなく。
結局片思いを拗らせた高校生は、12年経って大人になっても拗らせたままだったのである。
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間に合いました!! 明日模試です! お疲れ様でした!!
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