第4話 自然の景色

 ぼんやり目をこすると、オレンジのまばゆい光が目にうつる。


 どうやら、朝から夕方まで半日も寝てしまったらしい。


 外を見てみるに野営の準備をしているようだ。護衛にメイドにあの少女も居る。


 お礼を言ったり、名前を尋ねたり、この世界の情報を集めたり、いろいろしないと!


 馬車の外に出ると、夕日に照らされた草原が広がっていた。ほのかに吹く風が心地よかった。






「こんなに、綺麗だったんだ」


 あの夜、景色を見て綺麗だと十分思っていたつもりだが、そんなことはなかったらしい。


「本当に、綺麗だなぁ」


「きれい、だなぁ」


 ――夜の草原だって、大きな狼に追いかけられて走り、転んで囲まれたときだって…


 なんで、私がこんな事っにって


 私じゃなくても他にもたくさん居るんだから、いいじゃんって


 本当は……怖かった


 いや、今も怖いんだ


「こわいよ」


 目から温かい物が頬を伝った。


「なんだ……」


「私、全然余裕ないじゃん」


 私は自虐的な顔をしながら涙を流した。


「何、泣いてるのよ…」


「ねぇ」


 急に、そんな言葉が聞こえてきた。


 背中に温かい感触がした。


 少女が私の背中をさすったらしい。


「別に、何でもない」


「けど、」


「ありがとうっ、」


 何故か分からない、けれどとても心が軽くなった気がした。


 途切れ途切れの小さな音を私がつむぐ。


「私は、」


「夜久瑠璃っていいます、」


「あなたの」


「なまえ、は、」


 その言葉は、たとえ小さくとも、確かに少女の耳に届いた。


 少女は凜とした声で答えた。


「私の名前は、ソレイユ・エルティア」


「エル、でいいわ。」


 エルティア……いや、エルは私が泣き止むまで、ずっと付き添ってくれた。


 雲一つないオレンジ色と瑠璃色が混じり合った空。


 風になびく緑の絨毯。


 涙越しで見渡す限りずっと続くその景色は、


 今までで一番、輝いて見えた。

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