「着いてきて!!」

 あの後。

お嬢様は滅茶苦茶ボコボコにされた。

…いや、語弊がある。


何の偶然か奇跡か、剣術指南役の一撃をはじいたお嬢様。

お嬢様はたいそうお喜びになりました。

戦ってる途中なのに。

「そうか…!前、下、斜め前の順で意識して攻撃する感覚でいいのね…!!」

とかわけわかんない事を呟いてる中、はじかれた指南役のなにかに火をつけてしまったようで、そのまま追撃の2撃、3撃で倒れることになった。


だがお嬢様が倒れた後、指南役は何を血迷ったのか

「お嬢様には何か光るものがあります。ぜひ改めてちゃんと剣の稽古をさせていただきたい。」

のたまい出したのだ。

…遠回しな殺害計画か?

なんて思考を巡らせてしまったのが私の運の尽き。

お嬢様はそれにしっかりOKサインを出していた。

出してしまっていたのだ。



つまり。

「今日は疲れたわね~モ…モズ?でも、剣の指南役は捕まえたられたわ。これで少しずつでも強くなって、いきなり不意打ち破滅エンドの道は回避出来るわね!!あなたも付き合ってよ?ふふ、明日から忙しくなるわよ~~~!!!」

「スズです、お嬢様。」

そう、つまり。


このお嬢様の悪役令嬢ごっこちゃばんげきにまだまだ振り回されなければならないのである。

嗚呼、わたしののんびりマイペースライフが…。

ちょっと前まで我儘とか罵倒を聞き流すだけで済んでいたマイペースライフが…。


いやあれはあれで結構辛かったけれど…。


…ん?


「失礼ですがお嬢様。」

「何かしら、スズ。」



「お嬢様の見た未来に、私はいましたか?」


いないなら無理に私が付いていく必要もない。

剣術の稽古もついていく必要は無いし、なんだかよく分からないけれど前の性格の悪さがマシになった以上、他のメイドがついても何ら問題はない。

「いなかったなら────」

別にお付きの仕事とかじゃなくてもいいし。

ちょうどいいくらいの仕事をこなして、私は安心して熟睡したいんだよ。


とか、向上心のかけらもない小物的な発想をしていたら、なぜか抱きしめられた。

お嬢様に。


…いや何で?

「いなくても連れていくから。」

え。

「あの?ちょっと放していただけると…」

「離さないから!!」

耳もとで叫ばないでくださる…?

「絶対一緒に連れて行ぐがら゛!!!!」

その状態で泣かないでください…ちょ…服に…


……あー。なんか知らないけど泣かせちゃった。

これ悪いの私か。…私か?

「はいはい分かりました。スズはお嬢様にどこまでもお供しますよ~~…」

「う゛~……。」

そのまま例のごとくささやき睡眠魔法で落して、力が抜けたところをベッドに放り投げる。

流れでなんか柄にもない約束しちゃったけど、まあ明日になったら忘れてるでしょう。ははは。


…忘れていてください、お願いします。マジで。


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