「訓練よ!!」
朝っぱらから私の部屋に飛び込んできたお嬢様は、開口一番そう叫んだ。
朝っぱらとは言うが、起きてる人は料理長とかの立場が上の人ぐらいで、私たちのような平従者が起きていい時間帯ではない、真っ暗な朝である。
剣の訓練も魔法の訓練も近所迷惑でしかない。
「そうですか。頑張ってくださいね。」
ので、私は毛布を奪い返して再び寝ることにした。
「一人じゃ寂しいー!!それに一緒に強くならなきゃ意味ないでしょー!!」
は?
「意味が無いとは…」
メイドに強さを求めるのはお嬢様の年代の男児ぐらいだと思うが…。
「ふふ…気になるかしら?モルモル」
「スズです、お嬢様。」
しまった、聞く姿勢を見せてしまった。
───幾多の戦場、艱難辛苦を超え、悪役令嬢の道を回避してきた私…しかしそれでも力及ばず、仲間たちが涙を流して見守る中、私に大量の敵が一斉に群がり、あわや
THE END…。
と思われたその時、一筋の光が閃き、敵がバーンって感じで吹き飛ばされるの。そして死を覚悟していた私が目を開けるとそこには…!
『門限を過ぎてしまっていますよ、お嬢様』
ド ン!!!!!!!!───
「かっこよくないかしら!?!?!?」
「かっこよくないですね。寝ます。」
あほか。
「ちょっとーーー!?」
そして、正午過ぎ。
「いいのでしょうか…。」
「いいんです。今回は10割でやってもいいですよ。」
「流石にそれは、やめておきますよ…。今回は三割にしておきましょう。」
「いつでもいいからねーーーー。あーでも始めるときは『始めー!!』って言ってねー!!」
遠くからお嬢様がぶんぶんと木刀を振る。
私たちは昨日の惨事の場所である、剣術指南の稽古場に来ていた。
結局あの後ひたすら「訓練」とささやかれ続けて根負けした私は、いっそ
昨日と同じ目に合わせて無力感を味わわせ、やる気を削ぐことにした。
…なんならもう一度頭を強打してくれてもいいぐらいである。
「それじゃあ行きますよお嬢様ーー。」
「ドーンと来なさい!…えーっと、剣術担当の…スパディ!!だったわよね…?この悪役令…じゃなかった。スペシャル令嬢ディーカ様が受け止めてあげるわ!!!!」
周囲の観戦している兵士たちはにやにや笑う。
ってかむしろ胸を借りているのはあちら側だというのに何様のつもりなのでしょうか。もうこの指南役じゃなくて私がぶん殴りたい。てかスペシャル令嬢って何。
私が位置にについたところで空気が変わる。
互いに木刀を構え、指南役の方に至っては今にも爆発しそうな気迫がある。
お嬢様の方は呼吸がまともにできているか怪しいほど不安定な状態である。
…結果が分かっている以上、早めに終わらせよう。
そして寝よう。
「始め!!」
瞬間、向かって右側が爆発した。
…指南役が踏み切った衝撃で、目の前を砂塵が舞う。
同じ人間とは思えないし、思いたくない。
というかただの一貴族の館にいる剣術指南役がこんな化け物じみた能力であっていいはずがない。
そして左側。お嬢様。
「……あの技の隠しコマンド的なのが確か…あれ、現実でコマンドってどうやって打てば…?」
と手元を見るばかり。
…ふっ。
お疲れさまでした。
指南役の影がお嬢様に迫る。
木刀とはいえあの勢いで頭に直撃したら、今度は1日昏倒もありえるかもしれない。
その日はきっと暇になる。
せっかくだし少し高い買い物に出よう。
たまには外食もいいかもしれない。
あるいは物を見て歩くだけでも────
左側が爆発した。
見なくても分かる。
決まった。
しかし
「何だとっ!?」
予想に反してその場に響いていたのは、かぁんと木と木がぶつかる高い音。
「「嘘ォ!?」」
これは私の声。
…と、お嬢様の声。
あろうことかあのお嬢様が。
細腕で、武の心得も無く、相手を全く見ていなかった状態で。
指南役の一撃を弾いていたのだった。
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