「私は…!」

「悪役令嬢?」

お嬢様の口から出た言葉をそのまま繰り返す。

悪役令嬢。

どうやらお嬢様はそういう…種族?らしい。

「そうですか、頑張ってくださいね。お休みなさいませ。」


急に未来が見えるとか口走ったかと思えば、次は「私、謎の種族」宣言である。

脳に使う酸素とか糖分が足りなくなる。もう寝よう。すぐ寝よう。

明日になれば元のやかましいお嬢様に戻っていることだろう。

「まって!待ってってばぁ!!モ…なんとかちゃん!!」

「スズです。お嬢様…。」


服を引っ張らないでください。はしたないですよ。


「ええとね、なんていったらいいのかな……そう、物語!!」

お嬢様はベッドに胡坐をかいて語り始めた。


「私が頭を打った時、その…なんて言ったらいいんだろう。ある記憶が流れ込んできたの。それは、この世界を一つの物語としてプレ…読んだ記憶。」


「そこで私…というか、この体?というか。とにかく私は沢山悪いことをしちゃって、その結果もっと悪いやつらに利用されちゃったり、かっこいいイケメンたちに殺されちゃったりしちゃうのよ~!!!!!」


はあ。嘘くさ。

・・・・・・・・・・・・。

「お言葉ですがお嬢様。」

「ぐすっ…何…?」

「悪いことしなければいいだけでは?」

「それが出来れば苦労しないわよ~~~~~~!!!!!!!」

こわ。

悪いことしないと死ぬ呪いにでもかかっているのだろうか。魔王かな?


「私がしたことのフラグになって悪い事判定になるか分かんないもん~!!」

じたばたとベッドの上で駄々をこねる。埃が舞う。


何が悪い事かと聞かれれば、この状況こそが悪い事なのだが、まぁメイドに人権はないのかもしれないなと口を閉ざす。


「明日考えましょうお嬢様。」

とりあえず寝たい。

「や~だ~!!時は一刻を争うのよ!!」

こうなれば止むをえません。

私はお嬢様のベッドに両手を広げてダイブし、

そのままお嬢様を抱きしめました。

「えぇっ!?スズちゃん放して!?…そんな……私たちもしかして…もうそういう関け…」


アホなこと口走っていますが知ったことではありません。そのまま耳元で催眠魔法を囁けば、10秒もたたずに誰であろうと夢の中です。

「・・・・・・・・・・・・・シュルルルルル・・・・すぴ~…」

力の抜けたお嬢様の体から腕を解いて、私はお嬢様の部屋を後にします。



「おやすみなさいませ。」

明日はきっとマシな日になりますよね、お嬢様。

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