第18話 卒業

卒業式


顔と名前しか知らない知人の葬式にでも、出席してるようだ。

祝辞を読経のように、おぼろげに聞いていた。




友達に囲まれ、泣きじゃくる女子。

仲間との思い出を、集合写真に残す生徒たち。

笑い声と、卒業証書の筒が入り乱れている。

毎年繰り返される、人生でたった一度の日。


俺は、異なる世界を傍観した。

絵理香は、あちら側の人間なのだ。




もうこの場所に来なくても良いが、どこに行けば良いのか分からない。

塀の外で立ち尽くす、刑期を終えた受刑者のようだった。



これでいい。

俺は、この校舎にシミひとつ残さず去ればいいのだ。


生徒たちの喧騒が、玄関に遠く聞こえる。




俺の中で、何かが破れた。




卒業アルバム。

ゴミ箱に叩き込んで、蹴り倒した。

扉を開ける。


雲ひとつない快晴の青空が、鬱陶しかった。





卒業式の翌日、彼女に伝えた。


これからお互い、新生活で忙しくなるから距離を置こう。

言い訳のような、見え透いた嘘。


涙すらぬぐってやれない。

ごめん。

こんな日のために、出会った訳ではないのに。

最後まで身勝手な男だった。




君は大学に進学し、視界が開けた次の世界を見つけるだろう。


いつものように、興味を引くものを見つけると、最短距離で躊躇ちゅうちょなく突き進んでいくはずだ。


その世界で知り合う、様々な人達が君の進むべき道を示してくれるだろう。




俺などという男は、君には必要ない。

長い人生の中で、一瞬の刹那が交差しただけだ。

もっと君にふさわしい人が他にいる。

何度となく、心の中でつぶやいた言葉。



電話番号も、メールアドレスも、LINEも。

そして思い出の写真も、全て消した。

呆気ないものだった。

昔のように手元には、破る手紙すら無い。


俺達の間には何も残らなかった。




こんなしょうもない男なんか、消えちまえよ。

何度となく、心の中で叫んできた。







途切れた愛の物語 / 浜田省吾

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