第14話① 傷の共鳴

あなたという存在の中にあるもの

他の誰にもないそれが、私を温める






ビニールシートに並んで座る。

深夜でも、闇は時間ごとに濃度を変えてゆく。

ランタンの弱い灯りが、二人だけの境界線エリア




「私が初めて修を見かけた時のこと。

覚えてないよね。

階段を降りてくる修と、目が合ったの」


覚えてない。

いつの事なのか。


「はっとするほど、哀しい目をしてたの。

怒ってるのか、辛いのか、諦めてるのか。

今まで見たことがない表情で、これまで出会ったことも無かったの」



「何でそんな奴に声をかけようと思った?」


「私にも分からない。

けど、この人なら聞いてくれる、受け入れてくれるっていう予感だけがあったの」



俺も何故、放課後のスタバを断らなかったのか。

人には説明のつかない、シンパシーの共鳴というやつがある。


 


しばらく沈黙し、空を見上げた。

目を凝らすと、いくつかの星が見つかった。


「なんか色々、話を聞いてもらったね」


それでいい。

話すは離す、言えるは癒える。

傾聴の基本だ。





唐突に沸いた言葉を口にした。


「絵理香はアクティブ型、A5。

12タイプの中で最も行動的。

早さや強さを求め、即断即決で直情的、直感的。

前進あるのみで、行動しながら考える。

弱みを見せるのが苦手」


「行動パターン分析学?」 

「そう」



「三人兄弟の中間子は、家族内のバランサーを、無意識に求められがちだ。

それを君に求めるのは、酷だった。

生まれ持った特性と合っていない」


「なんで、分かるの?」

「同じだから」



俺はマインド型、M9。

思考・論理性が強く、フィーリング要素が12タイプで最も少ない。

対人協調より、唯我独尊を選ぶ。

検討や理解に時間をかけるため、決断が遅く、臨機応変も苦手。


空気を読んだり、細かな機微を察する人間ではないのだ。

俺は歯車をかけ違えたまま、無理をして破綻した。



『サイグラム』は、暗中模索な俺の人生に、大きな指標をもたらした、重要な存在なのだ。





俺の中にあるものを、全て出す事に決めた。



胸ポケットから抜いた。

最後の一本。

向かい合った。



「もし今、カーラがここに居たら、何と伝えたい?」



線香花火をかざし、火を着ける。


パチパチと弾けながら、光が上へ。

そして一定の形に定まり、細やかな火花を散らし続ける。

いつ尽きるのかは、分からない。


オレンジの光越しに、潤んだ絵理香の瞳。

ただ、息と指の動きを止め、光を凝視した。





「そばに いてほしい……」


線香花火の丸い光と、涙が地面に落ちた。


絵理香の背後に回り、座った。

抱きしめる。

絵理香が、俺の腕に顔を埋めた。




ビリーフチェンジセラピーの、一法である。


幼い頃に、置き去りにした感情に気付く事。

それで掛け違えたボタンの、スタートラインを知る事ができる。

それが本来の自分へと修正する、基準点となるのだ。




無言で髪をクシャクシャとした。 

ここにいるぜ、という兄ちゃんの合図。


俺は、そうされるのが好きだった。





Lost In The Darkness / 氷室京介

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