第8話 ランチ

あなたの目は一瞬で哀しみを帯びる

諦めが、そこにはあった




オーダーしたハンバーガーが運ばれた。

「美味しそう〜♪」

君はいつだって全力で感情を表現する。


美味しそうにむつく姿。

愛らしい小動物を見てるようだ。



『そっちも食べたーい』

俺のハンバーガーを差し出した。

「痛ってぇ!」

「ゴメン、指食べちゃった?」

「多分、まだ付いてるよ」


予測不能な君に、俺の何かが溶けていく。




俺は食べるのも早い。


カシャッ。 シャッター音。

「良い感じに撮れたよ♪」


モノクロの写真。

かつての誰かを写したような雰囲気。


肘をつき、拳を口元に当て、窓の外を見る横顔が、そこにはあった。

ずいぶん髪も伸びたな。

どこかで見たような。


助手席から見上げていた横顔。

俺はいつも気付くのが遅い。



「まるで太宰治だ。痩せぎすで、暗い部屋にこもって思索ばかりしてる男に見える」

「で、女たらしw」

「人間失格かな。俺はつまらなくて途中で放り出した」

「私は読んだよ」


彼女の引き出しには、何が詰まってるのか。




店を出る。


向かいにはボウリング、カラオケ、映画館、ゲームなどを取り揃えた、アミューズメント施設がある。



エレベーターの外の風景を眺める後ろ姿。

子供のようだ。

俺も兄ちゃんに、よく連れて行ってもらった。

懐かしい思い出が、フラッシュバックで蘇る。

五階で扉が開いた。



「ビリヤードやろうよ。私やったことないんだ」 

俺を置いて向かって行った。

苦笑。



君はいつでも、興味を引くものを見つけると、最短距離で躊躇ちゅうちょなく突き進んでいく。

アグレッシブなバイタリティに気圧される。



君はいつでも、と言えるほど俺たちの付き合いは長くない。

それでも俺には、そんな気がした。






永遠 Eternity / 氷室京介

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