第7話 日曜日  (第二章)

あなたの境界線は、傷を守るものだった

私は あと少しだけ、寄り添いたかった




待ち合わせ時間ちょうどを ” 間に合った ”とは 言わない。

15分前。

俺の予防線。



広場には、日曜の穏やかな幸せが流れている。

風まで柔らかい。

目を閉じ 空に向けて、ため息をついた。


無難な一日を、無事に遂行できるか。

そんな事ばかり考えていた。




行き交う人波の間に、君を見つけた。

視線が合い、君が手を振った。



” 素敵 " だった。

あまりに凡庸な表現だが、そうとしか思えなかった。

思い浮かぶのは、満面の笑み。

話をする時は距離が近い。


俺は、いつも気付くのが遅い。



長い首筋から華奢な肩。

しなやかな長い腕。

緩く流れるような背中から腰のライン。

小さな胸すら、シルエットの造形美を構成していた。

愛らしい表情と、全身のプロポーションのアンバランス。



「お待たせ♪ 早かったね」

「でもないよ」


タイトなワンピース、薄いカーディガン。

まとう周囲の空間に、きらめく粒子が舞っている。

どうして君は、いつも __



「また! ガン見しすぎしすぎw」

「スタイルが良い事に気づかなかった」


「全然!  私テニス部だったでしょ。

下半身を鍛えまくって、お尻と腿が太いから恥ずかしいよw 」

「まさか。それにも気づかなかった」


それも含めて、君というシルエットだ。

滑らかで豊かな曲線は、妖艶とすら思えた。



そっと彼女の腰に触れる。


高校三年間を、無難に終える事しか考えてなかった者と、

目標に向かって、毎日頑張ってきた人間との差が、掌に伝わってきた。



「そんな顔しながら、お尻触らないでよw」

「ごめん、つい思う事があって」

「こいつケツでけぇ!って思ったんでしょw」





「お昼、何食べよっか?」

「あそこはどうかな。 クア・アイナ」

既に数名が店先に並んでいた。



手が届く距離。

俺の警戒パーソナルスペース。


「あ、これ美味しそう♪修はどれにする?」


待つ間、ふたりでメニューを見ていた。

肩が触れ合っている。

正確にはぶつかっている、だ。

 


「制服とは雰囲気ちがうね」


ジャケット、スキニーパンツ。

無難で量産型の服しか選べない。

間違えないように、恥をかかないように。

そればかり考えている。



君はパーソナルスペースなど、お構いなしに突入してくる。

檻のような警戒心へ、君は手を伸ばし、俺を連れ出してゆく。

それが心地良かった。



俺はいつも気付くのが遅い。






GIVE ME ONE MORE CHANCE / 浜田省吾

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