第4話 プレイリスト

あなたの好きな曲を聴いた

悲しい歌と共振していた




紫の夕陽は、どこへ向かって沈んで行くのか。

遠い空を遮るビルの谷間に、それを見つける事は出来ない。



バスターミナル。


「私、あっちだから」

「じゃあ、ここで」

糸を引くように、指がほどける。

「また明日ね♪」



大きく手を振る彼女に、気恥ずかしく左手を挙げた。

また振り返り、手が振られる。

互いが見えなくなるまで、それは続いた。


君は、いつだって全力で感情を表す。



「いつだって、か」

今日の昼休み、初めて会ったばかりではないか。

苦笑した。




帰りの列車は、疲れをまといただずんでいた。


Spotify のプレイリストをシェアした。

暮れてゆく窓にもたれ、彼女のプレイリストを聴いた。

光の線が、飛ぶように過ぎ去ってゆく。



ストレートな恋愛ソングが好きな事。

がんばれと励ます様な、応援ソングが好きな事。

想定の範囲内であり、君らしかった。




俺はいつも気付くのが遅い。

そもそも何で、俺に声をかけたのか。

今日、話してみて尚更なおさら、異なる世界の住人だと、思い知らされた。


友達も多く社交的な君は、見かけるたびいつも輪の中心にいた。

異なる世界の住人で、人種すら違っている。

近付くほど、遠く感じた。




また彼女のプレイリストを、聴き直した。


何故、こんなものが。

唐突に悲しい曲が混じる。


見えなくなるまで手を振る、無邪気な笑顔が浮かぶ。

誰にも見せない、触れてはいけないものを見たような、戸惑いが胸を騒ぐ。






『修、おはよ〜♪ちゅw』 AM 6:52


朝から気恥ずかしい。

どうせ学校で会うのに。

ずいぶん早起きだな。

メッセージの送信時間にまで、知らない君が伝わってくる。



学校での関わりを、俺はあまり望まなかった。

渡り廊下で出会でくわし、少しだけ言葉を交わした。


エリカ、あれ誰?

友達っ

あっ… そうなんだ


薄い困惑の空気が、立ち去って行った。

分かっている。

彼女に関わるとは、そういう事なのだ。




『例えば、自信満々の恋愛など無いように、

求めるとは、常に自分の至らなさと、向き合わされるものである。


時に、不様ぶざまな自分を、見せつけられ、悔しさにまみれる事もあるだろう。


それを超えなければ、得られるものはない 』



いつか読んだ自己啓発の本に、書いてあったものだ。

俺はいつも気付くのが遅い。





虹 / 尾崎豊

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