第5話 通話
あなたは
一緒に立ち止まってくれる
でも、あなたの哀しみは誰も知らない
雨が街を包んでいた。
夜。
雨は良い。
何となくつぶやいた。
雲ひとつ無い青空など、俺には
LINE通知が鳴った。
『寝た?』 0:26 PM
『寝た』
『そっか、おやすみw』
俺は返信を出すのが苦手で遅い。
『眠れない夜、他に誰かが起きてたら、と思う事はないか』
不意に浮かんだ。
既読から、しばらくの沈黙。
『うん』
相手のニュアンスを感じ取るのは難しい。
そして、大抵こちらの予測は間違えてる。
返信しあぐねた。
『修、通話できる?』
『良いよ。少し待って』
立ち上がった。
自分の部屋を覗かれるような、焦りが湧いた。
壁にもたれて、通話を押した。
画面。
暗い部屋で、頭まで毛布を被っていた。
「ようこそ、エリカの館へ♪」
「こんばんは、占い師さん」
いつもの彼女だった。
どこかホッとした。
「起きてた?」
「この位の時間なら、いつも」
「二人っきりだね」
小声で話すと、夜に隠れているようだ。
彼女の話は、思い浮かぶまま
次々と話題が飛び、突拍子ないものばかりだった。
夏祭りで取った金魚を
近所の池に放流したら、忘れた頃に巨大魚に成長していたとか。
野球部から飛んできたボールを、ラケットで打ち返したら、野球部員の誰かの後頭部にデットボールしたとか。
満員電車で見つけて、思わず「あっ!ゴキブリ!」と叫んでしまい、車内がパニックに陥ったとか。
全く想像もしてないような、エピソードが飛び込んでくる。
そして、ひとしきり喋りまくる、無邪気な子供のようだった。
「君と一緒に歩いたら、どんなパニックに巻き込まれるのだろう」
「じゃ、日曜 どっか行こ♪」
やはり展開は、突拍子もなかった。
俺は何の話をしただろう。
今読んでいる小説『ロング・グッドバイ』の話や、行動パターン分析学の事などだった。
彼女の話題は経験が多く、俺の話は知識が多い。
人生から逃げ回ってる男の話は、薄っぺらい。
絵理香が分かりやすく、目をこすり始めた。
「こんな時間だ。もう眠いよね」
「ぜんぜん ねむくないょ……」
それは酔っ払いの常套句だ。
案の定、画面がブラックアウトして、かすかな寝息が聞こえてきた。
それは君の安心を聞いているようだった。
おやすみ。
切った。
余韻に浸ってる場合ではなかった。
課題を置いていかれた。
日曜日のデート。
いつも俺は気付くのが遅い。
愛という名のもとに / 浜田省吾
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