第3話 スタバ

あなたと話せた

自然と染み込んでいく安心感と

近づいてはいけない何かに触れた





「藤井さん、何にする?」

しゅう、それ禁止。” 絵理香えりか ”ね。トールラテふたつ♪」

俺の分まで、決めてしまった。



席を探す、後ろ姿を追った。

君の距離の詰め方が、性急だからか。

昔なじみと錯覚しそうになる。

名前以外、まだ何も知らない。




『学年いち可愛い子やギャルと、陰キャの恋愛』

男にとって普遍的な願望とも言える。


実際にはレベルが近く、共通項が多い者同士の方が、恋愛は成立しやすい。

格差は、困惑しか生まない。




カップを、ふたつ差し出された。

『シュウ』『エリカ』と書かれている。

余計なことを。

小学生が黒板に、相合い傘を書いたような、恥ずかしさが込み上げる。




「はい、これ」


ラテを渡し、隣に座る。

ウェーブがかった、ミルクティーブラウンの髪が、陽射しにきらめいていた。


ようやく落ち着いて、彼女を見る事が出来るようになった。

緊張してたのか。


やはり俺は気付くのが遅い。




「絵理香さんはハーフなの?」

「違うよ、よく言われるけど。それと ” さん ” も禁止w」



潤んだ、ライトブラウンの瞳。

大きく丸い二重。

大きな瞳と低い鼻の位置関係が、キティちゃんなど、キャラクターの比率に近い。

それが愛らしさを生んでいた。

厚く柔らかみを帯びた唇。


それらが、小さな丸顔に収まっている。

長い首筋から、華奢きゃしゃな肩のラインがきれいだ。


誰とも違う。

しいて挙げるなら、ラテンアメリカの少女。



「ちょっと!ガン見しすぎしすぎw」

口元に手を当て笑った。

君は よく笑う。 羨ましかった。


「ごめん、つい見入っていた」

「ゴメン多すぎw」



「部活、なにやってたの?」

「特に何も。帰宅部だったよ」

「私はテニス部。夏の大会で引退したけどね」



滑らかな薄い小麦色の肌。

所々が、赤みを帯びている。

元々は色白なのだろう。

二の腕の赤みに、そっと指を触れた。


「大変だったんだね」

「感想それ?w」

「ごめん、そう言うつもりでは」

「ゴメン大杉w」



「卒業後はどうするの?」

「大学進学予定だけど、どこに行けるかまだ分かんない」


俺は専門学校へ進む予定だが、今後どうなるか分からないも同然だ。



取りとめのない会話が続いた。

内容は大したことない。


話題が次々、斜め上にそれる君が楽しかった。

久しぶりの再会から、近況報告でもしてるような気分になった。




何を知っているかより、どれだけ波長が重なるか。

その方が大切だと気付いた。

俺はいつも気付くのが遅い。






失くした1/2 / 尾崎豊

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