2
「それでね、あかりちゃんがね、先生に怒られて…」
と、娘が学校であったことをべらべらと喋っている。スプーンは手に持ったままで、カレーは全く進んでいない。
「わかったわかった、早く食べな。」
と妻に注意されると、娘はようやく食べ始める。器に口をつけ、かき込むように急いで食べている。かっかっかっと、スプーンが器に当たる音が響く。娘は、
「ごちそうさまー。」
と、やたらと大きい声で言い、
「それでー…」
と、さっきの話の続きを始めようとするが、
「宿題やったの?」
と、妻に遮られた。娘は
「もうー。」
と不満を顔に出しながら、立ち上がり、2階の子供部屋へと向かう。足音が階段を駆け上がる。リビングは静かになる。
私は席を立ち、冷蔵庫からぶどうジュースを取り出し、氷を入れたグラスに注ぐ。
「なにそれ。ぶどうジュース?」
と、妻が言うので、
「うん。飲む?」
と尋ねると、彼女は黙って頷く。私はジュースを注いだグラスを妻に渡し、もう一つグラスを取り出し、それに自分の分を注ぐ。からからと、氷が鳴る。
テーブルに戻り、二人でぶどうジュースを飲む。妻が、ふと口を開く。
「ねえ、ゆいちゃんが、亡くなったって。知ってる?」
「いや。」
「車に轢かれたんだって。」
「え。本当に?」
「うん」
さっきスーパーで会ったのは、「ゆいちゃん」の母親ではなかっただろうか。人違いか。いや、そんなはずはないような気がする。
「娘が飲みたい飲みたいって…」と言い笑う彼女の顔が蘇り、頭から離れない。彼女のカゴには、ぶどうジュースしか入っていなかった。甘いジュースを飲み干し、残った小さな氷を口に含み、噛み砕いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます