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「それでね、あかりちゃんがね、先生に怒られて…」

と、娘が学校であったことをべらべらと喋っている。スプーンは手に持ったままで、カレーは全く進んでいない。

「わかったわかった、早く食べな。」

と妻に注意されると、娘はようやく食べ始める。器に口をつけ、かき込むように急いで食べている。かっかっかっと、スプーンが器に当たる音が響く。娘は、

「ごちそうさまー。」

と、やたらと大きい声で言い、

「それでー…」

と、さっきの話の続きを始めようとするが、

「宿題やったの?」

と、妻に遮られた。娘は

「もうー。」

と不満を顔に出しながら、立ち上がり、2階の子供部屋へと向かう。足音が階段を駆け上がる。リビングは静かになる。

 私は席を立ち、冷蔵庫からぶどうジュースを取り出し、氷を入れたグラスに注ぐ。

「なにそれ。ぶどうジュース?」

と、妻が言うので、

「うん。飲む?」

と尋ねると、彼女は黙って頷く。私はジュースを注いだグラスを妻に渡し、もう一つグラスを取り出し、それに自分の分を注ぐ。からからと、氷が鳴る。

 テーブルに戻り、二人でぶどうジュースを飲む。妻が、ふと口を開く。

「ねえ、ゆいちゃんが、亡くなったって。知ってる?」

「いや。」

「車に轢かれたんだって。」

「え。本当に?」

「うん」

 さっきスーパーで会ったのは、「ゆいちゃん」の母親ではなかっただろうか。人違いか。いや、そんなはずはないような気がする。

 「娘が飲みたい飲みたいって…」と言い笑う彼女の顔が蘇り、頭から離れない。彼女のカゴには、ぶどうジュースしか入っていなかった。甘いジュースを飲み干し、残った小さな氷を口に含み、噛み砕いた。

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