第28話

☆☆☆


スーっと頬を撫でられている感じがして僕は目を開けた。

白い天井と白いカーテンが視界に入り、次に体の重さに顔をしかめる。


手を動かそうとしてみたけれど、色々な管に繋がれているようで思うようには動かなかった。

まだ眠たくて意識もはっきりしない。


そんな夢の中をさまよっているような感覚の中「郁哉」と、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

一瞬親の声かと思ったけれど、視線を巡らるとそこには友達の姿があった。


「和彰、誠も……」

そう声を出したつもりがうまくいかなくて、ひゅーっと風が喉を通って出てきただけだった。

それでもそれは相手に伝わっていた。


「郁哉、久しぶり!」

誠が満面の笑みを浮かべて言った。

「久しぶりだね。転校先ではどう?」

「まぁまぁやってるよ」


肩をすくめてそう答えたけれど、僕はもう知っていた。

誠は転校なんてしていないこと。

ユリちゃんの気持ちがわかったから、安心できる場所へ旅立って行ったこと。


「和彰の心配事は幸雄くんだった?」

和彰はコクンと頷いた。

その顔はなんだか申し訳無さそうだ。


「ごめん。みんなで郁哉のことを利用した」

「そんな風に考えないで。僕は利用されたなんて思ってないから」

3人がいなければ僕は一人ぼっちになっていたかもしれない。


そっちのほうが、ずっと悲しくて寂しいことだと思う。

「功介のこともごめん」

そう言われてこの場に功介がいないことに気がついた。


「功介はどうなったの?」

「ほとんど悪霊化してたから、そのまま霧散したんだ」

功介の魂は天に召されることなく、灰になって消えた。

そう理解して胸がギュッと苦しくなった。


そうなってしまう前に、もっと自分にできたことはないだろうか。

「郁哉が気に病むことはないよ。功介は最後に郁哉を助けて消えたんだ。最後の最後にちょっとしか残っていない自我で動いたんだ」


誠の説明に、僕は落下していく途中で功介のカゲに抱き寄せられたことを思い出した。

功介は自分がクッションとなって、僕を助けてくれたんだ。

僕は傷だらけになった右手をあげてジッと見つめた。


「功介が助けてくれた」

だから僕は今こうしてここにいることができるんだ。


それを噛みしめる。

そのとき、窓から光が差し込んできた。

朝日みたいだ。


それはとても眩しくて、誠と和彰の姿が見えなくなるほどの光だった。

「ボクらもそろそろ行かないと」

誠が言う。


「もう行っちゃうの?」

これが最後のお別れだということがわかって、僕は目をこらしてふたりを見つめた。

ふたりは金色の輝く朝日に照らされながら窓へと向かって歩いていく。


「それじゃ。ありがとう郁哉」

和彰が手をふる。

「きっとまたどこかで会おうね」


誠が微笑む。

「ふたりとも……3人共! ありがとう!」

窓から外へと消えていくふたりの後方から必死についていくカゲを見た。


それは同じように天へと登って、最後には功介の姿になり、そして消えた。

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