第26話
☆☆☆
それからホームルームが始まっても功介も和彰も登校してこなかった。
功介はサボリ癖があると言っていたから、もしかしたらふたりしてサボっているのかもしれない。
それならそうと、僕にもひとこと言ってくれればいいのに。
ホームルームが終わって短い休憩時間になったとき、僕は席を立った。
ふたりが学校へ来ているかどうかだけでも確認しようと、昇降口へ向かおうと思ったのだ。
「探すな」
廊下へ出たところで淳が僕の前に立ちはだかった。
「え?」
「あいつらを探しに行くなら、やめとけ」
「なんでそんなこと言われなきゃいけないんだよ」
僕はさすがにムッとして言い返した。
友達のことを心配してなにが悪いんだと続けようとしたが、淳が先に口を開いた。
「誠と功介と和彰。あの3人は春のバス遠足のときに死んだ」
「は……?」
僕は唖然として淳を見つめた。
いくらなんでも言っていいことと悪いことがある。
あの3人が、僕と一番仲良くしてくれていた3人が死んだなんて、そんな冗談聞き流すことができない。
「なにふざけたこと言ってるんだ!」
僕は思わず淳の胸ぐらを掴んで怒鳴っていた。
淳は唇を引き結んで僕から視線をそらさない。
「3人共僕の友達だ。誠はおとなしくて恥ずかしがり屋。功介は頭に血が登りやすいけれど妹思い。和彰はみんなの中心みたいな人で、スポーツが得意。死んでたら、僕がこんなに彼らのことを知ってるわけがないだろ!」
唾を飛ばして怒鳴ると淳が僕の手を振り払った。
僕は肩で呼吸を繰り返す。
「これを見ろ。このニュース、見たことないか?」
淳がスマド画面を僕の目の前に突き出してきた。
『遠足バス横転。生徒3人死亡』
その見出しに僕の喉がヒュッと音を立てた。
『バスは山頂付近にさしかかったところでブレーキがきかなくなり、カーブを曲がりきれずに横転。崖下へ転落』
「嘘だ、そんな……」
体からすーっと血の気が引いていくのを感じる。
この事故は全国的にも有名になり、もちろん僕も前の学校に通いながら見たことのあるものだった。
でも、まさか、そんな……!
『死亡したのは大ヶ原中がこう2年B組の男子生徒3名。森岡誠さん、橋本功介さん、木下和彰さん』
3人の名前を読んだとき、視界が滲んだ。
ショックと悲しみでジワリと涙が浮かんできたのだ。
「嘘だ。こんなニュース嘘だ! 僕は、僕は3人と仲良くなって、友達で、だからっ」
パニックで自分でもなにを言っているのかわからなくなった。
目の前が真っ白になってしまいそうで、立っているのもやっとだ。
「お前、さっき教室で川に流されて死にかけたって言ったよな? 俺も同じような経験がある。小学校高学年のころ、海で溺れたんだ」
淳はそう言うと苦い顔を浮かべた。
当時のことを思い出しているのかもしれない。
「そのときからだ。なんとなくモヤみたいなものが見え始めたのは。そのモヤは死んだ人間の魂がさまよっているものだってことが、だんだんわかってきた。モヤは人の形をしてあちこちに存在してたからだ。つまり俺がモヤみたいに見えているものは、すべて幽霊だってな。だからモヤをみても絶対に自分から近づかないようにした」
そんな話を聞いてもまだ信じられなかった。
あの3人がもう死んでる?
思い返してみれば、3人は僕以外の生徒たちと会話していなかったかもしれない。
授業のときも、先生に当てられたことはなかった。
給食のときはどうだった?
食べている姿を見た覚えはない。
僕は自分の見たいものだけを見てきたから、都合の悪いことは頭の中からすっぽりと抜け落ちてしまったようだ。
「なぁ、お前が新潟で川に流されたのはいつ頃のことだ?」
「……転校してくる2週間前」
そこから僕の力はついたのだろう。
淳は納得したように大きく頷いたのだった。
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