第25話 春のバス遠足
翌日になると顔の腫れは良くなっていてどうにか登校できそうだった。
昨日午前と午後で2度も人助けをしたことを知り、父親はすごく喜んでいた。
だけど無茶なしないようにと、しっかり釘を刺されたところだった。
「行ってきます」
いつもどおりの時間に家を出て、学校へ向かう。
空には大きな入道雲が浮かんでいて、まるでひとつの島国みたいにみえる。
その上に見知った顔の人が乗っているような気がして、僕はギョッとして足を止めた。
だけど目をこらしてジッと見てみても、もちろん雲の上に人が乗っているわけがない。
僕はくすっと小さく笑って、視線を前方に戻して再び歩き出したのだった。
☆☆☆
「あれ、まだ誰も来てないのか」
2年B組の教室前方から中にはいると、いつも先に来ている和彰の姿がなかった。
功介も相変わらず来ていなくて、僕は少しさみしい気持ちで1人席についた。
「あ、おはよう」
か細い声が聞こえてきて視線を向けると、ユリちゃんが入ってきたところだった。
「おはよう」
と笑顔をで返すと、ユリちゃんはパッと笑顔になって「よかった、ちゃんと挨拶できて」とつぶやいた。
「なにそれ?」
と聞けば照れたように笑って「真崎くんに挨拶するの、はじめてだから」と言った。
そういえばそうだったかもしれない。
僕はいつでもあの3人組に囲まれていたから、他の生徒たちはまだあかり接点がない。
淳だけはなぜか僕に嫌がらせをしてくるけれど。
「真崎くんってどういう人なのか気になってたんだけど、なかなか話しかけられなくて」
僕はコクンと頷いた。
ユリちゃんは人見知りなのかもしれない。
「僕の父親は転勤族だから、もう何度も転校してるんだ」
「それってすごく大変なことなんじゃない?」
「大変だけど、各地に友達ができるのは楽しいよ?」
僕のスマホには沢山の友人たちの連絡先が入っている。
それはきっと普通の中学生に比べるとかなり多いはずだ。
「へぇ、それって素敵!」
ユリちゃんの目が好奇心に輝く。
だから僕は各地でできた友達とのエピソードを聞かせてあげることにした。
「新潟で出会ったのはよく日焼けした亮太って子で、亮太は川釣りが得意だったんだ。僕も何度も一緒に遊びに行ったんだけど、1度亮太が川に流されたことがあるんだ」
「嘘! 大丈夫だったの?」
「あぁ。だけど僕が咄嗟に飛び込んだことで事態は悪い方に向かって、あやうくふたりとも溺れてしまうところだったんだよ」
「誰が助けてくれたの?」
「川の中州あたりに偶然突き出た岩があって、ふたりともそこに服がひっかかって止まったんだ。それを地元の人が見つけて、助けてくれた」
あのときは親からこっぴどく叱られたんだっけ。
思い出して苦笑いを浮かべる。
そんな亮太とは、今でも週に1度は電話をしている関係だ。
「そんな経験があったのか」
突如後方からそんな声が聞こえてきて僕は驚いて振り向いた
そこに立っていたのは淳だ。
淳はいつもの険しい表情で僕を見ている。
「あ……おはよう淳」
一瞬たじろいだものの、僕は笑顔を浮かべる。
淳の睨みつけて言えるような表情は生まれつきだと、もうわかったからだ。
「おう」
淳は短く返事をして自分の席へと向かったのだった。
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