第22話

☆☆☆


体育の授業が終わったあとは何事もなく時間だけが過ぎていった。

このまま怪異に出会うことなく帰れるだろうと思っていたとき、またも異変が起こった。


「校長室のモナリザが1年生の子に噛み付いたんだって!」

6時間目の授業が始まる前、顔を真っ青にした女子生徒がクラスに飛び込んできた。


その生徒は普段とてもおとなしくて、こうして大きな声を上げたのをみるのは初めてのことだった。

僕は他のクラスメートたちに混ざって校長室へと急いだ。


「校長室のモナリザっつっても、あれは本物じゃねぇのになんで」

と、淳がブツブツとつぶやいている。


「本物かどうかは関係ないんじゃない? ガイコツの模型だって本物の骨じゃないのに動いたんでしょう?

「それもそうか」


校長室の前まで来るとそこには人だかりができていた。

その真ん中でうずくまっている男子生徒の姿が見える。

「あの絵が突然飛び出してきて、俺に噛み付いてきたんだ!」


そう言いながら校長室に飾られているモナリザを指差す。

その子の腕は歯型のようなあとがクッキリと残っていた。

「モナリザ……あれか」


絵画へ視線を向けるとたしかに壁にモナリザの絵が飾られていて、その口元には赤い血が滴っていたのだった。


☆☆☆


校長室のモナリザが男子生徒を襲ったという話はまたたく間に学校内に広まった。

そして口元に血のついた絵を見た生徒たちの何人かが気分を悪くして早退する事態になってしまった。


6時間目の授業と部活動は急遽取りやめになり、生徒たちはみんな帰宅させられることになってしまった。

「やっぱり変だよ。1日でこんなに沢山の怪異が起こるなんてさ」


和彰と共にカバンを持って教室を出る。

いつもより早く帰れることが嬉しいはずなのに、僕の心は重たく沈んでいた。

「確かに変だけど、でもどうしようもないだろ?」


和彰はあいかわらず怪異に関してあまり興味がないように見える。

和彰だって同じように怖い目に合っているのにどうしてだろう?

そう思いつつ一緒に外へ出たとき、見たことのない男子生徒が3人の生徒たちに囲まれているのが目に入った。


「金持ってこいつっただろ!」

「も、もうお金はないんだよ」

「ないなら親から盗んで来いよ! できるだろ!?」

「そんな!」


そんな言い争う声が聞こえてきて僕は思わず足を止めてしまった。

見て見ぬ振りをして通り過ぎることがどうしてもできなかった。

「今日金持って来なかったら一発ずつ殴るって約束だったよな?」


「そ、そんな約束してない!」

「うるせぇ!」

1人が拳を振り上げた瞬間、僕より先に和彰が前に出ていた。


「やめろ!!」

と怒鳴り、拳を振り上げる男子生徒の前に回り込もうとする。

けれど男子生徒は少しも気にする素振りを見せず、その拳を1人怯えている男子生徒の頬に叩きつけたのだ。


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