第21話

☆☆☆


まさか自分が幽霊を見るなんて!

生まれてはじめての経験にまだ心臓がドキドキしている。

「郁哉、大丈夫か?」


心配して声をかけてくれたのはやっぱり和彰だった。

和彰の顔を見ると僕は安心できる。

「大丈夫だよ、和彰は平気?」


「俺もビックリしたけど、でも平気だ」

「そっか、よかった」

花子さんの姿が消えてから少し経つから教室内も落ち着きを取り戻しつつある。


「次は体育だから、そろそろ準備しようか」

和彰に言われて僕は机の横にかけてある体操着袋を手に取り、立ち上がったのだった。


☆☆☆


本当は真面目に授業を受けている気分じゃなかったけれど、午前中も休んでしまった僕は言われるがままに体育館へやってきていた。


体操着に着替えていたのが僕と和彰だけだったのが少し気がかりだけれど、時間割が変わったとは聞いていないから、きっとみんな後から来るだろう。

「昼ごはんの後に体育って、結構きついよなぁ」


「本当だよね。体が重たくて動かないよ」

そんな話をしながら体育館の重たい扉を開けると、ダンダンとボールを打つ音が聞こえてきた。

なんだ、誰かが先に来ていたみたいだ。


そう思って中を覗いてみると、1人の男の子がバスケットボールで遊んでいた。

「やぁ、早いね」

そう声をかけながら体育館へ足を踏み入れた瞬間、僕の全身に寒気が走った。

こんなに暑いのに一瞬にして手足の先まで冷たくなる。


その変化に驚いて立ち止まっていると、ボールを持った男の子がゆっくりと振り向いて僕を見た。

確かに僕を見たはずなのに、その顔は全体的にぼやけて見えて、目や口がはっきりと見えない。

更にその子の両足が透けていることに気がついたのだ。


「お、おばけだ!!」

僕は叫んで後ずさりをする。

和彰が隣で息を飲み、そして僕の手を掴んで体育館を出た。


すぐに和彰が扉を閉めてくれたけれど、その隙間から冷気が流れ出しているようだった。

「い、いまの見た?」


「あぁ、足がなかった」

和彰が信じられないといった表情で体育館の扉を見つめている。

これが淳が見たと言っていた体育館の幽霊で間違いなさそうだ。


まさか昼休憩時間中にふたつの怪異に出会うなんて思ってもいなかった。

扉の前で立ち尽くしていると、ようやく他のクラスメートたちがやってきたのだった。


☆☆☆


他のクラスメートたちがやってくると体育館の幽霊はスーッと景色に溶け込むように消えていった。


それでもここで授業を受ける気にはなれず、僕と和彰のふたりは体育を休んで教室で自習をすることになった。

「みんなが見た怪異って全部本当だったんだね」


僕は数学の教科書を開いていたけれど、全然頭に入ってこなかった。

和彰も同じようで、国語の教科書はただ机の上に開いて置かれているだけだった。

僕はまだ見たことがないけれど、科学室のガイコツが動いたというのも本当のことなんだろう。


「どうして小学校で流行ってるような七不思議が中学校で起こってるんだと思う?」

「さぁ? 同じ学校だからじゃないか?」


和彰は首をかしげて、あまり興味なさそうな表情で答えた。

「淳はまるで僕が原因でこうなった、みたいなことを言ってたんだ」

「そんなわけないだろ。あいつは怖がりだから、理由を見つけたいだけだって」


「でも、僕がこの学校に転校してきてから怪異が始まったらしいじゃない? それって本当?」

「知らないよ。そんなに気にすることじゃないって言ってるだろ?」

和彰が珍しく苛立った様子で声を荒げた。


それに驚いて僕は黙り込んでしまう。

「ごめん。本当に郁哉が気にするようなことじゃないって」

和彰は優しい声でそう言い直したけれど、僕の胸の中には嫌な予感が渦巻いていたのだった。


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