第20話 怪奇現象勃発

正直淳から聞いた話は半信半疑だった。

僕には霊感なんて無いし、今まで体育館の幽霊も花子さんも見たことがなかったから。


もちろんそういう学校の七不思議は知っていたけれど、ただそれだけだ。

「先に教室に戻ってて。ちょっとトイレに寄っていくから」

和彰に声をかけて男子トイレへ向かう。


相変わらず昼休憩時間だとは思えないほどの静けさだ。

確かに、こんな静かな中で1人でトイレに入るのは少し怖い気もする。

だけど今は放課後や夜中じゃないし、気にしすぎなければ大丈夫だ。


それでもちょっと警戒しつつトイレのドアを開ける。

中はガランとしていてすべての個室のドアが開いている。

「ほら、なにもないじゃないか」


僕はホッとしてつぶやき、用を足して個室から出た。

手を洗い終えたときハンカチを忘れてきてしまったことに気がついた。


今日は朝から慌てて出てきたせいだ。

仕方なくズボンに自分のての平をこすりつけながら振り向いた、そのときだった。

さっきまで誰もいなかったトイレ内に女の子が立っていたのだ。


「うわぁ!!」

驚いてその場に尻もちをつく。

ひやりとした床の感触が伝わってきても、すぐに立ち上がることができなかった。


「あーそーぼ」

女の子は白いブラウスに赤いスカート、そしておかっぱ頭だ。


それは話で聞く花子さんの姿そのものだった。

だけど一番驚いたのは女の子の体が透き通っていて、後の個室が見えていたことだ。

「で、出た!!」


僕は叫んで崩れ落ちそうになりながらも必死で外へと飛び出した。

そして転がるようにしてトイレから離れる。

「どうして逃げるの?」


女の子がの声が僕を追いかけてきたかと思うと、男子トイレのドアが開いてさっきの女の子が姿を見せた。

その姿を見た生徒たちが悲鳴をあげて教室へ逃げ込んでいく。


「は、花子さんが……!」

僕はガクガクと足が震えてそれ以上逃げることができなかった。

廊下に座り込んで近づいてくる花子さんをジッと見つめる。


「あーそーぼ」

花子さんの楽しげな声。

そして僕の方へ伸ばされる細くて白い両手。


このままじゃトイレにひきずりこまれてしまう!

どうしようもなくてギュッと目を閉じたとき「なにしてんだ!!」と、怒鳴り声が聞こえてきて僕の腕は引っ張られていた。


その手に引きずられるようにしてB組の教室へ入ると、すぐにドアが閉められた。

「もう少しだったのに」

花子さんの悔しそうな声が聞こえてきてゾッと身震いする。


「あんなところで座り込むやつがいるかよ!」

僕を罵倒したのはギリギリのところで助けてくれた淳だった。

淳は額に汗をにじませて、切羽詰まった表情をしている。


「ご、ごめん。腰がぬけちゃって」

今でも立っているのがやっとだ。

「でも、これでわかっただろ? 俺は嘘はついてねぇって」


「う、うん。よくわかったよ」

僕は何度も頷いて、それから教室内を見回した。


みんな青ざめた顔でうつむいたり、こそこそ話をしたり、涙目になったりしている。

みんなにもさっきの花子さんが見えていたんだ。

「霊感とか、関係ないみたいだね」


「あぁ、そうだ。普段はなにも見えないやつらもみんな見えてる」

淳が険しい表情で言う。

まだ話をしたかったけれど、淳はそれだけ言うと自分の席へと戻っていってしまったのだった。

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